第044話 リーンの真意
「さてと。シェリー!」
「なに?」
若干、不機嫌な声で頬杖をつきながら返事をしたシェリーだったが、カールマンの表情を見て、姿勢を正して近寄ってきた。
「今夜、集合だ」
カールマンが小声で言う。
「了解。みんなにも連絡するね」
「いや。全員、俺から直接言う」
「え?」
いつもと違う事に、シェリーは少し戸惑ったが、すぐに頷き、仕事に戻っていった。
その後、カールマンはフォックスのメンバー全員の所へ、今夜集合する事を伝えて回った。
もちろん、メンバーではないジェイとイザベルには気づかれないように。
そして、『暗夜の灯火』が閉店し、地下室にメンバーが集まった。
「リージョ。今日、4番席に誰を通したか覚えているか?」
「え?今日は結構繁盛してたから、かなりの客を入れてると思うけど」
カールマンのいきなりの質問に対し、リージョは思い当たる節がなく答えた。
「そうか。これはおそらくだが、今、4番席に盗聴器が仕掛けられている」
カールマンの言葉に、一同がざわめく。
「そして、盗聴器を設置したのは、おそらくリーンだ」
「っ!確かに今日、4番席にリーンを通したけど、リーンが盗聴器を設置する理由がないよ!」
「ちょっと。声が大きいわよ。盗聴器に声が拾われちゃうよ」
リージョにたいして、シェリーが注意を促した。
「いや、大丈夫だ。ここの防音効果はかなりしっかりしてるから」
シェリーの心配に、カールマンが答えた。
「なぜ設置したかは分からないが、帰り際、彼女の挙動がいつもと違ったのは確かだ」
ロイがカールマンの言葉の裏付けをするかのように話した。
「くっ!今から確認して、設置されてるなら外してくる!」
「ダメだ!そのままにしておく」
リージョが立ち上がったが、カールマンがそれを制した。
「もし、俺たちがフォックスだと判っているのであれば、すぐさま連行するはずだ。だが、盗聴器を仕掛けるという事は、最悪の状態だとしても証拠がないという事だな。半信半疑という事だ」
「想像できるのは、『暗夜の灯火』で困っている事を話すと、フォックスがなんとかしてくれるという噂があるからじゃないですかね?」
盗聴器が仕掛けられた理由をロンドが推測した。
「かもしれないな。だから、暫く泳がせておいて、『暗夜の灯火』とフォックスは、無関係という印象を与える必要がある」
他の者は、なるほどといった感じで納得しているようだが、リージョはさっきからずっと俯いたままだ。
リーン’s ビューポイント――――
リーンは、今、『暗夜の灯火』から1ブロック離れた所にある空き家にいた。
「分かっていると思いますけど、一般のお店に仕掛けているんですよ。約束は守ってもらいますよ。3日です。3日後には、必ず取り外しますからね」
「分かってるって。フォックスと繋がりがあるかどうか確認するだけだって」
強行犯係でトールの先輩にあたるジャック・ロウに対して、リーンが強い口調で再確認している。
「それより、どうなんだ?そいつの調子は?」
ジャックは、リーンの話を早々に切り上げて、受信器をいじっているトールに話しかけた。
「バッチリですよ。1ブロック離れていてもしっかり聞こえますね。まぁ、今は閉店時間ですから、何も音がしないですが」
「じゃあ、なんでバッチリって分かるんだよ!?」
「何となくですよ。それよりも、個室に仕掛けてあるから、フロア内全域の声は拾えないでしょうけど、結構、広範囲まで音を拾えていると思います。そんじょそこらの泥棒が持ってる物とは、格が違いますね」
トールは、機器に詳しいのか自慢げに話している。
一方、そんじょそこらの泥棒たちは、音を立てずに地下室から出て、4番席に向かっていた。
実際に、4番席に向かっているのは、ロイとリージョとシェリーの3人だけのようだ。
後のメンバーは、地下室を出てすぐの所で待機している。
大勢で行くと、音がする危険性が増えるからだろう。
先頭を行くロイが4番席の入り口に到達した。
ロイが中へ滑るように入っていった。
と思ったら、すぐに出てきた。
リーンは隠すのが余程下手なのか、ロイはすぐに見つけたようだ。
出てきたロイは、ゼスチャーで盗聴器があった事を伝えた。
そして、3人はみんなが待つ地下室の前に向かって戻っていった。
(やっぱりあったか・・・)
リージョは、心なしか暗い顔をしている。
3人が戻ってくるのを確認して、他のメンバーは、裏口から外へ出ていった。
ロイが最後に裏口から出て、扉をゆっくり閉めると、グレーンが聞いてきた。
「やっぱりあったのか?」
「あぁ。テーブルの裏にな。結構、高性能っぽいヤツだった。ただ、あんなに入り口付近に取り付けたら、すぐに見つかっちゃうぜ。声をいっぱい拾いたかったのかもしれないが、まるで見つけてくれといわんばかりだったな」
ロイが答えた。
「あの子なりの気配りってとこか……」
カールマンがポツリと呟いた。
「え?何か言った?」
「いや、何も言ってないぞ。それより、お前ら。おそらく、近くに警察が潜んでいるから、バラけて帰れよ」
ロイがカールマンに聞いたが、カールマンに誤魔化された。
イグナス’s ビューポイント――――
イグナスとリージョは、帰る方向が同じという事もあり、一緒に歩いて帰っていた。
イグナスの隣では、リージョが俯きながら歩いていた。
「リーンが盗聴器を仕掛けたのが、ショックだったか?」
「……」
辺りを警戒しながら、イグナスがリージョに話しかけたが、返事はなかった。
「何か事情があって、やむなく仕掛けたのかもしれないぞ」
「……そうだな。それに、俺たちだって、しょっちゅう盗聴器を仕掛けてるもんな。仕掛ける側が仕掛けられるなんてな。なんか笑っちゃうぜ」
リージョはそう言って、ヘラッと笑ってみせた。
イグナスには、それが今のリージョにとって、精一杯の強がりだと分かってしまった。
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