第026話 イグナスたちの尾行
日付が変わり、ついにニーと『J』が接触する日となった。
この日も『暗夜の灯火』は、通常通り営業する予定だが、イグナス、ロイ、グレーン、リージョ、シェリーの5人がフォックスとして行動している。
店に残るのはカールマンとトレル、あとはイザベルと新しく皿洗いのバイトとして入ったジェイ・ホワイトだけという事になる。
カールマンは、前日にこのシフトを店に残る3人に見せた。
「えっ?このメンバーでやるの?」
イザベルがびっくりした顔をしている。
人数もそうだが、半数が新米なのだ。
イザベルが心配になるのも当然だろう。
「俺も厨房からフロアまで駆け回る事になるだろうな」
いつもはカウンターで指示を出していたり、客の相手をしている事が多いカールマンも覚悟を決めているようだ。
「まぁ、この私がいれば何とかなるのではないですか?」
なぜか最近入ったばっかりのジェイは、自信満々でいる。
トレルは、フォックスの行動を知っているだけにため息をついていたが、イザベルはなぜこんな体制でやるのか、訳が分からないといった様子だ。
イグナス & シェリー’s ビューポイント――――
朝一からレイブンの事務所の裏にイグナスとシェリーが張りついていた。
「なかなか動きがないね。お昼の買い出しに行ってこようか?」
昼前になり、しびれを切らしたシェリーが、2階の事務所を盗聴しているイグナスを見上げながら小声で話しかけた。
「いや、そろそろ動きがありそうだ。もう少し待機だ」
「え~。タイミング悪いなぁ。ご飯の時間を考えて行動してほしいな」
路地裏でシェリーがぼやく。
しかし、尾行する相手を見失ってはいけないので、我慢するしかない。
下でシェリーがムスッとしていると、イグナスが盗聴器を外して飛び降りてきた。
「ニーとケリーが出掛けるようだ。後を追うぞ」
「あ~あ。お昼抜きだぁ」
シェリーは、そう言いつつお面を被り、尾行の準備をした。
暫くすると、ケリーが事務所から出てきたが、ニーの姿がない。
「イグナス、どうする?ケリーを尾行する?」
「いや、ニーも一緒に行くはずだから、今、ケリーを尾行するとニーに見つかる可能性が高い。ニーが出てくるまで待とう」
「行くのがケリーだけに変わってたら?」
「……大丈夫だ」
シェリーの質問に、イグナスは少し自信なさげに答えた。
ケリーが事務所を出発してから10分程が過ぎた。
「やっぱり今からでもケリーを追いかけた方が良くない?」
「……そうだな。そうするか」
イグナスがシェリーに答えて、動き出そうとしたその時、事務所からニーが出てきた。
慌てて止まるイグナスとシェリー。
ニーがケリーと同じ方向へ歩き出した事から、途中でケリーと落ち合うのだろうと読んだイグナスは、ニーとの距離を保ちながらシェリーと共に後を追った。
ニーは西門から出るつもりなのか、事務所を出発してから西に向かって歩いていった。
そのニーを2人が尾行していると、西門付近にある討伐者たちがよく集まるという酒場の前でケリーが立っているのが見えてきた。
「よう。待たせたな。ランドルに見つからないように出てこないといけなかったから、時間がかかっちまったぜ」
「いえ。大丈夫です。では、向かいましょうか」
ニーとケリーは軽く言葉を交わすと、西門に向けて歩き出した。
「相手はステイ・ランドルに注意を向けている。俺たちの尾行にはなかなか気づきにくいかもな」
「でも、そのランドルが追いかけてくるかもって思って、いきなり後ろを振り返ったりしてね」
「まぁ、いつも通りって事だ。慎重に尾行していくぞ」
「オッケー!って、ちょっと思ったんだけど、ホントにランドルが追いかけてきたら、私たち挟み撃ちに合っちゃうんじゃない!?」
「それはちょっと面白くないな。シェリー、お前は後ろを注意しておいてくれるか?」
「いいけど、私、ランドルの顔を知らないよ?」
「奇遇だな。俺も知らないんだ」
「いやいや。明らかに準備不足でしょ!」
「仕方ないじゃないか。日数が少なかったんだから。それより、ヤツら西門から出ていくぞ」
イグナスとシェリーがこんなやり取りをしている間に、ニーとケリーが西門から出発していった。
イグナスとシェリーは、ニーたちが西門を出てから少し時間を空けて、自分たちも西門を通過した。
もちろん、背後からランドルらしき人物が来ていない事を確認しながら。
ちなみに、アーリエスには、基本的に門番はいない。
おかげで、イグナスとシェリーは、誰にも見られる事なく街の外に出る事ができた。
イグナスたちは、西門を出ると辺りを見渡した。
すると、森林地帯を進むニーたちの姿が見えた。
森林を抜けていくルートで北の丘の小屋に向かうようだ。
「シェリー。森林地帯へ向かうぞ」
「了解。その方が尾行するのには好都合だね」
そう話すと、2人はすぐに森林地帯に飛び込んで身を隠しながら、ニーたちの尾行を続行した。
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