第009話 ニーの辛酸
ニー’s ビューポイント――――
俺は、このアーリエスの西門付近に住んでいる。
この辺りには、依頼所とも呼ばれている酒場があり、酒場の中には魔獣退治の依頼書が貼られている。
魔獣というのは、森などにいる凶暴な獣で、基本的に四足歩行だから、あいつらがケモノタイプっていうヤツなのか?
だとしたら、俺たちの祖先にあたるのか?
まぁ、よく分からんが襲ってくるから討伐している。
そんな感じで、アーリエスの西部には、討伐者と呼ばれる者たちが多く住んでいる。
今日は、レイブンの事務所に行く用事もないから、久しぶりに酒場で飲もうと思い、足を運んだ。
「よう、ニーの旦那。久しぶりだな。最近、顔を見ないから討伐者やめちまったのかと思ったぜ」
「いや、やめちゃいないさ。ただ、ここんとこ忙しくてさ」
ニーが酒を飲んでいると、酒場の主人が声を掛けてきた。
「忙しいってのはレイブンかい?あんたには、あんな黒い噂だらけの所なんて似合わないと思うんだがな」
「そういうわけにもいかないさ。借りもあるしな」
やれやれといった顔の主人に対して、ニーは右目の上のキズを触りながら答えた。
「ところで、今、困ってる依頼とかないのか?久しぶりに討伐にでも行こうかと思ったんだが」
ニーがそう言うと、主人が1枚の依頼書を取ってきた。
「こいつが今、手こずってるヤツだ。みんな返り討ちにあってる」
「ハニーグリズリー!?なんだ?このふざけた名前は!?まさかはちみつ好きの黄色い熊か?」
「いや、大柄な熊なんだが、爪が血でベトベトだからそんな名前がついたらしい。それよりこの依頼を受けてくれるなら、今からパーティを募ろうか?」
「いや、1人で行く。最近、負け癖がついちまってるようだし、鍛え直すつもりで行ってくるよ」
「あぁ、フォックスか。あんたが張り合う必要はないと思うがね。まぁ、依頼の方は頼むよ」
主人はそう言って、ニーを送り出した。
森に入って暫くは、低級の魔獣ばかりの出現で、ニーの相手にはならなかった。
草木を避けながら、依頼書に書いてある方角へ進んでいくと、広場みたいな場所に出た。
依頼書には、この広場付近でよく遭遇すると書いてある。
ニーは依頼書をしまい、剣に手をかけて全周囲に感覚を研ぎ澄ました。
「!!」
「ガァッ!」
ニーは、魔獣の叫び声より一瞬早く前に飛び込み、転がって避けた、
ニーはすぐに立ち上がり、後ろを振り返ると、さっき自分がいた場所に、大きな熊の爪が突き刺さっていた。
「はっ。やっぱり黄色い熊とは大違いだな」
大きさも凶暴さも、ニーが想像していた熊とはまるで違う存在だった。
ハニーグリズリーとニーが対峙して、お互いなかなか動かなかった。
スゥ。
ニーは息を吸い込んでから、一気に間合いを詰めてハニーグリズリーに斬りかかった。
キィーン!
ハニーグリズリーは、ニーの刃を右手の爪の部分で受け止めた。
そして、残る左手の爪でニーの腹部を切り裂きにいった。
しかし、すでにニーは後ろに飛び退けていた。
「俺の斬撃を受け止めるとは、なかなかだな。だが、俺も相当の覚悟で来てるんだ。悪く思うな!」
そう言い終わるや否や、ニーは間合いを詰めていた。
先程とは比べ物にならない速さだ。
おそらくこれがニーの本気なのだろう。
ハニーグリズリーは驚いた表情を見せながらも、さっきの攻撃と同じように右手の爪で受け止め、左手の爪で反撃しようと左腕を少し上げた。
しかし、右手の爪に当たる音がしない。
ニーの斬撃の速さに、右手が間に合わなかったのだ。
ニーの剣は、左腕の付け根、脇の部分に当たっていた。
そして、そのまま上へと斬り裂いていった。
ハニーグリズリーは左腕を根元から切り落とされたのだ。
「グガァァー!」
「一撃で仕留めてやってもよかったんだが、すまんがもう少し練習相手になってくれ」
ハニーグリズリーが叫ぶ中、ニーは冷淡に呟く。
それから後は、ニーの独壇場だった。
突きや蹴り、剣を持っていない手による拳撃など、ハニーグリズリーは本当に言葉通りの練習相手にされていた。
「やはり最初からサシの勝負の場合、負ける気がしないな。ありがとう。もうラクにしてやる」
言うが早いか、一瞬にしてハニーグリズリーの首をはねた。
そして、依頼が完了した証として、最初に切断した左腕を持って帰る事にした。
魔獣の肉などは、結構高値がつくから市場で売ればいいのだが、残念な事にニーは1人で来ている。
1人で持って帰るにはあまりにも重たすぎるのだろう。
ニーは、1体丸ごと持って帰る事を諦めたようだ。
帰り道でニーは、今までの対フォックス戦の事を考えていた。
「俺が現場に着く頃には、あらかた事が終わっていたり、2対1の状況だったりだ。向こうの策士にやられているな」
今回の討伐で、実力では負けていないが策略で負ける状況に追い込まれているという結論に達したようだ。
「2対1にならない方法かぁ」
ニーのため息ともとれる言葉が漏れた。
あまり考える事は、得意ではなさそうだ。
帰ろうとした時、急に森の奥から異様な気配を感じ、振り返った。
右目の上のキズがズキズキ痛み出す。
「この感覚。昔、カンカセルが襲われた時と同じ感覚!」
先程、ハニーグリズリーを圧倒したニーに緊張が走る。
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