喪女がヒロインに転生しましたが、全然上手くいきません!?
入学式が始まる前の時間。
学校の裏庭の噴水の近く。
よし、時間と場所は攻略サイト通り。
あとはイーサン王子がここを通り掛かったら、このハンカチを落とすだけ。
私の名前はグレース・ハリントン。
地方にある子爵家の娘で、なんと言ってもこの世界の『ヒロイン』というやつなのだ。
入学案内でこの学園の名前を目にした時、私はパチッと前世の記憶を思い出した。
私が今過ごしているこの世界は、とある乙女ゲームの舞台であり、なんと私がヒロインなのだ!
それに気づいて舞い上がっている私を、両親は変な目で見ていたが、この後のバラ色学園生活を思えば、そんな目は全く気にならなかった。
いやぁ、魔法の練習しておいて良かった!
元々前世でも引きこもってゲームに熱中していた私にとって、魔法の練習は楽しいものだった。
「引きこもって」「熱中」するものという点で似ていたからである。
小さな子爵家の出だから有名でこそ無いが、この学年の中だったら1、2を競うくらいには魔法が使える自信がある。
「……!」
イーサン王子が来た!
私はそっと木の影から出て、いかにも今来ました風を装い王子の前に足を踏み出す。
そして風魔法の力を少し借りつつ、「うっかり」ハンカチを落とした。
さぁ、これで完璧。
出会いのシーン完全再現よ!
「……」
「……」
王子はスっとハンカチを拾ったものの、私の顔を見て一瞬固まった。
何故か困惑の色が広がっている。
そこは照れるところじゃないの!?
なんて内心では思いつつ顔には出さない。
えっとこの後は……そうだ、ヒロインが笑顔でお礼を言うんだった。
「あ、ああありがとう、ご、ございますっ」
前世も今世も引きこもりで、人とのコミュニケーションが苦手な私は、思わずどもってしまう。
笑顔も作ったはいいものの、口元がピクピクしているのが分かる。
王子は私の言葉を聞いて、さらに眉を顰めたように見える。
「いえ、気にせず。入学式の会場は向こうだ」
王子はそう言い残して裏庭の奥へと消えていった。
残されたのはハンカチを受け取ったまま、呆然と立ち尽くす私ただ1人。
「一緒に会場まで戻りましょう」って言って仲良くなる展開は何処に行ったのー!?
◇◇◇
学園に入って1週間。
悲しいことに、私は前世の喪女属性を引き継いでしまっていることに気がついた。
乙女ゲームのヒロインであるグレースは、その飛び抜けて可愛らしい容姿と、そこそこの魔法の腕前と、持ち前の明るい性格があったからこそ、小さな子爵家の出でも注目されていたのだ。
それらが揃っていなければごく一般の子爵令嬢。
イーサン王子を初めとした、身分の高い攻略候補の目にもかからない。
寧ろ、私の見た目は周りと比べるとかなり酷い。
ヒロインなんだから磨けば光るのだろうけれど、喪女の私にはその肝心な磨き方がわからない。
今まで領地に引きこもっていた私は、おしゃれについて何も知らないし、ましてや他のクラスメイトとの交友関係もない。
クラスメイトは、私にどう接すればいいか分からないといったような態度だが、王子ら攻略候補達はあからさまに私を蔑む目をしているのに気がついてしまった。
この前なんてすれ違う時に王子達が、
「あんなに田舎臭い令嬢もこの学園に入学出来るんだな」
なんてヒソヒソ話しているのも聞いてしまった。
そして私はようやく現状に気づいたのだ。
「もしや私……ヒロイン生活詰んだのでは?」
裏庭の奥のベンチで、口に入れたサンドウィッチを飲み込んでから呟いた。
勿論、クラスで浮いている私にはお昼休みを共に過ごす仲間はおらず、こうして裏庭でこっそりご飯を食べている。
これ以上浮いてはいけないと思い、先程の魔法演習のクラスでは実力の4分の1程しか出さなかったが……最早そんなことをしようとしなかろうと……同じかもしれない。
「はぁー……なんでこうなっちゃったかな」
本来なら、裏庭で魔法の特訓をしていたらイーサン王子が現れて手伝ってもらうイベントがあったのに!
