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怪盗団フォックスの暗躍  作者: くろの那由多
第1章 アーリエス近郊にて
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第007話 ジャーノ家の不安

 レイブンの買い占め事件から1週間程が経っただろうか。

 今日もまた『暗夜の灯火』の看板の文字が点滅している。

 相談に来ている客がいるのであろう。


 リージョの出勤時間なのか、リージョが裏口から『暗夜の灯火』へ入ろうとしていた。

 それから暫くすると、イグナスが『暗夜の灯火』へやってきて、正面から入っていく。

 今回もイグナスは客の役なのだろう。

 そもそもイグナスはリージョたちと違い、『暗夜の灯火』の従業員ではないため、店内では客役しかできないのだ。



 リージョ’s ビューポイント――――


「はよっす」

「おぅ。リージョ。1番席さん、相談があるそうだ。頼んだぞ」

「おっ、今日、相談にきてる客は俺が担当かぁ」

 リージョは、カールマンから指示を受けると急いで1番席に向かった。

「お待たせしました!」

 勢いよく1番席に入ると、いつものおじいさんだった。



 イグナス’s ビューポイント――――


「いらっしゃい。お一人様ですか?」

「空いてる席はあるか?」

「じゃあ、3番席でお願いします」

 イグナスは、マスターのカールマンとのやり取りで3番席に向かった。

 2番席が空席なのを横目で見ながら3番席の中へ入っていった。

 そして、部屋に入るとすぐに4番席側の壁に装置を取り付け、会話を盗み聞きする準備をした。

 先程のカールマンとのやり取りと2番席が空席である事から、今回の依頼者が4番席であると推測したようだ。

 事実、4番席ではウェイターのロイが対応している。



 ロイ’s ビューポイント――――


「じゃあ、奥さんは、旦那さんが何か副業に手を出しているんじゃないか。そして、その副業が危険な事なのかと不安になっているんですね?」

「えぇ、最近、しきりに周囲の目を気にしたりして、おびえている様子に見えるんです」

「ちなみにその副業でどれくらい収入があるんですか?」

「それが手元には見当たらないんです。時々来るガラの悪い連中と何かやり取りをしているようですし、そちらに全て流れているのかと……」

「ふむ。警察には相談したんですか?」

「はい。でも証拠もないし、肝心の旦那に問い詰めても、副業なんてしてないし誰ともやり取りなんてしてないって言われ、警察では『あなたの妄想でしょ』と言われる始末で……。ここで相談するとフォックスという組織が動いてくれるという噂を聞いたものですから」

「あぁ。その噂、私も聞いた事がありますが、ホントかどうか怪しいですよ。ここで働いている私ですらフォックスの人と会った事がないんですから。それにそれって悪いヤツから金銀財宝を奪い、困っている人を助けるっていう義賊のことですよね。そんな組織があるのやら」


「よく言うぜ。お前もフォックスの一人だろうが」

 隣の部屋でイグナスがぽつりと呟いた。


「まぁ、でもこの会話をフォックスの人が聞いて、何か働きかけてくれると嬉しいですね。ひとまず旦那さんといろいろ話をして、ホントの事を聞き出すのがいいと思います。また何か相談があったらきてください」

