第029話 おもちゃの威力
ランドル’s ビューポイント――――
ロイとグレーンは、それぞれ多少傷を負っているが、武器が手に入り、少し余裕のでてきた顔つきをしている。
その顔を見て、ランドルは更に怒りをあらわにしている。
実際、自慢の大剣を振り回すが、ロイにはかわされ、グレーンには大剣で防がれてしまっていて、ダメージを与えられていない。
それどころか、片方に攻撃を仕掛けると、残りの1人が攻めに転じて斬られていく。
致命傷はないものの、ランドルに手傷が増えていく。
「はぁ、はぁ、はぁ。めんどくさいヤツらめ」
疲れから、ランドルの手数が減ってきた。
その様子を見て、ロイがグレーンに視線を送る。
「うおおぉぉ!」
ロイからのアイコンタクトに気づき、グレーンが大声を上げながらランドルに斬りかかる。
息の上がってきたランドルは、反応が少し遅れてきている。
キィィーン!
それでも、グレーンの方に振り返り、上から振り下ろされてきたグレーンの大剣に対し、自分の大剣を振り上げて防いだ。
ズブッ!
ランドルは、グレーンの大剣を防いだと同時に、両脇腹に熱いものを感じた。
ランドルが視線を下に落とすと、そこには後ろから2つの剣が突き刺さっていた。
ランドルは、瞬時に大剣から左手を離し、背後に裏拳を放った。
ゴッ!
ランドルの裏拳は、ロイの顔面を直撃し、ロイは後方に吹き飛ばされた。
更に、グレーンの腹めがけて前蹴りを繰り出して、グレーンも吹っ飛ばされた。
「こいつ、まだこんな力が」
優勢に立っているとはいえ、ランドルの底知れぬ力に冷や汗を流す2人。
「ここらが引き際か・・・」
両脇腹からの出血やその他諸々の裂傷を見て、ランドルは呟き、裏拳を受けて倒れ込んでいるロイへ跳び蹴りを放った。
ロイはそれを回転しながら避けた。
着地したランドルは、そのまま丘を駆け下りていった。
その様子を見たロイとグレーンは、安堵のため息を漏らした。
「なんとか撃退できたな」
「あぁ。あっちはどうなってるかな?」
ロイはそう言うと、丘の上に視線をやった。
イグナス’s ビューポイント――――
「待たせたな」
イグナスはそう言うと、走りながら刀をケリーに向けて振り下ろした。
キィィーン!
振り向いたケリーは、2本の短剣でなんとかイグナスの刀を受け止めたが、イグナスの刀の威力に負け、後方へ少し飛ばされた。
「ニーさん、どうします?コイツら素手でも厄介だったのに、武器まで持ち出したら手に負えないかもしれません」
吹っ飛ばされたケリーが、短剣での構えを解かないまま、すり足でニーに近づきつつ話している。
「ふん!慣れない武器を持ったところで大した脅威にはならんさ。当たらなければ、どうという事はない!」
ニーはそう言い放つと、黒狼剣を構えてイグナスの方へ走り出した。
そこへイグナスの斜め後方から、ニーを狙ったニードルが3本程飛んでいった。
シェリーの後方からの援護だった。
キキィィーン!
一振りでニードル2本を弾くニー。
もう1本は大きく外れ、リージョの足元に突き刺さった。
「あ、危ねぇよ!」
とっさに文句が出たリージョだったが、すぐに切り替えて、ニーに向けて十文字槍を突き出した。
キン!
ニーは、その突きを黒狼剣でいなし、それによってバランスを崩したリージョの背中を斬りつけた。
ザシュッ
「がっ!」
バランスを崩されていた事と、背中を斬られた痛みから、リージョはそのまま地面に倒れてしまった。
「ふん。他愛もない」
倒れたリージョを一瞥するニー。
そのニーの右には、イグナスが刀を振り上げ迫ってきていた。
そして、振り下ろされた刀に黒狼剣を合わせ、これもいなす。
キン!