そんなもの起こりやしない。
それどころか、王子には嫌われている始末だ。
サンドウィッチも食べ終わったので、魔法で数体の土人形を作り出し、それを風魔法で踊らせるという時間の無駄遣いをしていた。
ちょうどその時だった。
「え! すごい! どうやって操っているの?」
もしかしてイーサン王子!?
と思って振り向くも、そこに居たのはすらっと背の高い美人さんだった。
よくよく考えれば、その子の声は女性にしては低めなものの、イーサン王子の声とは似ても似つかない。
乙女ゲームのヒロインであったはずなことを、まだ忘れられずにいるから、そう聞こえたのかもしれない。
私がそんなことを考えている間にも、彼女はグイグイこちらへ身を乗り出して質問を重ねる。
「私、クリスティーナ・リーガンって言います、あなたのクラスメイトで……そう、だからさっきの魔法演習も一緒に参加していたのよ。でも、こんなに高度な魔法なんて使っていなかったわよね?」
「え、は、はい」
私があまりに喪女すぎるせいで、派手に魔法を使わなかったにも関わらず、皆の注目を集めていたのか……
それにしても、貴族の交流なんて全く興味がなかったから、リーガン家なんてよく知らないぞ?
いや、そもそもリーガン家どころか、攻略対象の情報くらいしか持っていないけど。
「それに無詠唱で魔法使ってるのね! もしかして先生よりも魔法上手なんじゃないの?」
「え、えぇ……そこまででは、ないと思い、ますよ……はは」
私の乾いた笑いには気が付かないのか、それとも無視をしているのか、彼女は私の隣に座り、
「もっと色々見せてくれないかしら?」
と、せがんできた。
ちょっと変わった子だけど、学園に入学してから初めて話しかけてくれたクラスメイトだ。
……友達になってもらえるかもしれない。
「いいよ」
私は土人形を踊らせたまま、今度は水魔法で近くに氷のお城を作る。
その周りに土魔法で色とりどりの花を咲かせると、彼女はその美しさに言葉を無くしたようだった。
「……こんなに素敵な魔法を使える人、初めて見たわ! 貴方って本当にすごいのね、1つのことをここまで極められるなんて……努力の天才だわ」
……努力の天才、か。
「あ、ありがとう」
「そういえば、まだ名前を聞いてなかった。なんて言うの?」
「私は……グレース・ハリントンです」
「グレースって言うのね。お昼はいつもここで食べているの?」
「え、まぁ、うん」
「じゃあ私もお昼ここで食べてもいいかしら?」
こんなに美人だったら、教室に友達が沢山いるだろうに……それでも私に構うなんて、変わり者すぎる。
みんなから見たらきっと私も変わり者なんだろうけど。
「……うん。一緒に食べよ」
「やったー! また魔法見せて頂戴!」
そう言って、彼女は前髪に隠れている私の目を見つめながら、私の手を握ってブンブン上下に振った。
そして、何故かハッとした顔になる。
「よくよく見たら……磨けば光りそうな顔してるわね」
よくよく見たら……って!
ちょっと失礼じゃない!?
