第013話 シェリーの悔しさ
カールマンが地下室に入り、席に座った。
「最初に、今日は作戦会議をする予定だったんだが、急遽、報告のみに変更する」
「えっ!?」
カールマンのその言葉に、落ち込んでいたシェリーが顔を上げた。
「今日、内部告発しようとしている者が相談にきた。内部告発する事自体、本人にとってはかなりのリスクになるため、フォックスで動こうと思っていたのだが、本人の意志が固かった。そこで、フォックスはその内部告発が上手くいくように裏工作に徹しようと策を練っていたんだが、事はもっと先まで進んでいたようだ」
カールマンは、ふぅっと一息ついて話を続けた。
「ここに相談しに来た時には、すでに情報が漏れていて、相談者を待ち伏せしていたようだ。外が騒がしかったから知っている者もいると思うが、その相談者が『暗夜の灯火』を出て、帰る途中で襲われてしまった。この段階で、内部告発をフォローする以前に内部告発する者がいない状態になってしまった。今回、フォックスの出撃はなしとする」
「え?ジョヴィンさんを刺したヤツをそのままにしておくの?ディアックの悪事だってそのままになっちゃうじゃん!」
カールマンからの報告が終わると、シェリーがカールマンに反論しだした。
それに対して、カールマンはシェリーの方を向き、答えた。
「ジョヴィンとやらが刺された事は、確かに気の毒に思う。だが、その刺したヤツは、やり口から想像するに、その道のプロではない。おそらく同僚か何かだろう。警察もバカじゃない。すぐに突き止めるだろう。そこに俺たちの出番はない」
「犯人は捕まるとしても、会社の、ディアックの悪事は?」
「リージョからの情報だと、ジョヴィンのカバンはその場に置いてあったらしい。救護隊が一緒に持っていっているだろう。それが警察に渡れば、悪事は白日の下に晒されるだろう」
「でも……」
「お前の悔しい気持ちも分かる。だが、俺たちは法で裁かれない者や裏社会の者たちを相手にしている。表で解決できる出来事に、俺たちは極力関わるべきではない」
カールマンにそこまで言われて、シェリーも黙ってしまった。
「あと、シェリーはジョヴィンから大事な任務を任されている。口には出していないがな。ジョヴィンの容態によっては、結構ツラい事になるだろうが」
カールマンにそう言われたが、シェリーは何の事だかピンときていない様子だった。
「ロイ。ジョヴィンが運ばれた病院を特定して、状況を報告してくれ」
「あれ?今日は報告だけじゃなかったっけ?俺だけ作戦開始みたいになってる?」
「なんだ?嫌なのか?」
「いや、そういうわけじゃないです。すぐに行ってきます!」
カールマンに少し睨まれたロイは、慌てて地下室を出ていった。
「よし!今日はこれで解散」
カールマンの号令で、フォックスのメンバーは順次、地下室から出て帰路に着いた。
なかなか席を立たなかったシェリーもリージョに肩をポンと叩かれて、ようやく重い腰を上げた。
「全てを救える力があったら……。なぁ、リーナス」
カールマンは、一人になった地下室で天井を見上げながら呟いた。
翌日、『暗夜の灯火』が開店する1時間程前に、寝不足そうなロイとリージョが出勤してきた。
「おはようっす」
『暗夜の灯火』のフロアには、カールマンとシェリーがいた。
厨房の方にはトレルとスーシェフのグレーン・チャンが仕込みをしているが、こちらには気づいていないみたいだ。
このグレーンもフォックスのメンバーの一人だ。
「二人ともどうしたの?ロイは昨日からの調査疲れだろうけど、なんでリージョまで?」
明らかに疲れている二人を見て、シェリーが問いかけた。
「俺がジョヴィンの搬送先の病院を探し当てて張り込んでる間、こいつは警察の方に張りついていたらしい。刺した犯人やディアックの悪事などについて、どこまで警察で動けているか確認するためにな」
ロイは、眠そうな目をこすりながら、親指でリージョを指差して説明した。
「べ、別にシェリーの事が気になってとかじゃないからな。カールマンの読みがどこまで正しいか、見ておきたかっただけだから!」
リージョは、なぜか慌ててロイの説明に付け足した。
「とりあえず、俺が入手した情報から」
コホンと咳払いをしてから、リージョが話し出した。
「まずジョヴィンを刺したヤツは、ジョヴィンの同僚で、会社の金を使い込んでた事をジョヴィンが調べてると勘違いして、口封じに刺したという事らしい。昼前に警察に捕まったよ」
「勘違いで刺すなんて!」
シェリーが怒ったように言う。
「あとは、救護隊が持っていたカバンなんだけど、それも昨晩のうちに警察に届いてる。すぐというわけじゃないけど、近いうちにディアックに捜査の手が伸びると思う」
そこまで話して、リージョはカールマンの方を見た。
「あ~あ。なんだか全てカールマンの予想通りって感じだな」
「俺にも予想できない事もあるし、手が届かない事だってある。だから、お前たちのような仲間が必要なんだ」
カールマンにそう切り返されて、リージョはもとよりロイもシェリーも気恥ずかしそうに頭を掻いた。
「え~っと。この空気の中、こんな事を話すのも気まずいんだが、俺からも報告が。病院に搬送されたジョヴィンだが、今日の昼頃、治療の甲斐無く死亡が確認された」
ロイのその報告を受けて、ガックリ肩を落とすシェリー。
ある程度、覚悟はしていたようだが、やはりツラいのだろう。
なかなか顔を上げない。
皆が静まりかえっている中、カールマンがシェリーに話しかけた。
「シェリー、ジョヴィンがこうなってしまった以上、ジョヴィンからの大事な任務をしっかりこなさないとだな」
「昨日もそんな事言ってたけど、何の事?全く分からないんだけど」
カールマンはカウンターへ移動し、1つの袋を出した。
それはピンク色の袋だった。
「あ、それは!」
「来月末にジョヴィンの娘の誕生日があるんだろ?渡してやらないとな」
「……。まさかジョヴィンさんは、自分が消されるかもって思って、わざと置いていったっていう事?」
「外を警戒していたんだろ?おそらくそういう事だろうな」
「でも、私、来月末としか。はっきりした日にち知らないけど……」
「分からなければ、調べればいいんじゃない?調査は俺たちの専門分野だろ」
リージョが横から口を挟んだ。
それを聞いて、シェリーは頷いた。
「なんにせよ、ジョヴィンにも思う所があったんだろう。俺たちが行くよりはいいと思うぞ。酷な役回りとは思うが頼むぞ」
カールマンからもそう言われ、シェリーは頷き、プレゼントの袋を受け取った。
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