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怪盗団フォックスの暗躍  作者: くろの那由多
第1章 アーリエス近郊にて
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第003話 ニーの印象

 翌日は『暗夜の灯火』が定休日という事もあり、各自午前中から調査にあたっていた。

 この日は、キツネの仮面と忍び装束というフォックスのスタイルでの行動となった。


 イグナスは、まずレイブンの事務所を調べに行った。

 事務所内にはレイブンの人間が大勢詰めており、とても電気料金の領収書を探しに忍び込める状況ではなかった。

 という事で、作戦会議でカールマンが言っていた通り正面突破する事にした。



 イグナスは、路地裏で仮面と忍び装束を脱ぎ、発電所員の服装に着替えて事務所の玄関にまわった。

「こんにちは~。電気料金の事でお伺いしました」

 イグナスは発電所員になりすまし、事務所内に入り、声を上げた。

 すると、奥から右目の上に大きなキズのある男が姿を現した。


(おいおい!あいつはニー・ディアスじゃないか。ここのリーダー、直々にかよ!)

 内心焦るイグナスに、ニーが話しかけてきた。

「なんだぁ?この前、取りに来たばっかりじゃないか?」

「あ、いえ。不備があったかもしれないので、今、一軒一軒確認に回ってるところなんです」

「そうか。だったら領収書がいるのか?おぉい!今月の領収書持ってこい!」

 ニーが部下に命令した。


 イグナスは、ニーの印象が思っていたのと違いすぎたため、ややドギマギしてしまった。

 そうしてる間に、ニーの部下が領収書の束を持ってきた。

「兄貴、これで全部です」

(1枚じゃないのかよ)

 イグナスがそう思っているところへ、ニーが説明し出した。

「一番上のが、この事務所のヤツ。残りはこの支部に籍を置いてるヤツらの家の領収書だ。こうでもしないと払わないヤツが多くてな。ほら、早いとこ確認してくれや」

「あ、はい。ありがとうございます」

(意外だな。ちゃんと払ってるみたいだし、部下の分まで管理が行き届いている。ニーというヤツの人柄について改める必要があるかもしれないな)

 領収書を確認するフリをしつつ、イグナスはそんな事を考えていた。

「問題ないです。ありがとうございました」

 イグナスはそういうと事務所を後にした。



 一方、ロイとリージョは、午前中に発電所の見取り図を入手し、午後から発電所内部に侵入していた。

 労働者のロッカーや発電システムなどを忍び込んで見て回っていた。

「今のところ、問題なしだな」

「そうだな。あとは所長室くらいか?」

 ロイはそう言うと、通気口の中へ入っていった。

 リージョもそれに続き、周りを確認しながら入っていった。



 通気口を通り、所長室の真上まできて中の様子を覗くと、所長のミケル・イーヴンがいた。

 ミケル所長は、日常業務をせっせとこなしていた。

「ここも異常なしか」

 ロイが呟き、次に移動しようとしたその時、ミケル所長が立ち上がり、金庫の方へ向かっていった。

「ロイ、ちょっと待って。金庫の中も見ていこう」

 リージョがロイを引き止める。


 そして、2人でミケル所長の動きを注意深く見る。

 ミケル所長は、見られている事に気づかず金庫を開けようとしていた。

 金庫は電子ロック式で、2人は番号を見落とさないように食い入るように見ている。

「5、9、6、3。ゴクローサンかよ」

 ロイは呆れた顔をしているが、何はともあれ金庫が開いた。


「よしよし。結構貯まってきたぞ。だが、従業員が気づき始めたな。だとしても、レイブンの名前を出しておけば大丈夫だろう」

 ミケル所長は、金庫の中の札束やコインを数えながら、呟いていた。

「おい、リージョ。見てみろよ、あの悪そうな顔。こいつが犯人だな」

「顔だけで判断するなよ。まぁ、でも決定だな」

「金庫の中の物は、今夜にでも頂きに来よう。一旦戻って、カールマンに報告だな」

 2人は小声でそう話すと慎重に発電所から立ち去っていった。



 夕方、定休日で人がいないはずの『暗夜の灯火』内にフォックスのメンバーが集まっていた。

「今日の調査結果で、獲物は発電所内の金庫だと分かった。今夜、ミケル所長が帰宅した後、所長室に忍び込み、金庫内の物を全て頂こう。そうそう、それから空の金庫にこれを入れておいてくれ」

 カールマンはそう言って、リージョに1枚の紙を手渡した。

「了解!」

 リージョは紙をひらひらさせながら答えた。

「あとは当初の作戦通りだ」

 カールマンの言葉でまた全員散っていった。



 19時をまわった辺りでロイとリージョが再度、発電所へ侵入していった。

 所長室の真上にきて、中を覗き込むと、ちょうどミケル所長が帰り支度をしているところだった。



 2人はミケル所長が部屋を出て暫くしてから、所長室に降り立ち、素早く金庫の前にやってきた。

 2人の手には大きな袋がある。金庫の中身を入れるためだろう。

 ロイが5、9、6、3の順にボタンを押す。


 ビー!