なんてことは口に出さず、
「え、そ、そう? ちょっとおしゃれとか、よく、分からなくて……」
と返す。彼女はしげしげと私を見つめたあとに頷いた。
「そうだったのね。じゃあ、私が魔法見せてもらう代わりに、貴方を可愛くしてみせるわ! 友達になりましょ!」
あまりに直球でグイグイ来る彼女に押されながら、そんな約束をして友達になったが……案外満更でもない自分がいた。
だってクリスティーナは本当の私の内面を評価してくれたから。
「努力の天才」と言って。
◇◇◇
クリスティーナ……いや、クリスはリーガン伯爵家という、隣国の近くに領土を持つ家の次女だそうだ。
あれから私達は毎日のように裏庭に集まっては、魔法を使ったり、おしゃれについて教えて貰ったりした。
そのおかげか、見た目が良くなったのは勿論、クラスメイトとのコミュニケーションにも慣れてきている。
そして、そのタイミングでクリスは教室でも私に話しかけて来るようになり、私にも友達が増えてきた。
「ごめんね、少し話しかけづらくて……」
と、入学当時の態度を謝ってくれる子もいて、私は必死に「謝らなくていいよ」と、首を横に振るのだった。
全部クリスのおかげだ。
それにも関わらず、私は何も彼女に返すことが出来ていない。
ただ魔法を教えているだけだ。
なぜこんなにも世話を焼いてくれるのか。
疑問に思いつつも、学園に入ったばかりの頃には考えられなかった幸せな生活を送っている。
が、
1つ問題があった。
「グレース嬢、一緒に屋上へお昼ご飯を食べようか」
今日も今日とて、教室まであの王子がやって来る。
今の私は、見た目は人並みかそれ以上に、人とのコミュニケーションもまぁまぁ慣れてきて、そして学年1魔法が使える。
やっと乙女ゲームのヒロインになったからか、イーサン王子がやたらと私に絡んでくるようになったのだ。
……この前まで私の事なんて蔑んでいたくせに。
「お昼は……友人と食べる約束をしているので、」
「そうなんだね。じゃあ明日はどうかな?」
「……」
しつこい。
私がどうやって断ろうかと悩んでいると、クリスが教室の中から私達の方へ駆け寄ってきた。
「グレースが困っているじゃないですか。そんなに誰かとご飯を一緒に食べたいなら、私がご一緒しましょうか?」
クリスは本当に女性にしては背が高く、イーサン王子と同じくらいで、さらに美人だから圧が強い。
だからだろうか?
その迫力に負けた王子は、悔しそうな顔をして教室から立ち去って行った。
「ありがとう、クリス」
「お礼を言われるほどのことじゃないわ。全く、このくらいで怯むなんて、この国の王子は軟弱者ね」
そう笑っているクリスがあまりにもかっこよくて、思わずときめいてしまった。
まさか、憧れていた攻略候補の王子より、伯爵令嬢の方がかっこいいなんて。
お付き合いするならクリスみたいな人がいいな……まぁクリス自身は女の子だけど!
その後も私が王子に何かと絡まれる度に、クリスがどこからともなく現れて、私の事を連れ出してくれた。
私に嫉妬した令嬢たちに校舎裏へ呼び出された時も、助けに来てくれたのはクリスだった。
乙女ゲームでは攻略候補が助けに来てくれるはずなのに。
私は不思議で仕方なかった。
ただの友情でここまで良くしてくれるだろうか?
そこで私はとある考えに行き着いた。
「クリスが王子のことを好きなのではないか?」
と。
ただ私を助けるために、私の事を王子の目の前から連れ出しているにしては、ただ王子と一言二言世間話をする時にもクリスは現れるので辻褄が合わない。
だが、私とイーサン王子が仲良くなって欲しくない……という理由なら頷ける。
そして、何故仲良くなって欲しくないかといえばやはり、そこには恋愛感情があるだろう。
クリスって意外とツンデレなんだ。
でもそれじゃあイーサン王子に想いは伝わらない。
本当はクリスをあんな王子に取られたくなかったが、恋は盲目というやつなのだろう。
私のことを沢山気にかけてくれたクリスへの恩返しをするために、ここは一肌脱ぐか。
そう決めるや否や、私は毎日やってくるイーサン王子のお昼ご飯の誘いを受けることにした。
名付けて、「クリスの良いところを王子に吹き込もう作戦」だ!
いつも通り私とイーサン王子の間に割って入るクリスに、
「いつも断ってばかりだから、今日は一緒に食べることにするわ」
と言うと、クリスはショックを受けたような表情をした。
ごめんね、でもクリスの為だから!
私とイーサン王子の間では何も起こらせないから安心して!
