第114話 フォックスの戦後処理
翌日の10時。
作戦が決行された。
トレルとロイが、偽の委任状を持って、ディアックに入っていった。
受付の者は、その委任状を見ると、すぐに担当者を呼びに行った。
「以前、お預かりした時には、当分引き出す予定はないとおっしゃっておりましたが、どうされたんですか?」
担当者は、不思議そうな顔をして言った。
「我々も委任状の通り行動しているだけなので、詳しくは知りません。ただ、更に上からの指示とだけ」
(やっぱり分配する気がなかったんだな)
ロイは担当者に答えながら、そう思った。
「ただ、これだけの額ですので、委任状だけでは……。一度、こちらから確認を取りたいと思います」
(おい。マズいぞ)
トレルが焦りの表情で、ロイを見た。
「あっ、もうこんな時間だ。早くレイブンに届けないといけないのに」
「えっ!?レイブンが関わっているのですか?」
ロイが声を上げると、担当者は驚いた様子で聞いてきた。
「えぇ。魔獣を撃退した報酬をよこせって。時間に遅れると、ここにも乗り込んでくるかも……」
「そうですか。分りました……。外に停まっている馬車に乗せればよろしいのですか?」
「えぇ、お願いします」
担当者は少し考えてから、人手を集めて、1億ディアを何袋かに分けて、持ち出してきた。
「すみませんね。助かります」
「いえ。レイブン相手じゃ仕方ない面もありますから。ですが、念のため、お二人のサインを頂いてもよろしいですか?」
「もちろん、構いません。が、私たちは配属されて間もない身です。ディアック様の方に登録はされているかどうか……」
ロイは内心焦りながら、しかし、表情には出さないで話した。
「大丈夫です。何かあった時に、ご連絡差し上げるだけですから」
(何かあるんだけどなぁ)
トレルは、そんな事を思ったりしていた。
そんなこんなで、バタバタしながらも、何とか2台の馬車に各1億ディアずつ載せ終わった。
「これで、間に合いそうです。ありがとうございました」
ロイは言葉少なめに颯爽と出発していった。
それに続いて、トレルも出発した。
その後、トレルは念のため、遠廻りして『暗夜の灯火』に帰ってきた。
ロイ’s ビューポイント――――
「さて、そろそろ顔を隠すか」
ロイはそう言って、素早くキツネの仮面を被った。
仮面を被って暫くすると、レイブンの事務所に到着した。
馬車を事務所前に停めると、レイブンの下っ端が出てきた。
「おぅ。ここをどこだと思って、停めてんだ?」
ドゴッ!
「うるせぇ」
ロイは、馬車から飛び降りるなり、下っ端に跳び蹴りを食らわした。
「ニーを呼んでこい」
蹴られた下っ端は、慌てて事務所の中に入っていった。
「親分、フォックスのヤツが来ました!」
暫くすると、ニーがケリーたちを引き連れてやってきた。
「1人で殴り込みか?何の用だ?」
「コピスからの賠償金を、軍部がネコババしようとしてたから、奪ってきた。これは、討伐者たちの分だ」
ロイが荷台をポンポンと、叩きながら言った。
「随分と気前がいいな」
ニーが荷台をチラッと見てから言った。
「レイブンの名を使わせてもらったから、気にするな」
「役に立ったなら、なによりだ」
「総額で1億ディアある。どう分配するかは、お前に任せる。じゃあな」
ロイはそう言うと、馬車を残して走っていった。
ニー’s ビューポイント――――
「よし、軍部のヤツらが気づく前に片付けるぞ。ケリー、参加者の名簿と生死を調べて、持ってこい」
「はい!」
レイブンたちも討伐者たちへの分配に動き出した。
トレル’s ビューポイント――――
「これで、最後の一袋っと」
トレルはそう言いながら、金の入ったかばんを地下室に降ろしてきた。
「カールマン、いつ配るんだ?」
戻ってきていたリージョが、目を$マークにしながら聞いてきた。
「ちゃんと分けるから、焦るなって。とりあえず、今日の開店準備をしててくれ」
こなしたミッションによって、金額を変えるようで、カールマンは地下室で一生懸命計算し始めた。
暫くして、カールマンが地下室から出てきた。
多少の差はあったが、全員1,000万ディア以上の報酬をもらった。
「金は地下室に置いてあるから、今晩、持って帰ってくれ」
「んじゃ、今日は宴会にしますか?」
「宴会もいいけど、ホムラの犠牲の上に成り立っている事も覚えておいてね」
言い出しっぺのトレルがシュンとした。
「分ってるって。だからこその宴会だよ。ありがとなって気持ちを込めて。な」
リージョがトレルをフォローして、シェリーに言った。
「ならいいけど……。って、もう飲んでるじゃん!仕事前だよ!」
リージョの片手には、カクテルグラスが握られていた。
ちょうどその時、裏口が開く音がした。
アスティンたちが出勤してきたのだった。
「あ~!もう飲んでる!」
アスティンからもリージョに注意の声が飛んだ。
「今日は、ホムラを偲ぶ会だ。カールマンからもオッケーが出てる」
一同がカールマンを見た。
「分かった分かった。今日だけだぞ」
こうして、今日は、開店前から宴会が始まっていった。
ちなみに翌日、討伐者たちに報酬が配られた。
それがニュースになり、不審に思ったジョシュアが確認したところで、事の次第が発覚したようだ。
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