第五話 百龍夜行 〜ひゃったつやこう〜
大きなライフルのスコープに照準を定められている標的、その400m先には子供のドラゴンがいた。子供と言っても親は相当大きい種族で大型トラック並みにデカい。
ほふく前進のポーズでしっかりと狙いを定める。金色の髪が昼間の涼しい風に揺らさられながらも強い日光が照り返す。
地面に触れているジーパンは荒野の明るい茶色い砂や小石で薄汚れる。
25歳のつり目のお姉さんだ。
すぐ隣には「がっき」と子供みたいな字で書かれている札の貼った大きい魔女帽子をかぶるカナイ。同じく匍匐前進のポーズでチラチラとケモノ耳お姉さんを見つつ、緊張した面持ちで子供のドラゴンを見ている。
お姉さんは小声でカナイに話す。
「いい? これが命のやり取りよ。特にカナイは知っておいてね……」
「うん」
引き金に指で力を込める。その弾丸は綺麗にドラゴンの視界を奪いのたうち回る。
すぐに立ち上がって距離を詰めカナイも後を追う。
走りながら再び構え、次にライフル急所を貫いた————
なぜこのような旅路になったかの経緯を説明する。
風音の財団に目をつけられたカナイは帰宅後数日して風音本人が襲撃に来た。だがカナイの魔法にどうにか返り討ちにし、しかし母の身が危ないと考え親友である『百鬼 夜華』に相談した所、カナイ母は山奥の百狐寺院に身を隠す事に、狙い目のカナイは夜華と共に雪国の地域を目指すようになった。飛行機や電車なども存在するが住民に何かあっては悪いと基本は徒歩で向かっている。
途中に偶然会った子供のドラゴンを仕留め夜の食料とした。他にも目的はあった。
地図で解説すると、この国で『大都市』と呼ばれる地域は南の方にあり海沿いに面している。区域が7つありそれぞれで役割を担っているようだ。もう少し北の方角に海を介して『神秘の島』と呼ばれる離島がある。そこは超能力者が生まれる島と呼ばれているが、まだ噂程度でしかない。
そしてカナイと夜華は北国から見て大体半分ぐらいの位置、トーカンの荒野を進んでいた。時期になると百匹の龍の集団が夜行している事から百龍夜行と学者は呼ぶように。
その百龍夜行の時期は、明日へと迫っていた……。