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怪盗団フォックスの暗躍  作者: くろの那由多
第1章 アーリエス近郊にて
33/123

第033話 ジェイの大風呂敷

 北の丘での戦いから1週間程が経った。

 イグナス、リージョともに抜糸が済んで、フォックスのメンバー全員が完治したといえる状態になった。



 そんなある日。

「おはよっす」

 リージョがいつも通りに出勤してきた。

「リージョさん。こっちこっち」

 そのリージョを呼ぶ声がした。

 声のする方を向くと、皿洗いのバイトのジェイが手招きをしていた。


「なんですか?それとジェイさんの方が年上だし、呼び捨てで構わないですよ」

「いやぁ、先輩ですし、私はバイトの身ですから」

「まぁ、どっちでもいいですけど。で、こそこそと呼んで、何の用ですか?」

「明日って休業日ですよね?」

「えぇ、休みです」

「明日、この店を私が好きに使ってもいいですか?」

「えっ。ダメでしょ」

「やっぱりそうですよね」

「何かあったんですか?」

「私には息子が1人いるんですが、昨日、『お父さんの仕事ってどんな仕事?』と聞かれたんです。なんでも学校から、親の仕事について、という宿題が出たらしいんです」

「いいじゃないですか。ここで働いてるって言ったんですよね?仕事内容も?」

「えぇ、まぁ」

 ジェイの返答が歯切れ悪くなった。


「……すみません!ここの料理長をやってるって言ってしまいました!」

「え?えぇ!?なんで?」

「居酒屋で働いていると言ったら、息子が目をキラキラさせて、『どんな仕事をしているの?』って聞いてくるから、つい……」

「見栄を張っちゃったわけですか。でも、バレなければ問題ないんじゃないですか?」

「それが、食事がてら私の仕事ぶりを見に来るという事になってしまって……」

「そうなる前に止められなかったんですか!?はっ、まさか、その見に来る日っていうのが……」

「はい。明日です」

 リージョは、頭を抱えた。


「ちなみに、店さえ借りられたら、後は自分でなんとかできるんですか?」

「まさか!料理なんて何にもできません」

「じゃあ、なんで料理長なんて言ったんですか!?」

「リージョさん、声が大きいですよ」

「大きくもなりますよ!行き当たりばったりばっかりじゃないですか!ひとまずマスターに相談しましょう」

「だ、ダメですよ。そんな事を相談したら、私、バイトだからクビになってしまいますよ」

「マスターは、休みの日でも店にいる事があるんです。明日もいたら、どっちにしてもバレますよ」

「じゃあ、どうすれば?」

「とにかく明日、マスターに出掛けてもらうしかないでしょうね。あと、他のみんなにも手伝ってもらわないとできないと思います。幸い、開店までまだ時間もあります。動けるだけ動いてみましょう」

 リージョは、そこまで言うとシェリーを呼んだ。


「シェリー、お前にしか頼めない事があるんだ」

「な、何よ、急に改まって。聞いてあげるから言ってみてよ」

 シェリーは、少し顔を赤らめている。

「すぐにイグナスを呼んできてほしいんだ」

「……」

「あれ?ダメか?シェリーは足が速いし、頼みたかったんだけど」

「いいわよ。すぐね」

 シェリーは、落胆とも諦めともとれるような表情で返事をした。

「あ、あとロンドも来れそうなら呼んできてくれる?」

「分かったわ」

 シェリーは、そう返事をすると、店の扉を開けてため息を1つついてから走っていった。


「ジェイさんは、イグナスが来たら、マスター以外のみんなを5番席に集まるよう根回ししておいてください。あそこならみんな座れると思うし」

「わ、分かりました」



 ジェイがみんなに連絡をしている間に、シェリーがイグナスを連れて帰ってきた。

「リージョ。連れてきたわよ」

「シェリー、さすがに早いな。いつもありがとな」

「な。別にいいわよ。大した事じゃないし。あと、ロンドは病院があるからムリだったわ。後で来れたら来てくれるって」

「で、俺を呼んだ理由はなんだ?」

 シェリーが少し頬を赤らめているのを横目にイグナスが話した。

「開店時間まででいいから、カールマンを店の外に連れ出してほしいんだ」

「どうやって?」

「槍の使い方を教えてくれでも、いつもの悩み相談でもいいからさ」

「い、いつも悩みを相談してるわけじゃない!あの時だけだ!」

「どっちでもいいから頼むな」

「どうせお前の事だ。面倒な事に首を突っ込んだんだろう?」

「まぁな」

 ポリポリと頬をかくリージョ。



 イグナス’s ビューポイント――――


「カールマン。今ちょっといいか?」

「今か?もうすぐ開店なんだが」

「そこを何とか頼む」

「いやいや。もうすぐ開店だから。というより、なんで従業員じゃないイグナスが開店前からいるんだ?」

「まぁ、細かい事は気にしないで。さぁさぁ」

 イグナスは、断ろうとするカールマンの背中を押して、無理矢理裏口から店の外に連れ出した。



 カールマンがイグナスと店から出ていったのを見て、みんながぞろぞろと5番席に集まっていく。



 みんなが集まったところで、リージョが話し出した。

「開店前の忙しいところ、集まってもらってすみません。実は皆さんに緊急のお願いがあります」

 リージョは、ジェイから聞いた内容をみんなにざっくりと話した。



「明日はみんなも休みだと思いますが、どうか協力してください」

「俺は反対だな」

 頭を下げるリージョに、ロイが言い放った。

「なんで?」

「まずカールマンに黙ってやるって事は当然、給料もでないよな?仕事は金をもらってなんぼだ。慈善事業じゃやってられないよ。それに、こういうヤツは、一度甘やかすとまた同じ事をするぜ。ちゃんと子どもに嘘だったと謝らせるべきだ」