 そう言って、ロイは女性客のグラスに酒を注いだ。


 女性客が注がれた酒を飲み干すのを見届け、更にもう一杯グラスに注いだ。

「それじゃ、私はこのへんで」

 そう言って、ロイは席を外し、その足でカールマンの元に向かった。

「4番、オッケーです。情報収集に一人つけてください」

 小声でカールマンに報告した。

「はいよ。お次は3番席さんがお呼びだ」

 ロイからの報告を受け、カールマンは次の指示を出した。


 それを受け、ロイは料理と飲み物を持って、イグナスが待つ3番席へ入っていった。

「お待たせしました。飲んでますか?」

「あぁ。他にもおすすめの品があるか?」

「そうですね。この4番目のメニューなんかどうですか?」

「すぐできるのか?」

「今、持ってきた料理を食べ終わる頃には」

「了解だ」

「はい。少々お待ちを」

 ロイとイグナスとの間にそんなやり取りがあった。



 暫くして、4番席の女性客が勘定を済ませて店を出て行った。

 そのすぐ後、イグナスも店を出て、ある程度距離を保ちながら女性客の後をつけていった。

 先程のロイとイグナスとのやり取りは、4番席の客がもうすぐ店を出るから尾行しろという連絡だったようだ。



 女性は商店街にあるシャッターが半分閉まった状態の八百屋に身をかがめて入っていった。

「ただいまぁ」

 イグナスは今回の依頼人の家を確認すると、隣の建物によじ登り、八百屋の屋根へと飛び移った。

 そして、屋内の話が聞こえるような場所を探して建物を調べ始めた。


「おぅ、おかえり。友達との食事会はどうだった?どうせ俺のグチでも言ってたんだろ?チビどもは、飯食って今寝たとこだ」

「そう。ありがとね」

「いいよ。お前にはいつも店を手伝ってもらってるし、たまには羽をのばしたいだろうからな。んじゃ、お前も帰ってきた事だし、ちょっと出掛けてくるな」

 そう言って、夫のアレック・ジャーノが出掛けようとした。


「待って!アレック!!いつもいつもどこに行ってるの!?何か悪い事してるの?」

「な、何にも悪い事なんてしてないさ。ちょっと畑を見に行ってくるだけさ。お前が店番をしてくれてるから、俺もしっかり野菜を育てないとって思ってるだけだよ」

 妻のジョアンに問い詰められて、アレックは少しオドオドして答えた。

「じゃあ、私も行くよ!」

「あ、いや。そんなに人手がいる仕事じゃないし。それにほら、チビどもだけにするわけにもいかないだろ?」

「心配なの。あなたに何かあったら。この子達だって・・・」

「大丈夫だよ。もう終わるよ」

 そう言うと、アレックは家を出て、畑に向かった。

 イグナスは壁から盗聴装置を外すと、今度はアレックの後を追った。



 アレックは、イグナスの尾行に気づく事なく畑に着いた。

 だが、アレックは畑の様子を見る事なく、そばにある小屋に入っていった。

 イグナスは小屋にある小窓の下まで移動し、その小窓から中の様子をうかがった。

 小屋の中には、アレックの他に数人いるようだ。


「これが例の苗だ。これで終わりにしてくれ」

 アレックはそう言って、手に持っている苗を男に渡した。

「ほぅ、これか。さすが本職だな。しっかり育ってるぜ」

「あいつは、ニー・ディアス。また、レイブンが絡んでいるのか」

 苗を持っているニーを見て、イグナスが呟いた。


「この苗を元手に増やしていってくれ。何せこの辺じゃ手に入らない植物だからな」

 ニーがそう言って、苗をアレックに突き返そうとした。

「ちょっと待ってくれ。この苗を育てるところまでという話だったじゃないか。それに薬草だというから育てていたが、これはデビルっていう魔草じゃないか」

「さすがに詳しいな。これは痛覚を鈍らせる効果があり、ついでに感情もなくなるようだから、いろいろと需要があるのさ」


「と、とにかく犯罪の片棒を担ぐ気は無い。これ以上つきまとわないでくれ」

「そうはいかんよ。もう買い手との話もまとまっているんだ。そうそう、ジョアンっていったっけ?お前の奥さん。ガキも3人いるんだよな」

「っ!家族に何をするつもりだ!」

「さぁ?」

 アレックの顔色がみるみる青くなっていく。

 それを確認したニーは、余裕の表情を浮かべて言い放った。

「まぁ、返事は明日のこの時間まで待ってやるよ」


「ケリー、お前は明日の夜までここに泊まり込みだ。しっかり見張っておけよ」

 ニーは、隣にいたケリーにそう言うと、他の部下を連れて小屋を出て行った。


「ほら、あなたもさっさと家に帰って、家でじっくり考えなさい。ここは私がいるから大丈夫ですよ。ひっひっひ」

 ケリーがシッシッと手を振った。

 アレックはそれをにらみつけながら、家路に着いた。

「こりゃ、あまり猶予がないな。すぐに戻って報告するか」

 イグナスは、すぐさま『暗夜の灯火』へと向かった。



 イグナスが『暗夜の灯火』に着いた頃には、もう閉店時間をむかえていて看板の明かりも消えていた。

 イグナスは裏口から店内に入っていったが、店内は電気がついているものの誰もいなかった。

 イグナスは地下室へ通じる扉を開き、地下へ降りていった。地下室にはフォックスのメンバーが残っていた。


「裏でレイブンが糸を引いてるようだ」

 イグナスがカールマンに偵察の報告を始めた。

 カールマンは一通り聞いた後、口を開いた。

「今回の件、ヤツらの計画を阻止した後にジャーノ一家に仕返しがこないようにするには、我々の妨害行動だと知らせる必要がある。但し、こちらも正体がバレるわけにはいかない。姿は見せるが正体までは気取られる事のないように気をつけて行動するように。では、作戦の説明に入ろう」

 カールマンが作戦の流れとそれぞれの役割を説明していった。

「以上になるが、全員異論はないか?それでは各自、つつがなく」


【読者の方々へ】


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