第117話 神々の箱庭
女性の声だった。
頭に直接聞こえてくるような不思議な感覚の声だ。
「あなたがホムラを遣わした神ですか?」
ロンドが光の球体に向かって言った。
「なかなか賢い者もいるようじゃのぅ」
「それじゃ、このフワフワしたのが神ってヤツか!?」
リージョが球体を指差して言った。
「フワフワとは、失礼なヤツじゃな。私の名は、クリスティーナ。クリスと呼ぶが良い」
「なんで、コレが神だと思うんだ?」
ニーがロンドに聞いた。
「ホムラは、神から遣わされた存在でした。そのホムラが、死に際に力を使って封印を解いた。その先には、ホムラと同等かそれ以上の存在がいる可能性が高い。そう思っただけです」
ロンドがニーに説明した。
一同、ざわめいた。
「では、もう一度。クリスさん、あなたが神で合っていますか?」
ロンドが再びクリスに聞いた。
「いかにも。私は、お主らが定義する所の神にあたる。この球体は、本体ではなく思念体のみだがな」
「1つ聞きたい事があります。何故、西方の使者のような者を作り、アーリエスを攻めたのですか?」
ロンドは、神相手に一歩も引かずに語りかけ続けている。
「アレは私ではない。隣接する神が調子に乗って、我が箱庭に攻めてきただけじゃ」
「箱庭……だと!?俺たちの世界は、神にとっては遊びなのか?」
トールがクリスに意見した。
「遊びなどではない。これは、ミッションなのじゃ」
「ミッション……」
「こちらの世界は、荒廃していてな、人口も激減した。これ以上、失敗するわけにもいかぬ。そこで、誰の手法がより良き世界になるか競い合っているという事なんじゃ」
「俺たちの世界が実験場って事なのか!?」
リージョが、受け入れられないといった表情で言った。
「それじゃ、俺たちはモルモットかよ」
ニーが怒りを抑えながら、言った。
「そうじゃ。より我々に近づけて造った人造人間じゃ」
ガラガラガラ。
にーがゆっくり黒狼剣を抜いた。
「おい。コイツを斬っていいか?」
ニーがリージョに聞いた。
「お主らの攻撃、届くかのぅ」
「届かせてみせるさ。『宿れ。アヌビス!』」
黒い炎が黒狼剣を包み込んだ。
「うおぉぉーっ!」
ニーが上段から剣を振り下ろした。
ギィィーン!
ニーの斬撃は、ガラスにキズ1つ入れられずに、弾き返された。
「惜しかったのぅ。もう少しで、キズが入ったかもしれぬのに」
明らかに、クリスが挑発していた。
「んのヤロー!」
ニーは連撃に切り替えて、ガラスの一点を集中して、剣を振り回した。
ギギギィィーン!
「ニー、もう止めろ」
リージョがニーの斬撃を止めに入った。
「俺たちの世界の攻撃じゃ、このガラスは突破できないんだろ?」
「聡いな。正確に言うと、我々の世界の兵器でも破壊する事は困難だ」
クリスが自慢げに言った。
「神々がやっている品評会が終わった後、俺たちの世界はどうなる?」
「私も1人のプレイヤーにすぎんから、詳しくは分からないが、恐らく滅亡を迎えるだろう」
リージョの言葉に対して、クリスは冷淡に言い放った。
「そんな……」
トールが両膝を地面に落とした。
「俺たちが、あんたらの言う『より良き世界』を創り上げても。か?」
「フッ。一盗賊風情が壮大な事を言う。しかし、何かの賞が取れれば、その世界は保存されるかもしれぬな」
リージョのセリフに、クリスが少し笑いながらも答えた。
「しかし、私の力は貸せぬぞ。自らの力のみで、人類が生き延びれるという事を証明せねばならん」
「でも、じゃあホムラは何故遣わされたんです?」
ロンドがクリスに聞いた。
「あぁ、アレは途中経過が良かったから、景品でもらえただけだ」
「また、人の命をおもちゃのように言う……。気に入らないな」
リージョがクリスに向かって言った。
「手厳しく聞こえるかもしれんが、それが事実だ。なんなら、お前たちがゴブリンと呼ぶ生き物も、私から見たらお前たちと大して変わらない。お前たちを造る過程でできた存在だからな」
「なんだと!」
ニーが怒気とも驚きとも取れる言葉を発した。
「遺伝子操作……ですか」
一同が困惑する中、ロンドが口を開いた。
「お前は賢いな。その通りだ」
クリスがフッと笑いながら言った。
「で?俺たちはどうすればいいんだ?この領地の統一か?」
ニーがクリスに具体案を聞いた。
「その辺は、お前たちのしたいようにしろ。私が指示を出したら、規定違反になってしまうからな」
「という事は、ここであなたと話す事も規定ギリギリという事ですか?」
ロンドがクリスに聞いた。
「そうかもな。まぁ、ホムラの置き土産じゃ。規定違反にはならんじゃろ」
「願わくば、私たちの手本となる世界を創り上げてくれ」
「言わなくても!」
リージョが力強く答えた。
こうして、神との謁見が終わった一同は、元来た道を帰っていった。
リージョたちが帰った後は、この通路も再び封印するとの事だった。
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