第006話 ニーの圧力
翌朝、日が昇る少し前に、トレル、イグナス、ロイ、リージョの4人が倉庫の前に集合した。
もちろん、キツネの仮面を被っている。
「さぁ、行こうか!」
「なんでお前がリーダーみたいに言うかな?」
リージョが号令をかけると、ロイが呟きながら倉庫の扉の鍵を開けた。
ロイが扉を開けると同時に全員、倉庫内に飛び込んでいった。
倉庫内には、まだ横になっているレイブンの者たちがいた。
イグナスとリージョがケリーを、トレルとロイが他の部下たちの相手をするために突撃していった。
「何者だ!あ、その仮面っ!」
「フォックスだよ!」
物音で飛び起きた部下が叫び、それに答えるようにトレルが叫びながら一撃を食らわした。
レイブンの下っ端数名をトレルとロイの2人で次々と倒していく。
そして、立ち上がったケリーの前にイグナスとリージョが立ちふさがった。
ケリーは急いで2つの短刀を抜き、イグナスに斬りかかった。
イグナスはバックステップでケリーの斬撃をかわし、同時にリージョがボディに一撃を入れた。
「ぐはっ!」
ケリーは体をくの字に曲げながら、リージョに短刀を振った。
しかし、リージョはすでにその場にいなかった。
更にそのタイミングで、イグナスがケリーの背中に蹴りを入れる。
いくら武器を持っているとはいえ、ケリー1人でイグナスとリージョの相手は難しかった。
2対1になった時点で勝負は決していたのだった。
同様に、下っ端たちもトレルたちに倒されていった。
こうして、倉庫内はあっという間にフォックスに制圧された。
その様子を倉庫の窓から露店の売り子が見ていた。
なかなか商品が届かないから様子を見に来たのだった。
売り子はヤバい状況を察し、ニーへ連絡を入れるため走っていった。
「ふぅ、意外と大したことなかったな」
「気絶しているうちに全員、縄で縛っちまおう」
「じゃあ、あっちに置いてある荷車を持ってくるから、買い占められてた物を載せよっか」
フォックスの4人は話しながら、手際よく後始末を進めていった。
「やっと全部載せ終えたな。もうすぐ昼だぜ。急ごう」
そう言いながら、トレルが荷車を引き出した。
それに合わせて、ロイが倉庫のシャッターを上げた。
荷車が倉庫を出て大通りに向かっていくその時、向こうから何者かがやってきた。
「あ~あ。来ちまったぜ」
「俺とイグナスで相手をするから、2人は市場へ向かってくれ」
イグナスとリージョがそう言って、向こうから来る男の方を向いた。
荷車の方は、トレルが荷車を引き、ロイが後ろから押していく格好になっている。
「2人とも頼んだぞ!」
ロイは荷台を押しながら叫んだ。
「二人がかりとはいえ、素手で俺に向かってくるつもりか?」
ニーは、そう言うと剣に手を添えた。
「ヤバいな。この圧力、半端ないぜ」
ヒュッ!
リージョが呟き終わるのと同時にニーが斬りかかってきた。
ニーは、二人同時に斬ろうとしたのか、刃が横に走った。
イグナスとリージョは後ろに飛び退けるので精一杯だった。
すぐさまニーは、イグナスとの距離を詰め、剣を振るった。
イグナスは更にバックステップで避け、その間にリージョが間合いを詰めようとするが、ニーの剣は止まらず、突っ込んできたリージョに斬りかかった。
とっさにリージョは前転してかわしたが、左腕をかすめたようで血が流れ出る。
しかし、これで狭い路地、前方にイグナス、後方にリージョという状況ができあがった。
「この状況ならまだ互角に戦えると思うがな!」
イグナスは言い終わると同時に蹴りを放つ。
だが、ニーはそれをかわし、蹴ってきた足を斬りにいく。
それと同時に後ろからリージョが攻め入る。
ニーは間合いを詰めてきたリージョに蹴りを放つ。
こうして、一進一退の攻防が始まった。
イグナスとリージョがニーを足止めしている間に、荷車は大通りに出て市場へと向かっていた。
「今から、市場で人参とじゃがいもを売り出しますよ~!」
トレルたちは必死に荷車を進めながら、市場での販売を宣伝している。
荷車を遮るものは何もなく、ひたすら市場へと向かって猛進していった。
リージョ’s ビューポイント――――
(こいつ、化け物か!?)
前と後ろで挟みうちにあっている状態で、ニーはほぼ無傷、イグナスとリージョは深手ではないにしろ、それぞれダメージを負っている。
武器持ちと素手という差があるとはいえ、リージョはニー・ディアスという存在に圧倒されそうになっている。
(こいつを市場へ行かせてはいけない。行かせたら計画が破綻する。ここで足止めしないと!)
そう思っている間にも、剣先が目の前を横切る。
油断したらやられる。
そう再認識させられる。
冷や汗も止まらない。
そんな時、ロイの声が聞こえた。
「市場に持っていった物は全部売れたぜ!」
それを聞いたイグナスとリージョは、同時にニーから距離をとった。
「ここまでだな」
「あぁ!」
そう言うとイグナスとリージョは、急いでこの場を去っていった。
「チッ!」
ニーは舌打ちをすると、剣を鞘に収めて倉庫へ向かって歩き出した。
倉庫の中には、ケリーや部下たちが縛られたままだった。
ニーは、ケリーの元へ行き、縄を切ってやった。
他にも縛られている部下がいるため、そちらへ歩いていった。
「ニーさん。すみませんでした!私が勝手に動いたせいで迷惑をかけてしまいました」
「気にすんな。どうせお前の事だ。本部への上納金の足しになればと思って、いろいろ儲ける方法を考えたんだろう?」
ケリーの謝罪に対し、ニーは軽く笑みを浮かべて答えた。
ちょうどその頃、ロイがヴィジットとティットの家を訪れていた。
そして、もうレイブンのいいなりになる必要はない事を告げた。
「レイブンが市場より少し高値で買い取ってくれてたので、目先の儲けに目がくらんでしまった。自分勝手な考えで多くの人に多大な迷惑を掛けてしまい、申し訳なかった」
ヴィジットはロイにそう言うと、明日からは市場に卸す事を約束した。
ティットからもほぼ同様の回答が返ってきた。
翌日、市場には元通り人参もじゃがいもも並んでいた。
「今日は、人参とじゃがいもが大安売りだよ~!」
やや申し訳なさそうな顔をしたヴィジットとティットも市場に来ていた。
本日は、人参とじゃがいもが特売デーらしい。
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