第098話 ニーの人徳
翌朝、『暗夜の灯火』のメンバー全員が集められ、カールマンが話し出した。
「朝早くに呼んですまんな。みんなも知ってのとおり、ここ最近、客足が遠のいている。そこで、急ではあるが暫くの間、休みにしようと思う」
「えぇ~。ちょっと待ってくれよ。金が手に入らないと困るんだよ」
アスティンが切実な声を上げた。
「だろうな。みんなにも生活があると思う。家計の苦しい者は、後で個人的に来てくれ。相談には乗るつもりでいる。話は以上だ」
カールマンがそう言って、全員解散となった。
それと同時に、これが作戦開始の合図となった。
ロイ’s ビューポイント――――
西門を出てすぐの所で、寄り集まっている3つの人影があった。
「シェリーのヤツ、遅いなぁ」
「イザベルを送っていってるんだ。仕方ないさ」
ロイのぼやきにイグナスが返した。
そんな事を言っている間に、シェリーが討伐者たちの隙間をかいくぐって西門から出てきた。
「遅くなってゴメン。てか、何なの?あれ。討伐者たちであふれてるじゃん」
「あぁ、それなら俺たちが来た時からずっとだぜ。理由は分からないけど」
遅れてきたシェリーの質問に、リージョが答えた。
「ここに来る前に、討伐者の知り合いに話を聞いたら、ニーに集められたんだとさ」
「あっ、そっか。イグナスは時々、討伐をやってるんだっけ」
「そこじゃないだろ!ニーが集めてるってところに食いつけよ!」
「それは、今から言うところだったんだよ!」
また、ロイとリージョのじゃれ合いが始まった。
その様子をイグナスとシェリーは、やれやれといったポーズで見ている。
「討伐者の集まりに関しては、防衛チームに任せるとして、俺たち潜入チームは、コピスへ急ぐぞ」
イグナスの一声で、リージョとロイの言い合いも止まり、4人が出発モードとなった。
コピスへの道のりは、街道が最初から最後まで石畳で整備されているらしく、普通に歩けば2日で着く距離のようだ。
しかも、中間地点には宿屋もあって、野宿の心配もない。
そんな街道の上に4人は立ち、コピスに向けて歩き出していった。
リーナス’s ビューポイント――――
「さてと、まずは全ての門の状況を確認しに行こうか」
リーナスがトレルと話しているところに、ホムラが近づいてきた。
「マスターから、あなたを手伝ってほしいと言われました。宜しくお願いします」
(カールマン。言わされたな)
リーナスはそう思いつつもホムラに返事をした。
「あ。あぁ、よろしく。でも、君はフォックスじゃないよね?どうして手伝ってくれるんだい?」
「……内緒です。それに、それはあなたも一緒では?」
「そうでもないさ」
リーナスはそう言うと、懐からキツネの仮面を出した。
「えっ、いつの間に!?」
「もう一回やってみる事にしたんだ」
トレルも知らなかったようだ。
「やはり、あなたと一緒です」
ホムラも懐からキツネの仮面を出して言った。
「えぇ!?マスター、どうなってるの?」
トレルは混乱していた。
それを見たリーナスは、少し笑った。
「じゃあ、コピスから一番近い西門から巡回していこうと思うが、ついてくるか?」
「分かりました。行きましょう」
こうして、防衛チームは、リーナスとトレル、ホムラの3人となり、巡回が開始された。
ザワザワ。ザワザワ。
リーナスたちが西門付近に着いた頃には、イグナスたちが見ていた光景とほぼ同じくらいの討伐者たちであふれかえっていた。
「なんだ、こりゃ。なんでこんなに人が集まってるんだ?」
「聞いてきましょうか?」
「いや、俺が行った方が……って、もう行っちゃってるじゃん!」
ホムラは、リーナスの言葉途中で、さっそうと人だかりに向かって足早に歩いていった。
ホムラ’s ビューポイント――――
(なんだか、むさ苦しいわね)
そんな事を思いながら、ホムラは集団に近づいていった。
「すみません。これは何の集まりなんですか?」
ホムラは、少し気弱そうな男性に聞いてみた。
「えっ、酒場の貼り紙を見て、来たんじゃないの?」
「貼り紙?」
「ニーさんが、『腕に自信のあるヤツは今日の夕方、西門に集まってくれ』って」
「ニー……さんが?」
「そう。あの人、レイブンにいるから勘違いされやすいけど、ニーさん自体はカリスマ性っていうのかな。人徳があるんだよね」
「そうなの。それで、何のために集まってるの?」
「さぁ?それは、ニーさんが来てから分かるみたいだよ」
「そう。ありがと」
そう言って、ホムラはリーナスの元へ戻ろうとして振り返ったその時、1つの人影がホムラの横をすり抜けていった。
ホムラは、再び振り返った。
「ニーが……来た?」
ホムラは、後ろ姿しか確認できなかったが、以前ニーと会った時の気配から、すれ違ったのがニーだと気づいた。
「こんなに大勢、集まってくれるとは思わなかった!恩に着る!」
ニーは、いくつか積み重なって置いてある木箱にトントンッと飛び乗って、集まっている討伐者たちに向かって大声で叫んだ。
「あんたの頼みだったら、断れねぇよ!!」
「そうだぜ!何でも言ってくれ!!」
集まった討伐者たちから、支持する声が飛び交い、集会のボルテージが上がっていった。
(ニーの支持は結構高いのね)
ホムラはそんな事を思いながら、ニーの続きの言葉を待った。
「みんなも気づいていると思うが、今のアーリエスは異常な状態だ。みんなの家族や友人、仲間たちも原因不明の病気に冒されている事と思う。だが、俺たちには病気を治してやる能力はない。じゃあ、何ができる?」
ザワザワ。
ニーに問われて、討伐者たちはざわついた。
「今、魔獣や他の地域の者たちが大軍で攻めてきたらアーリエスはどうなる?ひとたまりもなく陥落するだろう。だから、そうなる前に!集結される前に!叩いておこうと思う」
「今、そういう情報が入ってるんですか?」
一人の討伐者が手を挙げながら、ニーに聞いた。
「いや、そういった情報はなく、あくまで俺の勘だ。それに報酬も出せるわけでもない。それでも!俺に協力してくれる者だけ残ってくれ」
ザワザワ。ザワザワ。
再び討伐者たちがざわめく。
「レイブンは、報酬も出せないのかよ!」
「レイブンは関係ない。これは、俺個人からの依頼だ」
ニーが返答をした。
それを聞いて、去っていく者も少なからずいた。
「俺はやるぜ!無駄足になっても構うもんか!!」
「あぁ。あんたの勘に付き合うぜ!」
「ぼ、僕も!!力になれないかもしれないけど、がんばります!!」
さっき、ホムラが話しかけた男性も声を上げた。
減った人数を補って余りある程に、指揮の高まりを感じる。
そんな時、ホムラの肩にポンッと手が置かれた。
ホムラが振り返ると、リーナスとトレルが来ていた。
「大したカリスマだな」
「えぇ。ここまでとは思ってなかったわ」
2人でそんな事を話しながら、ニーを見上げた。
そのニーは、トントンッと木箱の山から降りてきて、集まった討伐者たちに指示を出していた。
「アーリエス近辺の巡回は、討伐隊に任せてもよさそうっすね」
「そうね。じゃあ、私たちはもう少し遠くを索敵する?」
「そうだな。特にコピス方面を重点的に見回ろうか」
リーナスたちはそう話し合うと、そぉっとその場から去っていった。
こうして、潜入チーム、防衛チームそれぞれが任務達成に向けて行動を開始していった。
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