第020話 リーンの目標
地下室でフォックスのみんなと大騒ぎした次の日の夕方。
「あ~あ、今日も普通の仕事かぁ」
そう言いながら、リージョが家を出ると、家の前の通りにコインが1枚落ちていた。
「おっ、ラッキー。今日はいいことがあるかな?」
そう言って、コインを拾い上げ、ポケットにしまった。
ピピピーッ!
「こらっ!そこのコソ泥!!」
ついついビクッとなるリージョ。
リージョが振り返ると、女性警官がこっちに向かって歩いてきていた。
「たかが1ディアだとしても、拾ったら警察に届けないといけないんですよ」
「はいはい。ところでなんで俺が拾ったのが1ディアだって分かったんですか?まさか、あんたがコインを置いて、拾わせようと仕掛けたんじゃないんですか?」
「なっ、失礼な!私はそんな事はしません。1ディアだって言ったのも適当に言っただけです!」
女性警官がムキになって言い返してきた。
「これから用事があるので、とりあえずこの1ディアはあなたに預けますね」
リージョはそう言うと、指でピンッとコインを高々と弾いた。
「あっ」
女性警官は、宙に舞ったコインに気を取られてしまった。
女性警官の手にコインが落ちてきた時には、リージョはもういなかった。
「アイツめ~。次に会ったら懲らしめてやるんだから」
リージョ’s ビューポイント――――
「ふぅ、厄介なのにからまれたな」
そう言いながら、『暗夜の灯火』の裏手に回り、店内に入っていった。
「リージョ、来たか。少し遅刻だぞ」
「すみません。変なのにからまれてちゃって」
「まぁいい。1番席さんがお待ちかねだ」
「指名ですか!?行ってきます!」
「いらっしゃいませ。お待たせしま……し……た」
リージョの接客相手は、またしても孫と上手くいっていないというおじいさんだった。
リーン’s ビューポイント――――
私は、リーン・ジンジャー。
アーリエスで警官をしているの。
といっても、まだ警官になって間もないんだけどね。
アーリエスは、そんなに大きくない街だけど、なかなか活気もあっていい所だと思ってる。
ただ、泥棒や悪い組織がチラホラいるのが残念なところかな。
私も警官になったし、そんな悪いやつらを片っ端から捕まえて、この街をもっといい所にしていくんだ。
特にフォックスっていう泥棒。
義賊だなんだと言われているけど、結局は金品を盗んでるんじゃない。
正義のヒーローみたいな顔していても、やってる事は悪い事なんだから。
夕方に出会ったコソ泥なんか目じゃない大物を捕まえなきゃ。
といっても、そのコソ泥にも逃げられちゃったんだけどね……。
今日の勤務を終えたリーンが、更衣室で着替えて警察署から出てきた。
「よっ。今上がりか?これから何か用事でもあるか?」
警察署の門の所で、同期のトール・ホイッスルが声を掛けてきた。
「別に何もないけど、どうしたの?」
「お互い明日は非番だし、飯でも行かないか?」
「いいけど、私、今日、機嫌が悪いわよ」
「よし!そういうことなら、今日は居酒屋でパァーっと飲もう」
そう言うと、2人は、とある居酒屋へと向かって歩いていった。
「いらっしゃい!お2人様ですか?」
トールとリーンが店内に入ると、がっちりした体の男が声をかけてきた。
トールが頷くと、男は2番席へと案内した。
「へぇ~。ここ個室になってるんだ。来たことあるの?」
「一度、先輩に連れてこられてな。マスターはあんなごつい感じだけど、料理もおいしいし結構いい所だと思うぜ」
そう言いながら、2人でメニューを見始めた。
「すみませ~ん」
「は~い。ただいま」
注文するためにトールが店員を呼ぶと、イケメンのウェイターが現れた。
「何にしますか?」
「刺身の盛り合わせと、ポテトフライと、骨付きチキン。とりあえず以上で」
「はい。少々お待ちを。あれ?お客さん、以前にもご来店されました?」
ウェイターがトールに話しかけてきた。
「記憶力いいね~。少し前に会社の先輩とね」
「今日はきれいな彼女さん連れですか」
「いやぁ~。あっはっは」
「ちょっと!」
「では、しばらくお待ちくださいね」
リーンが口を挟んできた辺りで、ウェイターは厨房へと戻っていった。
「いつから、私があなたの彼女になったのよ」
「まぁ、いいじゃないか。話の流れだよ」
「別に否定すればいいだけじゃない!まったくもぅ!」
リーンは、むくれて横を向いた。
「そんなに嫌なのかよ……」
「ん?なに?」
「いゃ、なんもない」
トールは、少ししょぼくれてしまった。
ロイ’s ビューポイント――――
「カールマン。2番さん、サツだぜ。女の方は分からないが」
「そうか。気取られるなよ」
「前回、俺がいろいろ聞き出してるから、今回も俺が根掘り葉掘り聞くと怪しむかも」
カールマンは、2番席から戻ってきたロイからの報告をカウンターで聞きながら辺りを見回した。
「1番にリージョが行ってるから、戻ってきたら行ってもらおう」
「1番。あぁ、じいさんか」
そんなやりとりをしていると、ちょうど1番席から疲れ切ったリージョが出てきた。
「リージョ。次、2番席の料理ができ上がったら行ってくれ」
「えっ?」
「1番席脱出だな。ヘマするなよ」
ロイが親指を立てて、言ってきた。
「お、おぅ」
疲れた表情をしていたリージョの顔がやや緊張気味になってきた。
それもそのはず、リージョは1番席以外の接客をまだした事がないのだ。
「とりあえず厨房の中に入って、ロイから状況を引き継いでおけ」
カールマンに言われ、ロイとリージョは、厨房の方へと入っていった。
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