善意には善意を
軽めの暴力表現あります
「善意には善意を返せ。それはやがてお前の助けとなる。」
幼い頃から父に言われ続けた言葉。その父は私が中学に上がる頃には病で帰らぬ人になっていた。
母はというと物心がつく前によそに男を作り出ていき、行方知れず。そんな母だが父は決して悪くは言わなかった。
なぜと聞いても教えてはくれなかったけれど、もしかしたらこれが惚れた弱みなのだろうかと少しばかり哀れに思った。
父の死後、私は親戚のとある一家に引き取られた。なんでも父方の遠縁なのだとか。
夫婦とその娘は突然現れた私を疎ましく思っていた。ならばなぜ引き取ったのかと思ったが、どうやら金目当てだったようだ。どうやら父はかなりの額を溜め込んでいてようで、私にはそれなりに遺産というものがあった。
とはいえ体裁は保ちたいのか無理に金を奪うこともなく、暴力は振るわないし、寝床も狭い一室は分け与えられているため特に不自由はなかった。
高校にもなれば一人暮らしだってできるだろう。その時に金でも渡して保証人になって貰えば彼らだって満足する。
あと数年の我慢だと。そう思っていた。
「げ、今日に限って早いんだ。」
部屋の扉を開ければ床には父の形見の数々と、それを入れていた小物入れが転がっている。机の上には病床にいた頃に私に書いた最後の手紙が無惨な姿で散らばっている。
その中心に立つのはこの家の一人娘だ。
「あんた邪魔なのよ。生活ペース崩れるし、他人がいるだけで変な気を使うっていうの?友達もまともに呼べないし。
そのくせ肩身狭そうでもないし、もうちょっとさあ、申し訳ないと思ったりしないわけ?」
いつもより口数が多い気がする、多少はまずいと思っているのだろうか。それでも口から出てくるのは私を責める言葉ばかり。
一歩足を進めれば目の前の女はびくりと肩を振るわせる。それを無視して足元の形見を拾い上げていく。3つほど拾ったところでダンッ!と手を踏まれた。
「ムカつく!顔色の一つも変えれないわけ!?ほんと気持ち悪い!」
離された手の下で、自分の血がついてしまった形見……初めて父がくれた綺麗な石がついた指輪を見て父の言葉を思い出した。
「善意には善意を……。」
「は?」
気づけば女を殴っていた。何か武術を習っているわけでも、喧嘩もしたこともない拳だけれど、不意打ちもあったせいか女はそのまま後ろに倒れた。
そして起き上がるよりも早くその腹に足を沈めた。ごぽりと音がして、そのあと彼女の口からは吐瀉物が漏れ出した。
「善意には善意を、でも与えられたのが悪意なら……悪意で返して良いはず。」
ゴホゴホと咳き込む女の髪を掴み引きずる。何やら喚いているが言葉になっておらず、理解ができないためそのまま無視する。
そのまま浴室に放り込んで水をかける。苦しみながらも恨めしそうに見上げる目に、ニコリと優しく微笑んだ。
「汚いから、そのまま洗いなよ。服は持ってきてあげる。」
そうして浴室の扉を閉める。
善意に善意を返すだけじゃ、私の助けにはならない。返すのならば善意も悪意も、殺意すらも返さなければ。そうしなきゃきっと貴方の二の舞だ。
「そうでしょ?父さん。」
血の残る指輪を指にはめ、それを見て笑みを浮かべた。
異世界系でも良いけど、とにかく虐げられてる子が誰かの助けでもなく自分の力で抜け出していけたら良いなあって
恋愛要素絡めるのであれば暴力行為はもう少し抑えめで良い