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怪盗団フォックスの暗躍  作者: くろの那由多
第1章 アーリエス近郊にて
21/123

第021話 リージョの失態

 リージョ’s ビューポイント――――


 やっべぇ。めっちゃ緊張してきた。

 確かに早くあのじいさん以外の接客をしたいと思っていたけど、いざ役が回ってくるとヘマをしないか心配になってくる。

 しかも、相手は警察。

 バレないようにしないといけないし……。

 でも、情報を引き出さないと意味がないし……。


 ロイから引き継ぎを終えたリージョは、極度の緊張からテンパっていた。

「ポテトフライと、骨付きチキン。できたぜ。持ってっていいぞ~」

 厨房からトレルが料理を出してきた。

「りょ、了解」

 そう言うと、リージョはポテトフライをひとつまみ口に入れた。


 ガァァーーン!


「なに、オーダーに手を出してるんだ!」

 緊張のあまり無意識に料理を食べたリージョの頭を、カウンターにあったトレイでトレルが叩いた。


「まったく。集中しろよな」

 そう言って、トレルは新しい物と交換してきた。


 リージョは、若干震える手で二品持ち、2番席へと向かった。

「えっと、ポテトフライと、骨付きチキン。お持ちしました」

 そう言って、2番席ののれんをくぐると、目の前には夕方に出会った女性警官の顔があった。

「あっ、さっきの!」

「あなた!ここの店員だったの!?」

 リージョとリーンは、2人してびっくりした顔をしている。

「あれぇ?2人は知り合いだった?」

「え、えぇ。今日ちょっとね」

「ん?今日?ってことは勤務中に!?俺たちが警察だってバレちゃったの?あちゃ~結構いい店だからちょくちょく食べにこようと思ってたのに。やっぱりあれでしょ?客が警察だと分かると身構えちゃうよね?」