「それは分かってる。ジェイさんには後で罰なり何なりを受けてもらった方がいいかもしれない。でも、俺は子どもが悲しむのは見たくない」

 ロイの意見を聞き、もっともだと思いながらもリージョは粘った。


「悪いが、俺も反対だ」

 すると、今度はトレルが反対してきた。

「ここは三ツ星レストランとかじゃなく、ただのショボい居酒屋だ。だが、俺はここの料理長として誇りを持って仕事をしてきた。それを簡単に代われるみたいに思われているようで納得がいかない」


「ショボい居酒屋で悪かったな……」

 カールマンが外から盗聴器で聞きながら呟いた。

 イグナスは、カールマンに怪しいと問い詰められて、すぐに白状してしまったようだ。


「そうか……。他のみんなも反対なのか?」

 そう言って、リージョは見渡した。

「俺はどっちでもいいけど、しょっちゅう皿を割ったり、洗い残しがあったりするようなヤツの下という形ではやりたくないな」

 グレーンがそう発言した。



「わ、私はいいと思います。子どもの私が言うのもおかしいけど、子どもの夢は壊さないでほしいです」

 重い空気の中、そう言ったのは、イザベルだった。


「ふぅ。先に、年下に言われるとは情けないわね」

 シェリーが立ち上がりながら言った。

「金にならないからやらないとか、プライドが許さないとか、そんなつまらない事どうだっていいじゃん。目の前に困っている人がいて、助けられるのが私たちだけなら、助けてあげるべきなんじゃない?今のみんなの言葉、フォックスが聞いたらなんて思うかな?」

 リージョの隣にシェリーが並んで、みんなに言った。

 その言葉を聞き、全員押し黙ってしまった。



 沈黙が続く中、ジェイが口を開いた。

「私のわがままだという事は、承知の上で言います。皆さんの力を貸してください!」

 そう言って、ジェイは深々と頭を下げた。

 それを見て、ロイたちは顔を見合わせた。

 そして、席を立っていった。


 頭を下げているジェイの横を通り過ぎる時に、ロイがポンッとジェイの背中を叩いた。

「今度、何かおごれよ」

 同様にトレルも背中を叩いて、通り過ぎていった。

「今回だけだぞ」

「あ、ちょっと待って!今からここでミーティングするから!」

 リージョが2人を引き止めるように言った。

 それを聞いて、かっこよくきめていた2人はカクッと首が落ちた。



 ロイたちが席に戻ってから、リージョが今回の計画を話し出した。

「とまぁ、ざっくりこんな感じで明日の計画を立ててみました。俺もさっき聞いてから立てた計画なんで、抜けがたくさんあると思いますが、よろしくお願いします」

「リージョ。お前、この短時間でよくここまで考えられたな」

 珍しく、ロイがリージョを褒めた。


 その後、言いにくそうにシェリーが口を開いた。

「聞いていいのか分からないけど、来店するのは息子さん1人でいいんだよね?奥さんは?」

「妻はいません。私がこんな性格で嘘ばっかりつくのが、ウンザリしたようで出ていきました。息子は残ってくれたんですけど、何もしてやれてないダメな父親です」

「ダメなんかじゃないです!こんな事を計画してくれるいいお父さんじゃないですか!」

 イザベルがジェイを励ますように言った。

「私はお願いしただけで、計画してくれたのはリージョさんですけどね」

 ジェイは苦笑いして返した。

「まぁ、そうなんですけど、この計画には問題が1つあるんです。マスターが明日ここにいないという事が前提なんです。正直にマスターに話して店を貸してもらうか……」

「ダメです!そんな事をしたら私がクビになってしまうかもしれません!」

 リージョの話にジェイが割って入ってきた。

「そういう保身的な事を言わなければ、いい父親って事で話が終わっていたのに……。残念だ」

 ロイがそう言うと、みんなが頷いた。

「じゃあ、明日、マスターを連れ出す算段をしないといけないんだけど、何かいい案はあるかな?」

 リージョに言われて、考え込む一同。



「でもさ、明日って休みなんだろ?だったら、マスターも家に帰ってるんじゃないのか?」

 トレルがそう言ったが、すぐにリージョが返答した。

「マスターって昼間でも夜中でも店にいるんだよな~。もしかして、ここが家なんじゃないのかな?って思うくらい」

「確かにマスターの家って知らないなぁ」

 ロイもそう言っている。

「やっぱり、何とかして連れ出さないとだな」

 そう言って、リージョはう~んと唸った。



「あっ!マスターって演劇好きじゃなかったっけ?」

「今、何かやってるのか?」

「うん。有名な俳優さんが出演しているのがやってるらしいんだ。この前、商店街の福引きでチケット当たっちゃったし」

「あっ。それ、私が引いて当たったヤツだ!」

 イザベルがシェリーの話にのっかって、自慢げに言った。

 シェリーとイザベルは、一緒に住んでいるので、買い物には一緒に行く事が多いようだ。

「それじゃ、そのチケットをマスターに渡して、演劇を見に行っててもらおうか」

 何となく計画がまとまってきたところで、リージョがミーティングを締めくくった。

「それでは各自、つつがなく」

「お前。それが言いたかっただけだろ!」

 ロイがつっこんできた。


【読者の方々へ】


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