そんな目で彼女を見つめ返すと、
「グレースがそう言うなら……」
と、トボトボ友人達の元へ帰って行った。
その姿に心が痛くなる。
必ず作戦は成功させないと。
私がイーサン王子の方に向き直ると、彼は早速話しかけてきた。
「誘いを受けてくれてありがとう、やはり君は優しいな」
近寄ってくるイーサン王子と距離を取りながら、クリスを褒めてみる。
「私なんかよりクリスの方がずっと優しい子なんですよ。私に色々な事を教えてくれて
「『私なんか』だと? グレース嬢は謙遜もできる素晴らしい令嬢だな。愛らしい見た目に魔法も使えるというのに……あぁ、独り占めしてしまいたいよ」
しかし何故か私を口説く言葉に変わってしまう。
何回かチャレンジしてみたが結果は同じだった。
これが乙女ゲームのヒロインの力か……
こんな力、もう要らないのに。
◇◇◇
それでも私は1週間、王子の誘いを受け続け、屋上で一緒にご飯を食べた。
昼ご飯以外でも、街へ買い物に行こうだとか、生徒会室に案内しようだとか、王宮へ遊びに来ないかだとか、色んな誘いを受けたが、受けたら最後どうなるかわかったものではないので、頑張ってひたすら断った。
そして私は気づいた。
残念だけど、クリスの恋は諦めてもらうしかないことに。
正直クリスには他にもっと良い人が沢山いると思うし、諦めた方がメリットが多いはず。
もし私が男なら絶対クリスを幸せにしてみせるのに……なんてね。
そうと決まればもうイーサン王子の誘いを受ける必要も無い。
というわけで、王子とお昼ご飯を一緒に食べている今、これからはもう誘いにはのらないことを伝えないといけない。
「……あの、イーサン様?」
「なんだい、グレース」
呼び捨てで呼んでいいなんて言った覚えないけど……
という文句は飲み込む。
今は「もう誘わないで欲しい」と伝えるのが先だ。
「ちょっとお話があるのですが、
私がそのまま本題に入ろうとするものの、王子は私の言葉を遮る。
「待ってくれ。それは俺から言わせて欲しい!」
何を言わせて欲しいのかさっぱり分からない。
明らかに困惑の表情を浮かべた私が見えないのか、王子はゆっくりとした動作で私の前に跪いた。
……なんかこの光景見たことあるな……何だっけ?
「グレース、俺と付き合ってくれないか?」
……。
えっ!?
何故!?
明らかに私が王子には恋愛感情持ってないこと、わかってるよね?
しかもまだ話すようになってから1週間しか経っていないのに、早すぎやしないか?
そこで私は、この既視感の正体に気がついた。
屋上。
2人きり。
王子が跪く。
これは……乙女ゲームで、王子がヒロインに告白するシーンだ。
想定外のイーサン王子の言動に言葉を失っていると、彼は私が告白を受けたと考えたのか、嬉しそうに微笑んだ。
「声も出ないほど喜んでくれて嬉しいよ。もっと早くに言えばよかった……」
「ま、待って下さい! 私、あなたとお付き合いするなんて一言も
「照れなくていいんだよ。今日から君は僕のものだし、僕は君のものだ」
前世では繰り返し聞いてときめいていたセリフも、今は恐怖しか感じない。
「……グレース、好きだ」
この後、ゲームではどうなるんだっけ?
キスをするんだっけ?
そう思った時には、彼と私の距離はどんどん縮まりつつあった。
……やだ。怖い…………
「離れろ!」
突然屋上の扉が蹴り破られ、聞いた事のあるような声が耳に入る。
それは、クリスだった。
彼女は無言でスタスタと私の元へ向かってきて、そのままフワリと私を持ち上げる。
いわゆるお姫様抱っこだ。
クリスってすごく力持ちなんだ……なんてぼんやり考えていると、彼女は王子に向かって静かに低い声で話しかける。
「グレースは僕のものだから。僕が先に見つけたんだ! 人を見た目で判断するようなやつには渡さねーよ、馬鹿王子」
そして呆然として何も言い返せない王子を一瞥すると、蹴破った屋上のドアから校舎内へ戻る。
私をお姫様抱っこしたまま。
階段をくだり、クリスが目指す先はどうやら専科校舎のようだ。
途中、何人かの生徒とすれ違ったが彼女はお構い無しにグングン進んでいく。
こうして私達はお互い無言のまま、専科校舎の空き教室にたどり着いた。
「……」
まだ無言のまま、しかし優しく、彼女は私を椅子の上に下ろす。
抱かれている間は見えなかった彼女の顔は、申し訳なさでいっぱいになっているように見えた。
「……グレース、ごめん。邪魔をして」
「どうして謝るの……私の事、助けてくれたんでしょう? 寧ろ私がお礼を言わなくちゃいけないわ……ありがとう」
「でも、なんだかいい雰囲気だったじゃないか」
「いや、一方的に迫られていただけよ」
「……そっか。良かった」
クリスが安心したように呟く中、私はクリスから感じるいくつかの小さな違和感を、必死に繋ぎ合わせようとしていた。
いつもと口調が違うこと。
仕草が令嬢っぽくないこと。
声がいつもより低いこと。
そして、何よりもイーサン王子に向かって馬鹿と言ったこと。
もしかして、クリスはイーサン王子のことは好きでは無いのか?
