第012話 ジョヴィンの誇り
シェリー’s ビューポイント――――
「まだそんなに遠くには行ってないはず」
『暗夜の灯火』を出て、シェリーは辺りを見回した。
だが、見える範囲にはジョヴィンの姿はなかった。
シェリーは、直感で大通りの方へと向かっていった。
大通りに出て、左右を見るシェリー。
すると、左方向にスーツ姿の人影が見えた。
シェリーは目を凝らした。
ジョヴィンだ。
急いで追いかけようと走り出したその時、ジョヴィンの体が物陰に隠れた。
いや、誰かに引っ張られたような感じだった。
嫌な予感がしたシェリーは、猛ダッシュで追いかける。
ジョヴィンが引っ張り込まれた所までたどり着き、その先の路地を見た。
路地の向こうに走っていく人影が見えた。
いや、それよりも自分の目の前にジョヴィンが倒れている。
それを見て、シェリーはプレゼントの袋を落としてしまった。
シェリーは、慌ててジョヴィンに駆け寄った。
「ジョヴィンさん!どうしたんです!?」
シェリーが倒れているジョヴィンの上半身を起き上がらせようとした時、スーツの下に着ている白いシャツの数ヶ所が赤くにじんでいるのが街灯の光でうっすらと見えた。
「さっきのヤツにやられたの?誰か!救護隊を呼んでください!!」
シェリーは、さっきの逃げていった人影を追いかけたかったが、ジョヴィンをこのままにもできないので、救護隊を呼んでもらう事を優先した。
シェリーの大声を聞きつけ、数人出てきた。
救護隊へも連絡を取ってくれているようだ。
「もうすぐ救護隊が来ますからね。がんばってください」
「イザベル、お父さんは誇りを捨てなかったぞ。お前も信念に従い生きろよ。ゴフッ!誕生日、一緒に過ごし…たかっ…た…な……」
ジョヴィンは口から血を吐きながらも、娘への言葉を残した。
そして、気を失ったのか、力尽きたのか、しゃべらなくなった。
「通してください!通してください!!」
ちょうどそこへ救護隊が担架を持って駆けつけた。
救護隊がジョヴィンを担架に乗せて運んでいった。
シェリーは、茫然とその場で固まってしまっていた。
「あんた、さっきの人の知り合いなのか?大丈夫か?」
野次馬の一人がシェリーに声をかけた。
「……」
シェリーからの返事がない。
あまりにも衝撃的な出来事だったため、正気に戻っていないようだ。
「行くぞ!」
目も虚ろなシェリーの腕が掴まれ、無理矢理引き起こされた。
シェリーの腕を引っ張ったのはリージョだった。
リージョは、カールマンにシェリーのフォローを頼まれて追いかけてきたのだった。
リージョの手はシェリーの腕を、もう一方の手はピンク色の袋が持たれていた。
シェリーは、リージョに手を引かれ、『暗夜の灯火』の裏口に連れてこられた。
「今日は、他に客もいないから、もう閉店にするんだって。片付けが終わり次第、ミーティングをするらしいから、シェリーは先に降りてなよ。片付けは俺とロイでやっておくから」
リージョは言い終わると、裏口の扉を開けて、シェリーに中へ入るよう促した。
シェリーは、リージョに勧められるまま、地下室へ降りる扉へと向かい、扉を開け地下室へ降りていった。
「どうだ?シェリーの様子は」
「かなりショックを受けてますね。自分が相談を受けた相手がメッタ刺しだもんな」
リージョは、食器を片付けながらカールマンの問いに答えた。
「まだ死んだかどうか分からないんだろ?」
ロイがフォローを入れるように聞いた。
「あれだけ刺されてるとどうだろうな」
「急所を一撃というわけじゃないんだな?」
「うん。数ヶ所刺されてましたね」
「という事は、本職ではなく素人の犯行か」
リージョからの回答で、カールマンは今回の事件の真相が分かりかけているようだった。
「とりあえず、シェリーや他のメンバーを待たせてはいかん。そろそろ下に降りるぞ」
カールマンの指示で、ロイとリージョも地下室へ向かっていった。
3人ともシェリーと同様足取りは重かった。
【読者の方々へ】
この作品を気に入って頂けましたら、
・ブックマーク
・[☆☆☆☆☆]
・いいね
・感想
などを頂けると、私にとって、とても力になり、創作意欲が湧いてきます。
ぜひ、宜しくお願い致します。