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ショートショート4月〜4回目

宅配平凡

作者: たかさば

 …ああ、今日も…疲れた。


 毎日毎日…何らかの事件が起きて、巻き込まれて、落ち着きのない暮らしが続いている事に心底辟易している。


 ……平凡な一日が過ごしたい。


 そうだ、平凡をデリバリーしてもらおう。


 ピポパ…


「もしもし?平凡を一つお願いします」

「了解いたしました、少々お待ちください」


 待つこと…およそ8分。


「こんにちはー!平凡でーす!!」


 今日の平凡は…、のんびりとしたお母さんか。


 フム…実にのんびりとした、いい平凡だ。

 少々つまみ食いし過ぎで腹が重たいのが残念だが、マイペースにいつも通りの家事をして、家族のためにご飯を作って…美味しいよと言ってもらえる幸せがたまらんなあ。

 …はは、お母さん大好きの言葉までもらっちゃったぞ、これはイイ平凡だった!!


 よし、元気が出た!!これでクソみたいな理屈をこねてゴリ押しする無能どもを…やり込める気力が充填された!!


 明日も仕事、頑張るぞ!!



 ああ、今日も…疲れた。


 毎日毎日…飽きもせずに言いがかりをつけてくる老害どもの相手をし、突拍子もない展開に持ち込まれるお決まりコース…気の休まらない状況にうんざりする。


 ……平凡な一日が過ごしたい。


 そうだ、平凡をデリバリーしてもらおう。


 ピポパ…


「もしもし?平凡を一つお願いします」

「了解いたしました、少々お待ちください」


 待つこと…およそ14分。


「どーもー!平凡でーす!!」


 今日の平凡は…、無気力な若者か。

 フム…実に闘争心のない、いい平凡だ。


 少々ゲームのし過ぎで頭と目玉が重たいのが残念だが、自分のペースで食っちゃ寝して…無駄に時間を使って許される環境がたまらんなあ。はは、全国ランキング三位入賞の称号までもらっちゃったぞ、これはイイ平凡だった!!


 よし、元気が出た!!これでめんどくさいしきたりに拘る無能どもを一掃するパワーが充填された!!


 明日も仕事、頑張るぞ!!



 ああ、今日も…疲れた。


 毎日毎日…戦い続けて、誰かと比べられて、一瞬たりとも隙を見せる事ができない張り詰めた環境から抜け出せないのが泣ける。


 ……平凡な一日が過ごしたい。


 そうだ、平凡をデリバリーしてもらおう。


 ピポパ…


「もしもし?平凡を一つお願いします」

「了解いたしました、少々お待ちください」


 待つこと…およそ22分。


「こんにちはー!平凡でーす!!」


 今日の平凡は…、のんびりとしたおじいちゃんか。


 フム…実にのんびりとした、いい平凡だ。

 少々ぼんやりし過ぎて半分魂が抜けかかっているのが残念だが、ゆったりゆっくり…日向ぼっこをしながら何も考えないでいられるのがたまらんなあ。はは、耳かきまでしてもらっちゃったぞ、いつの間にか眠ってしまったじゃないか、これはイイ平凡だった!!


 よし、元気が出た!!これで矢継ぎ早に言いたいことを言えばビビッて何もいえなくなるだろうと高をくくっている無能どもをぶっ潰す覚悟も決まった!!


 明日も仕事、頑張るぞ!!



 ああ、今日も…疲れた。


 毎日毎日…平凡とは程遠い、変化にまみれたせわしない暮らしが続いている。


 ……平凡な一日が過ごしたい。


 だが、平凡をデリバリーする時間すらなくなってしまった。


 平凡な女子高生、平凡なマダム、平凡なおっさん、平凡な青年、平凡な子供に平凡な同世代、平凡な紳士に平凡なお嬢さん、平凡なお父さんに平凡な……いろいろ届けてもらっては、心の底から楽しんでいた日々を思い出す。


 ああ、平凡が……足りない。


 これでは、仕事が…頑張れない。

 働けないから平凡が補充できない。


 こんなの…堂々巡りだ。


 負のスパイラルに巻き込まれてしまった俺は、平凡が枯渇して、どんどん非凡に凝り固まってゆくことしか…できない。


 破天荒ばかりが積もっていって、自分の中の平凡が消え去ろうとしている。……もう、だめかも、知れない。


 ピンポーン!!


 おや、こんな時間に…誰だろう。

 インターフォンのボタンを押すと。


『こんにちはー!!いつもお世話になっておりますー!!』


 23:00に少々不似合いな元気な声が聞こえてきた。

 ドアを開けると、顔なじみの宅配の兄ちゃんがいた。


「あれ、僕…注文してませんけど」


 いろいろと平凡を受け取って、充実していた日々が思い出される。


「いえいえ、今日はね、お願いに上がったんです。実はこのたび宅配平凡事業を拡張して、宅配破天荒を始めることになりまして!つきましては、ぜひお客様にご相談したい案件がございましてですね…、お時間、よろしいでしょうか!」


 また、あの平凡を楽しめる日々が・・・戻ってくるかも、知れないのでは?

 これは、願ってもない展開・・・チャンスだ!


「まあ…夜分遅い事ですし、とりあえずお入りください」

「お邪魔いたしマース!!」


 俺は今後重大なビジネスパートナーになるであろう兄ちゃんに、飛び切り優秀な作り笑顔を向けた。


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