第069話 イグナスの契約
「いらっしゃいませ。契約ですか?」
「あぁ」
契約の間の受付にいた女性の質問にイグナスが答えた。
「そちらに丸い線で引いてあるのが結界です。その結界内の中央に異界の雫を置いてください。そして、契約する方の血を数滴、異界の雫に垂らしてください。そうすれば、異界の雫から異界の生物が出てきます。あとは倒すだけです。がんばってください」
女性から大まかな説明を受けたイグナスは、異界の雫を1つ取り出し結界内に入っていった。
コトッ
イグナスは、言われた通りに結界内の中央に異界の雫を置いた。
「では、結界を張りますね!」
それを見た受付の女性が大声を上げた。
「ローディング!」
更に受付の女性が声を上げた。
「何だ?ローディングって?」
「さぁ?秘術って言ってたから、昔の言葉とかじゃね?」
リージョがロイに聞いたら、そんな返事が返ってきた。
受付の女性がローディングと言った直後、丸く描かれた線と文字のような部分が青白く光った。
そして、一番外の線の部分から結界が発生してきて、数秒で半球の結界が出来上がった。
「ほぉ~。これが結界ってヤツなのか」
グレーンが目を丸くしていると、再び受付の女性がイグナスに対して話しかけた。
「では、異界の雫に血を垂らして、すぐに離れてください」
それを聞いたイグナスは、コクリと頷き、持っている十文字槍で指先に切れ目を入れて、異界の雫に血を数滴垂らした。
そして、異界の雫から一番遠い場所で十文字槍を構えた。
ピシッ ピシッ!
異界の雫が少しずつ割れていく。
パァーン!!
異界の雫は、勢いよく割れて中からモヤが大量に出てきた。
そして、そのモヤが集まってきて、鳥のような形になっていった。
「ほぅ。サンダーバードか。初心者にはちょうどいいかな」
契約の間にあるベンチに座って観戦しているザックが呟いた。
バチバチバチッ
そのサンダーバードと呼ばれていた鳥型の異界の生物は、全身に稲妻をまとっている。
「これが異界の生物か……」
イグナスは、初めて見る異界の生物に見とれていた。
バサバサ バサッ
「クエェー!」
サンダーバードは、翼を広げて軽く羽ばたかせると、一鳴きした。
それとともに体から稲妻がほとばしった。
それを見て、イグナスは我に返って、十文字槍を構えた。
バサバサ バサバサ
サンダーバードは、翼を羽ばたかせ宙に浮いた。
イグナスにも緊張が走る。
次の瞬間、サンダーバードが凄まじいスピードで突進してきた。
「うわっ!」
イグナスは、サンダーバードの突進を紙一重でなんとかかわした。
しかし、体に痺れが走る。
「くっ!ぎりぎりでかわしても体全体を覆っている稲妻が伝わってくるのか」
イグナスは、地面に転がりながら体の痺れに耐えている。
「ほぅ。初見であのスピードをかわすか。面白い!」
ベンチに座っているザックが、前のめりになって言った。
イグナスは十文字槍を杖代わりにして立ち上がった。
上空ではサンダーバードがグルグルと飛んでいる。
まるで、次はいつ仕掛けようかと狙っているようだった。
「ちっ。上から見下しやがって」
イグナスは、ぼやきながらも十文字槍を構えていた。
「クエェー!」
サンダーバードは、上空で叫んでイグナス目掛けて急降下してきた。
さながら落雷のように。
「お前のスピードは、さっき見たぜ」
イグナスはそう呟くと、一歩バックステップしてすぐに、今、自分がいた位置に十文字槍で突きを放った。
ドンピシャのタイミングで十文字槍の矛先がサンダーバードを捉えた。
バチバチバチバチ
しかし、サンダーバードの体の周囲を覆っている稲妻によって、十文字槍の矛先はサンダーバードの体には届いていなかった。
「うおぉぉぉー!!」
イグナスが更に持てる力を込めて、十文字槍を前へ押し出した。
ビリビリ!
「ぐぅぅ!」
稲妻が十文字槍を伝って、イグナスの体を痺れさせる。
イグナスはそれにも耐えて、十文字槍を押し込んだ。
すると、十文字槍がついにサンダーバードの体を捉えた。
「これで、どうだぁ!」
「ギィヤァァー!」
サンダーバードがイグナスの前方に転がっていった。
サンダーバードは、ヨロヨロと立ち上がると、イグナスの方に体を向けた。
「我ノ速度ニツイテクルトハ大シタ者ヨ。ソレニ稲妻ニモ耐エ得ル精神、見事ナリ。我ガ名ハ、サンダーバード。コレヨリ、汝ハ我ガ主」
サンダーバードはそう言うと、光の球となってイグナスの方へと飛んできて、十文字槍に宿った。
「ふぅ。これで契約完了って事か。結構疲れるな」
全体的に光っている十文字槍を見ながら、イグナスが独り言を言った。
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