第066話 先輩の威厳
全員に緊張が走り、武器を手に取って、リーナスに向けて構えた。
「異界の雫を持ち帰って、武具に宿すまでの間が一番狙われやすいって事か。しかも、疲れ切ってる今が!」
イグナスがリーナスに向けて答えた。
「てか、なんで俺たちが怪盗団だと分かったんだ?」
続いて、リージョも刀を構えながら、リーナスに質問した。
「流石だな。危険な時期については正解だ。だけど、こちらに敵意はないんだ。武器は下ろしてほしいな」
リーナスを囲んだ一同は、目配せをして、油断せずゆっくりと武器を下ろしていった。
武器は下ろしたものの、剣を鞘に収めたりしない事を見て、リーナスはやれやれといった表情をして話し出した。
「多少、アレンジしてあるようだが、それは忍び装束だ。それも見覚えのあるタイプの服だったんでな」
「ま、まさか、アンタも……」
ロイがびっくりしたようにリーナスに聞いた。
「『元』と言った方がいいかもな。今の世代のフォックスに知り合いは少ない」
「そうなんだ」
リージョがそう言いながら、刀を鞘に収めた。
「ま、とりあえずそういう事だ。この部屋でポーションを使ったり食事したりして、体力を全快してからダンジョンを出る方がいい。あと、倒した魔獣は持って帰れるなら持って帰れ。いい値で売れるぞ。これからは、荷車も持ってきた方がいいかもな」
リーナスはそこまで話すと、グレーンに休息を取る準備をするよう指示をしている。
その後、グレーンはリーナスの指示で食事を作っていた。
「俺たちの先輩って事になるのか?」
「そうだろうな。年齢からするとカールマンと同世代か?」
「戻ったら聞いてみるか」
残りの3人でコソコソと話をしている。
「何をコソコソ話してる。寝床の準備とかやる事はいくらでもあるぞ」
「「「はい!」」」
3人揃って、気をつけをして動き出した。
その姿を見て、リーナスは苦笑いをしていた。
グレーンが作っていた料理ができたようで、5人で鍋を囲んで食べ始めた。
ずっと無言で食べているリージョたちを見て、リーナスがため息まじりに話し出した。
「お前ら、俺がお前たちの先輩だとか思ってるんじゃないだろうな?」
「えっ!?」
ギクッとする4人。
「いきなり動きが硬っ苦しくなってきてるもんな。言ったろ?『元』だって。フランクにいこうや」
そうは言っても、なかなか硬さが取れない一同。
「それから、もうすでに他の盗賊たちが異界の雫を狙っているかもしれない。気をつけろよ」
リーナスはそう言って、懐から2つの異界の雫を取り出し、その2つをぶつけ合い、キンキンと音を鳴らした。
「あっ。それ、俺たちの!」
「いつの間に!」
リージョとグレーンが懐を探りながら言った。
「油断するなよ」
リーナスは、そう言うとリージョとグレーンに異界の雫を放り投げた。
そんな中、リージョがリーナスに話を振ってきた。
「なぁ、リーナス。リーナスも異界の力、持ってるのか?」
「ん?あぁ、一応な」
「ちょっと見せてくれよ」
「やだよ、疲れるし。それにとっておきってのは、あまり頻繁に使わず秘密にしておくもんさ」
「ちぇっ。カールマンといい、ケチなんだな」
リージョが口を尖らせている。
リーナスは、リージョの口からカールマンの名を聞き、少しだけ笑った。
「あ、そうだ。お前たち、この後の事はどこまで知ってるんだ?」
リーナスが思い出したかのように全員に聞いた。
「ギルドに戻って、結界内で異界の生物と戦って、勝てばいいんだろ?」
リーナスの問いにイグナスが答えた。
「結界を張ってもらうのに、結構な金額が必要な事も知ってるか?」
「……やっぱりかぁ」
イグナスは、予想が的中した事に落ち込んでいる。
「とりあえずはギルドに行ってからだな。誰の武器に宿すのかは決まっているのか?」
「それがまだ決まってないんだ。カールマンからも自由に決めていいぞって言われてるし」
リージョがリーナスに答えた。
「雷系は、基本的に素早さを上げてくれる性能がある。この中で素早さを上げたいヤツはいるか?」
リーナスの言葉を聞き、お互いの顔を見合わせる一同。
「俺はイグナスがいいと思う。今回、ワータイガーにイグナスの攻撃が当たらなかったけど、あとちょっとな感じがしたし。まぁ、俺は残念ながら素早さを上げてもまだまだ当たらないだろうけどね」
そんな中、グレーンがワータイガー戦を思い出しながら、イグナスを推した。
「そうだな。イグナスの攻撃がもっと当たるようになるなら、戦力的にもかなりアップするな」
リージョも賛成した。
「俺は、特にこの属性がいいってのがないから、みんながいいって言うならもらおうかな」
後押しを受けて、イグナスが返事をした。
「2つあるけど、2つともイグナスでいいのか?同属性だから2つとも同じ武器にできるぞ。まぁ、1つ目を宿してから考えてもいいけどな」
リーナスが最後に付け加えた。
ここまで話し合ったところで、この第2階層の小部屋で一休みする事にした。
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