 トールは、明らかにがっかりした様子で聞いてきた。


 リージョは、テーブルに料理を置きながら、少し考えて答えた。

「ん~、どの店でも大抵そうでしょうね。でも、今のところ、この店で知ってるのは私だけなので、私が黙っておけばなんとかなるかな」

「それは、ありがたい。ぜひお願いします」

「こちらも常連客が増えることは嬉しいことですし」

 リージョとトールは、利害が一致したようで、握手でもしそうな勢いだった。


「な~んか、あやしいな。何か下心があるんじゃないの?」

「コイン1枚拾っただけで疑われちゃ、たまんないですよ」

「拾っただけ。じゃないでしょ!ポケットに入れたでしょ!」

「まぁまぁ。彼女、盗犯係だからそういうのに厳しいんですよ。気にしないでください」

「ちょっと!トール!」

「ってことは、お兄さんは盗犯係じゃないんですか?」

「俺は強行犯係。体を張って仕事してます!」

 トールは、敬礼をしてみせて、ちょっとふざけて答えた。

「ちょっと!内部事情を話しすぎだって!」


「そういえば、結構前に南部で起こったいざこざ。あれってレイブンが関係してるって噂ですよね。かなり経つのに、警察の方で取り締まったりしないんですか?」

「小屋が半壊された事件?倒れてた男がレイブンの者だって分かってたり、いろいろ証拠も残ってる感じなんだけど、なんか捜査が打ち切りになっちゃったんだよなぁ」

 リーンが話を止めに入ってもリージョとトールで話を進めてしまっている。


「ふ~ん。警察も内部でいろいろあるんですかね?」

「……よし。今度、上司に掛け合ってみるよ。どうせ新人のいうことなんて簡単にあしらわれるだけかもしれないけどね」

「っと、リフレッシュしにきたのに、仕事の話なんてやめましょう。どんどんお料理持ってきますね」

 リージョは、そう言うと2番席を後にした。


「こりゃ、結構簡単に情報を引き出せそうだな」

 リージョは、そう思いながらカウンターに戻り、カールマンに報告した。

 その後も料理を持っていったり、追加注文を受けたりと接客をこなしていった。



 閉店後、『暗夜の灯火』内でちょっとしたミーティングが行われた。

 そこでは、リーンが盗犯係でトールが強行犯係であること。

 その二人ともまだ新人でそこまでの権力はないことなど、リージョが得た情報をネオ・ネオクサス全員に伝えられていた。

 リージョは自分が取ってきた情報がみんなに発表されるたびに嬉しそうな顔をしていた。

「あのトールってやつ。簡単にいろいろ話してくれるな。これからもどんどん聞き出していくぞ」

 そんなことを考えていると、カールマンから注意が飛んだ。

「それから、リージョ。あまり深入りするなよ」

「えっ。なんで?これからもっと情報を聞き出すよ」

「トールってのは新人なんだろ?変にあおると突っ走っちゃうぜ」

「あぁ。今日の会話だけでもヘタしたら」

 トレルやロイもそう言ってきた。

「ちぇっ。せっかく情報をとったのに」

「よし!今日はここらで解散だ」

 リージョが一人むくれているところで、ミーティングがお開きになった。



 それから一週間程、過ぎたある日。


「いらっしゃい。お一人様で?」

「えぇ」

「では、4番席へどうぞ」

 リーンが一人で『暗夜の灯火』に来店してきた。

「リージョ、4番席へ注文とってこい」

「うぃっす」

 リージョは、店内に入った時からリーンの表情が曇っていたので、何かあったのかと気になりながら4番席に向かった。

「こんばんは。今日はトールさん一緒じゃないんですね」

「トールは……。今、病院なの」

「えっ!?どうしたんですか?」

「一昨日、何者かに襲われたらしく、今、意識不明の状態なの」

「何があったんですか?」

「昨日からトール襲撃の捜査が始まっているみたいだけど、あまり進展がないみたい。ただ、襲われた日、私に『上司にレイブンの事を進言してくる』って言ってたの」

「あっ、すみません。この前、俺があんなこと言ってしまったから」

「いえ、いいの。トールは職務を全うしただけで、仕方のない事。あなたが気にする事はないわ」

「でも……」


「私は盗犯係だから捜査にも加われないの。同じ警察なのに、トールの上司が何か知ってるんじゃないかって思ってるのに動きがとれないのが悔しくて……」

「すみません。俺は話を聞くくらいしかできなくて……」

「別に何かしてほしくて話してるわけじゃないから気にしないで。そういえば、この前ここに来た後で聞いた噂だけど、ここで話した事がフォックスに伝わって動いてくれるらしいじゃない」

「あぁ。そんな噂もありますね。本当に動いてくれるといいですけど」

「そうね。ま、でも、警察が泥棒を頼るようじゃダメね」

「そんなことないですよ」

「ありがとう。ちょっと気が晴れたわ。何か飲み物でも頼もうかしら」

 そう言ったリーンの顔は、少しだけ和らいでいるようにも見えた。



 リーンが店を出るのを見届けたリージョは、カウンターにいるカールマンにすぐさま詰め寄った。

「カールマン。今回の件、俺が自分の手柄ほしさに動きすぎたせいだ。トールが襲われた事件を調べさせ……」

「失敗を反省してるならそれで充分だ。ここからはチームプレイでいくぞ」

 カールマンがリージョの言葉を遮り、話した。

「あぁ!」



 その日の夜。

『暗夜の灯火』の地下室にフォックスのメンバーが集まった。

「今回のトール襲撃事件。レイブンが関係しているかもしれない。それに警察内部の動きも気になる。この2つの勢力を調査し、事件の本質を見抜く。まずはそこまでだ」

 カールマンがそこまで言うと、リージョも勢いよく頷いた。


「あとは、新人とはいえ警察が1名やられている。こちらも念のため武装した方が良さそうだ。カンカセルにある武器屋には、すでにそれぞれの武器を発注してある。そろそろできあがる頃だとは思うから、取りに行った方がよさそうだ」

 カールマンは、そう言うと、今回の作戦と役割分担を話し始めた。


「まず、レイブン側の調査にイグナスとシェリー。シェリーは情報のつなぎ役をメインとして動いてくれ。警察側の調査にはロイとグレーン。お前らは交替しながら調査を頼む。それから、カンカセルへの武器の調達にはリージョが行ってくれ。それから、作戦内容だが……」

「ちょっと待ってくれ。俺を調査の役に変えてくれないか」

 カールマンが作戦の内容を説明している時、リージョが口を挟んだ。


 周囲がざわつく。

 今までカールマンが作戦を説明している途中に異論を唱えた者はいなかったからだ。


 カールマンは、リージョの方を向き、役割分担の理由を説明する。

「お前は、自分の責任だと思い、少し熱くなっている。その状態では情報収集は務まらない。今のお前には、武器の引き取りがちょうどいいんだ。いいな」

「ぐっ。……分かった」

 カールマンの威圧感に負け、リージョは引き下がった。

 カールマンは、リージョが押し黙ったのを確認して、作戦内容の続きを皆に話し出した。

「以上になるが、全員異論はないか?それでは各自、つつがなく」



 フォックス全員が『暗夜の灯火』から出て、帰っていった。

 リージョは、道端に一人立ち止まり、夜の満月を見上げていた。


【読者の方々へ】


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