第一話 フルアクセル・リング社
床以外全面ガラス張りのエレベーターに乗り少々気持ちを浮かせるカナイ。
迷いなくアクセルが最上階のボタンを社員に押させる光景を見ると、本当に社長の子供なんだなとさらにワクワクさせる。
更には一緒に乗っていた社員がフルアクセル・リング社について解説をしてくれる。
「この会社は『フルアクセル・リング』の制作、販売をしている凄い会社でして、リングの販売開始自体は4年前なのですが、その機能面の高さと安全性に世界中が注目しております!」
もう一人、OL風のスーツをまとった女性も割って入る。
「あなた様もリングの装着が出来ているという事はライセンス試験の合格しているという事ですね! 素晴らしいです!」
カナイは苦笑いで返した。
エレベーターが何度も停止を繰り返し、社員や清掃員が出入り。やがて最上階へと着く。
このフロアは丸々社長室となっており、入室してからすぐ書類を書いたりタブレットを使い業務をこなす。
しわの多い手で書類を持つ。とても年季が入っている。年齢的には50代ほどだ。
「なんだね。自分は暇じゃあないんだ。用が終わったら今日は家に帰って休みなさい」
「用あるんだよ! この子が持ってるリング! お父さんの落とし物だろ!」
カナイの手首に視線を向く。一瞬目を丸くするもすぐに気を取り直す。
いったん持っていた書類を机に置き威圧感ある風貌で立ち尽くす。
あわあわ冷や汗を流しながら負けじと目を見る。
「うむ! そのリングは君にあげよう」
「ええええええええ!!! 返さなくていいの! バグだよバグ!」
バグの意味は主に虫の事を差すがその昔、機械のプログラムで画面の砂嵐を虫の大群だと例えた事からバグと称するようになり、ゲーム機械が世間に普及したのも相まって機械の不具合として広まるようになった。
「息子よ。お前は確かに『フルアクセル・リング』の制作を企画し運営している者の息子だ。しかし! これは自分とこの女の子の問題だ。介入するでない」
「は、はい……」
「ありがとう、ございます。わたしから質問なのですけど、試験合格がいると聞いたのですが!」
「良い。君は正しく扱える『眼』をしている。特例だが、使用の承認とバッジ3つ付与しよう。精進しなさい」
そばにいる薄いレンズの眼鏡をしている女性の秘書に指示、承認の手続きが手早くされている。
「紹介が遅れた。私めはアクセラと言う。こいつは息子のアクセル。君の名前を教えてもらおうか」
「カナイです。魔女してます」