でもそしたら何故、イーサン王子と私にいつも割って入ってきていたのだろうか?
今日だってそうだ。
私が悶々と悩んでいると、クリスは隣の椅子に腰をかけて、私の方へ向き直った。
「……グレース、あのさ」
「急に改まって、どうしたの? クリス」
「グレースは、イーサン王子のことは好きじゃないんだよね?」
「う、うん」
寧ろ苦手だ。
「じゃあ、僕のことはどう思ってる?」
「クリスのことは大好きよ。だって、私の1番の友達だもの」
「……そこに恋愛感情はあったり、しないかな……? 僕は、グレースのことが……好きな事に夢中になるグレースが、恋愛的な意味で好きだから、付き合って欲しいんだけど」
彼女の目は至って真剣だ。
クリスが私の事を好いてくれている!?
恋愛的な意味で。
私はどうなんだろう?
クリスのことは……
最初は確かに仲の良い友達だった。
でも、沢山気にかけてくれて、困っている時にはすぐに助けに来てくれる。
そんな、かっこよくて優しいクリスにときめいた瞬間は数しれない。
あぁ、
私は
クリスのことが好きになっていたのか。
だけど、
「私も、クリスのことが……その、そういった意味で好き。でも、令嬢同士でお付き合いだなんて、この国では許されないわ」
私の言葉を聞いて、何故か彼女はこの上なく嬉しそうな顔をする。
そして、驚きの事実を口にした。
「それは心配しなくて大丈夫だよ。実は僕、男だから」
「……!?」
「気が付かなかった? 屋上でうっかり口調と声が変わっちゃったから、もう隠す必要も無いかなって思っていたんだけど」
「えぇー!?」
信じられないという叫びをあげた私に対して、
「証明してみせようか」
と言ってウィッグを外し、服まで脱ぎ始めたので慌てて彼を止める羽目になった。
◇◇◇
翌日、彼女は……ではなく、彼は、本来の姿のままで学園にやってきた。
サラサラの金髪で背が高くすらっとしたその姿は、まさにイケメンだった。
元々女装が趣味だったクリスは、とある事情でその趣味を活かしてこの学園に入学することとなる。
彼はなんと隣国の王子、クリストファー・ウィンザーだったのだ!
魔法について勉強するために、わざわざこの学園まで留学することを決めたはいいものの、王子の身分のまま留学したら面倒なことになる、という理由で、身分を偽り女装をしていたらしい。
しかし、私という彼女……(彼いわく婚約相手らしいが一旦それは置いておこう)が出来たため、もう令嬢達が群がるという面倒なことは起きないだろうと思い、女装をやめたのだ。
ちなみにあの事件の後から、イーサン王子は私に近づいてくることはなくなった。
なんなら、クリスに遭遇する度にそっと逃げているという噂だ。
「グレース!」
学園に居残って雑務を済ませてきた私を、彼は下駄箱の前で待っていてくれた。
「クリス! 待っていてくれてありがとう」
「お易い御用だよ」
そう言って私の頬に軽くキスをする。
「い、いきなり、そそそそういうことするの! や、やめて!」
「ははっ、グレースって恥ずかしくなると、僕らが出会った頃みたいになるよね」
「……もう、からかわないでよ! そんなことするんだったら、今日見せるつもりだった新しい魔法、見せてあげない!」
「え、待ってよ。グレースの魔法を見るの大好きなんだ」
だって君が夢中になっている姿が可愛いからさ。
その言葉に、私は更に顔が赤くなるのが分かる。
全く反省していない様子のクリスに対して、
「もう! クリスったら!」
と怒るのが日常となっている。
喪女が乙女ゲームのヒロインに転生して、
全然上手くいかなかったけれど
ヒロイン以上の幸せを手に入れることになった。
そんな私のお話。
ここまで読んで下さりありがとうございました!
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◇◇◇
色々端折って書いてしまったので、機会があれば連載として間のシーンやその後の2人・2人の友人・王子の様子などを書けたらな、と思っています。