「あ!?」
リージョ同様、バランスを崩すイグナス。
イグナスがバランスを崩した直後に、ニーの左拳がイグナスの脇腹に突き刺さる。
「ぐはっ!」
よろめきながら、イグナスはニーと距離をとる。
「ケリー!もう『J』との打ち合わせはムリだ。お前は『J』を逃がしに行け!」
「は、はい。分かりました!」
ケリーはニーに返事をするなり、すぐに小屋に向かって走っていった。
「行かせるな!」
イグナスはシェリーの方を見て叫んだ。
その声を聞き、頷いたシェリーはベルトから両手で数本抜き取り、走っていくケリーに向けて投げつけた。
すると、ニーが飛び出し、ケリーの方へ飛んでいくニードルめがけて剣を振った。
キキキィィーン!
「同時に投げれば、こんなもん一振りで落とせるさ」
ニーは、シェリーが投げたニードルを全て打ち落として、どうだ!と言わんばかりに言い放った。
「くっ!」
シェリーが悔しそうに顔をゆがめる。
「大丈夫だ。ニーの動きを止めただけでもお釣りがくる」
ニーの背後から声がした。
一瞬の隙をつき、イグナスがニーの背後に回っていたのだ。
そして、イグナスがニーに対し、上から斬りかかった。
「なめるな!」
ニーは振り向きざまに剣を横に振った。
ズシャァ!
お互い相手の斬撃を防ぐ事をせずに斬り合い、相打ちになってしまった。
「くっ!相打ちかよ」
「相打ち?どうかな?」
ニーの呟きに、痛みをこらえながらイグナスが返す。
その瞬間、ニーの左脇腹に痛みが走る。
リージョの槍がニーを捉えていたのだ。
「ぐはっ!」
ニーは、たまらず後ろに飛び退いた。
ニーが飛び退いたため、イグナスたちとニーとの間に距離ができた。
その距離を利用し、構えは解かないままニーが小屋の方へ視線をやった。
ケリーが小屋の扉の所までたどり着いていた。
「ここまでだな」
ニーはそう呟き、後ずさりをし始めた。
それに気づいたリージョが背中の痛みに耐えながら、小屋に向かって走り出した。
ちょうどその時、向こう側からロイとグレーンがこっちに向かってきていた。
「荷台に四角い箱がある!それに火を付けて小屋に投げ入れろ!」
ロイとグレーンを視認したリージョが2人に向かって叫んだ。
足を負傷しているグレーンは、懐からライターを取り出し、ロイに投げた。
それを受け取ったロイは荷車へと走り出しながら、叫んだ。
「火を付けたらどうなるんだ?」
「爆発する!だからすぐ投げろよ」
「ちょっ!そういう危ないのは、もっとちゃんとした説明がほしいぞ」
それを聞いたニーも叫ぶ。
「ケリー!『J』を連れて、すぐ逃げろ!!」
ニーの叫び声を聞き、ケリーは慌てて小屋の中に入り、『J』を連れ出そうとする。
それと同時に、ロイも荷台から箱を取り出し、導火線に火を付けて小屋めがけて箱を投げた。
ガシャーン!
ロイの投げた箱が小屋のガラスを割り、小屋の中に転がった。
ケリーと『J』は急いで、近くの岩場に飛び込んだ。
他の面々もその場に伏せた。
ドオォォーン!!
轟音と共に小屋が吹っ飛んだ。
辺り一帯に、木の破片などの瓦礫が降り注ぐ。
瓦礫の飛散が止み、一同が身体を起こし始めた。
小屋は跡形もなく消し飛んでいた。
リージョが辺りを見渡すと、ケリーと『J』が丘を下っていくのが見えた。ニーはすでに姿をくらましたようだ。
グレーンもケリーたちの姿を捉え、追いかけようとした。
「もういい。もう追わなくていい」
リージョがグレーンを制止した。
「確かに『J』を捕まえられなかったのは痛いけど、ニーとランドルに深手を負わせ、ヤツらのアジトも1つ吹っ飛ばせたんだ。良しとしよう。それにこっちにも重傷者が2人もいる。ここらがお互い引き際って事だな」
ロイがまとめるように言った。
フォックスの5人は荷車の所に集まり、重傷者であるイグナスとリージョを荷台に乗せ、他の3人で荷車を押して、この場を後にした。
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