第018話 リードのわがまま
翌朝、ロンドの家に合格通知が届いた。
こうして、ロンドは明日から中央病院で働く事になった。
働く内容は、レイズ主任が理事長に言っていた通り、E棟の患者以外の診察であった。
ロンドが働き始めるより1日早く、イグナスがE棟に何があるのかを調べに潜入した。
イグナスは、E棟の通気口をひたすら進んだ。
病室、医師たちの会議室、ロッカールームなどを天井裏から、くまなく聞き耳を立てて移動した。
その結果、やはりE棟に入院している患者は、ロイが入手した情報通り、長くはもたない患者ばかりのようだ。
イグナスは、更に移動し、手術室の上へとたどり着いた。
そこで見たものは、手術室で患者の身体を開き、悪くなっていると思われる臓器の付近に袋状のポーションを詰め込んで固定し、また身体を閉じるという作業だった。
「普通のポーションはビン詰めなのに、今、使ってたのは袋状だ。この病院で作られているのか?」
イグナスは呟きながら、ロイが入手した情報が正しい事を確信した。
「あとは、この患者の今後だな。暫く尾けるか」
イグナスは、この患者の名前と病室を突き止め、マークし続ける事にした。
この患者の名前はリチャード・サンダーで、病室は204号室と判明した。
暫く様子を見ていると、日が経つにつれてリチャードの顔色が良くなっていき、1週間程で退院する事になった。
その間、グレーンとシェリーが交互に差し入れを持ってきてくれていたので、イグナスは、途中経過を話し、カールマンへ連絡するよう頼んでいた。
リチャードの退院が明日と決まった日に差し入れを持ってきていたのは、シェリーだった。
「シェリー。いよいよ明日が退院で決定のようだ。退院後の様子も見張った方がいいとカールマンに伝えてくれ」
「オッケー!カールマンもそのつもりみたい」
シェリーは、イグナスからの情報を『暗夜の灯火』へ持ち帰り、カールマンに伝えた。
イグナスからの情報を受け、カールマンがトレルを呼んだ。
「トレル。明日、リチャードという者が退院するらしい。そいつを最低1週間見張ってくれ」
「了解っす」
トレルは、カールマンから指示を受け、頷いた。
翌日、予定通りにリチャードは退院していった。
トレルは、すぐ尾行し、リチャードの家まで行くと屋根裏に忍び込んだ。
リチャードは一人暮らしのようで、家には他に誰もいなかった。
1週間程経った頃、リチャードが買い物に出掛けている途中で、何やら苦しみだしてその場に倒れ込んだ。
「おいっ!あんた、大丈夫か?」
尾行中のトレルも周りの人達も声をかけたが、返事がない。
周りの人が救護隊を呼んでいるようだが、救護隊がリチャードの元に着く前に、リチャードは息を引き取った。
トレルはそれを確認すると、素早く野次馬の中から抜け出し、暗夜の灯火へ向かった。
「カールマン。たった今、リチャードが息を引き取った」
「この状態で金か何かの動きがあれば、悪で決定だな」
トレルからの知らせを受けて、カールマンが呟いた。
「今日は、グレーンが差し入れ係か?イグナスに、ここから先で金銭の動き、臓器売買などがないかチェックするよう伝言を頼む」
「分かりました」
グレーンが返事をして、差し入れに向かった。
ちょうどその日、中央病院の中庭でロンドが1人の老女に出くわした。
その老女の名は、リード・ワーズ。
ロンドのおばあさんだった。
「あれ?おばあちゃん、どうしてここに?」
びっくりするロンド。
「おやおや、ロンドじゃないか。医者になるって聞いていたけど、ここのお医者さんになったのかい」
2人は中庭にあるベンチに腰掛け、話を始めた。
「医者になるって言って、コピスへ出掛けた時はどうなる事かと思っていたけど、本当にお医者さんになったんだねぇ」
「つい最近からここで働いてるんだ。今はB棟の患者さんたちを診察してるんだよ。おばあちゃんは外来?それともA棟に入院してるの?」
「私はE棟に入院しているんだよ。だから全然会わなかったんだね」
「え!?E棟なの?」
「そうだよ。もう少ししたら手術して治すらしいよ」
リードの言葉を聞いて、ロンドは何も言えなくなってしまった。
その会話を、リージョが隠れて聞いていた。
その日の夕方、ロンドはレイズ主任を見つけて話しかけた。
「レイズ主任!僕をE棟の担当医にしてください」
「E棟の患者がどういう状態なのか知っているのか?」
「末期の患者だという噂は聞きました。ですが、コピスで医学を学んできました。役に立てるかと思います」
ロンドがレイズ主任とやり取りをしている途中、声が聞こえたのか、理事長がやってきてロンドに問いかける。
「万一、手の施しようがない状態の場合、嘘をつけない君はその患者にどう接する?諦めてくださいと言うのか?それとも、嘘っぽい笑顔で治りましたと言うのか?」
ロンドは、返す言葉が見つからない。
でも、おばあちゃんを助けたい!
「身内がE棟にいるんです!」
「そういう動機は医師としてダメだろう。身内がE棟にいるからE棟の担当医になり助けたい。では、他人は助からなくてもいいのかね?」
「あ、いゃ。そういうつもりじゃ……」
レイズ主任の反論に、またロンドは言葉を失った。
「まぁ、今の部署で落ち着いて働きなさい」
理事長が話を締めくくった。
ロンドは、2人に完全に言いくるめられ、力なく肩を落として帰っていった。
その一部始終を天井裏から聞いていたリージョもやるせない気持ちになっていた。
その後、1週間後にリードが手術する事が決まった。
それを聞きつけたロンドは、E棟の廊下で再びレイズ主任をつかまえて話し出した。
「E棟の身内だけとかじゃなく、E棟の担当医として働かせてください」
「ちょっ、君。ここで話す内容じゃないだろう」
「コピスで学んだ事が活かせて、助けられるかもしれないんです。お願いします」
「いや、ちょっと……。まいったなぁ」
ロンドは粘り強く懇願していた。
それを廊下の向こうでリードが聞いていた。
翌日、リードの病室に手術の担当医がやって来た。
「今回の手術、私が執刀します。よろしくお願いします」
執刀医が挨拶をするが、リードからの返事は、執刀医の予想外のものであった。
「先生、うちの孫のロンド・ワーズにやらせてもらっては頂けないでしょうか?練習台としてで構いません。万一、手術が失敗に終わっても何も悔いはありませんから」
「そうですか。ですが、私の一存では決めかねます。この件については、後日連絡しますね」
「よろしくお願い致します」
「はい。じゃあ、とりあえず今日の健康状態を診ましょうね」
深々と礼をするリードの体を起こして、執刀医はリードの状態をチェックして戻っていった。
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