 エラー音が鳴り、慌てる2人。

「ちょっ!そういうのいらないから!」

「いや、わざとじゃないし。そもそも間違えてない!」

「そうなのか?うっかりって事もあるかもだろ?もう一度押してみなって」

「間違えてねぇって!それに、こういうのは3回間違えるとロックが掛かっちゃうもんだ。再確認で1回使ったら残り1回になっちまうじゃないか!」



 考え込む2人。

 その静寂を破り、リージョが話し出した。

「俺たちが戻ってる間にナンバーを変更した?」

「なぜだ?俺たちが見てる事に気づいて?いや、それはないな」

「じゃあ、定期的に変えてるとか?」

「例えば?」



 リージョは、少し考えた。

「さっき見たのは午後だったから5、9、6、3(ゴクローサン)。次に開けるのは明日の朝だから0、8、4、3(オハヨーサン)とか?」

「それだと毎日変えてる事になるじゃないか。そうじゃなくて、時々更新するナンバー……って!押すなって!外したらリーチ掛かっちゃうじゃないか!」

 ロイがしゃべってる間に、リージョが0、8、4、3と押し始めていた。

「リーチが掛かる前から焦っても仕方ないだろ?やってみよう。ラスト、3っと。どうだ!」


 カチャ


 金庫の開く音がした。

「ったく。どいつもこいつも何を考えているのか……」

 ロイはブツブツ呟いている。

「さぁ、遅れた分急ごうぜ。合流地点に遅れちゃう」

 リージョはせっせと金庫の中身を袋に詰めていく。

「はっ!そうだな。急ごう」

 ロイも我に返り、どんどん金庫の中身を入れていく。



「ふぅ。袋がいっぱいになったな。これ、通気口を通るかな?」

「今は夜勤者だけだから、普通にドアから出ていっても大丈夫な気がするけどな」

 ロイの返事で、リージョも頷き、所長室のドアから物音を立てずに出ていこうとした。

「おっと、置き手紙を忘れてた」

 リージョは懐から『今後、同様の事をするのであれば、レイブンの名を騙った事を公表する』という置き手紙を取り出し、金庫の中に入れ、金庫の扉を閉めた。



 やはり夜勤だからか、発電所の出口まで誰とも遭遇する事なく、移動する事ができた。

 発電エリアのみ稼働しているようだ。


 2人は発電所を出ると、すぐ近くにある倉庫へと向かった。



 そこは現在、空き倉庫になっているようで、ここが合流地点のようだ。

「まあ、ほぼ時間通りだな。よくやった」

 カールマンがねぎらいの言葉を言った。

「よし、じゃあ、ここにある封筒に未払い分を入れていってくれ」



 一人一人、残業代などで未払い金額が異なるため、名前の書いてある封筒にそれぞれ相応の金額を入れていかないといけなかった。

 めっちゃ地味な作業だが、すごく大変なようだ。

 リージョたちは、内心、応援を呼んでほしいと思っているようだが、一人一人の未払い金額を計算したカールマンの事を思うとそんな事は言えないようだ。

 その作業もかなり大変だっただろうから。



「全員分、終わったぁ!」

 クタクタになったリージョが叫んだ。

「それじゃ、3人でそれぞれのロッカーに入れてきてくれ。夜勤の定時まであと少しだ。間に合うように頼むぞ。オレは先に『暗夜の灯火』へ戻っておく」

 カールマンに言われ、今度はイグナス、ロイ、リージョの3人で侵入する事になった。



 倉庫を出て、発電所までダッシュで来たが、ジャラジャラと音がすごく鳴った。

 3人は、発電所に入ってからは慎重に移動するようにした。

 脱出の時でも分かっていたように、夜勤時は発電エリアのみ気をつければ特に問題はないようだ。

 音にだけは気をつけて、3人はロッカーへと急いだ。



 中にはまだ誰もいないようだ。

 3人で手分けして、ロッカーの中へ『給料の未払い分です』と書かれた封筒を入れていく。

 3人ともロッカーの鍵なんかは、あっという間に開けていく。

 さすが本職といったところか。


 こうして、全ての封筒を入れ終わった段階で、3人でアイコンタクトをしてロッカーを出ていき、発電所から立ち去っていった。



「おぉ、帰ったか。お疲れさん」

 『暗夜の灯火』に戻った3人は、カールマンから今回の報酬を受け取った。

「いや~、結構従業員が多くってロッカーを探すのとか地味に大変だったよな~」

 リージョがそう言いながら、受け取った封筒の中身を手の平に出した。

「あれ?こんだけ??まさか、カールマン!俺たちにも給料未払い!?」

「そんなわけあるか!!」

 その日、深夜遅くまで『暗夜の灯火』から声が響いていた。


【読者の方々へ】


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