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怪盗団フォックスの暗躍  作者: くろの那由多
第1章 アーリエス近郊にて
10/123

第010話 ニーの過去

 少年期のニー’s ビューポイント――――


 カンカンカン!


「魔獣がカンカセルに向かってきているぞ!防衛隊は西門の外に出て陣を組め!」

 高見櫓から見張りの者が叫んだ。

 非常警戒の鐘も鳴り続けている。


 ニーは、ニーの父ビード・ディアスと剣の稽古をしている途中だった。

「父さん!」

「あぁ、行くぞ!だが、お前はまだ隊に入ったばっかりだ。父さんのそばを離れるなよ」

「うん!」

 ニーはそう返事をしたものの、入隊祝いに買ってもらったこの黒い剣、黒狼剣を使いたくてウズウズしていた。



 西門の外に出て、他の隊員たちと一緒に陣形を組んでいる途中で、猪みたいな魔獣が迫ってきた。

「相手は結構速いぞ!油断するな!」

 先頭に立つ隊長はそう言うと、目の前まで突進してきた魔獣をかわしながら剣で切り裂いた。

 それを見るや、他の隊員も同様の動きで魔獣を倒していく。


 ニーは後方に配置されていたため、ニーの所まで魔獣が来る前に倒しきってしまっている。

「ちぇっ!活躍できると思ったのに」

 そうぼやいていると、見張りの者がまた叫んだ。

「第二波が来るぞ!第二波はオークか?数が多い!気をつけろ!」


 オークとは、魔獣でありながら二足歩行しており、武器も使う。

 ヒトタイプに近い魔獣だ。

 故に分類としては、亜人種デミヒューマンとされている。

 もっとも森の中にいるので、武器のほとんどが太い木の枝などなのが幸いだ。

 しかし、中には討伐者や旅人を襲った時に、手に入れた剣や斧などを使用している者もいるから注意が必要だ。


 最前線がオークと戦闘状態に入った。

 さっきの猪のような魔獣とは違い、一撃で倒す事は難しいようで、ニーたちの陣はみるみるうちにオークたちに囲まれていった。



 そしてついに、ニーの所までオークが来た!

 ニーの心臓が高鳴る。

 ニーは黒狼剣を振り、眼前のオークに斬りかかった。


 カンッ!


 オークがニーの剣撃を棍棒で受け止めた。

 少年兵のニーの力よりオークの方が上なのか、その状態のまま押されていく。

 その時、左からオークに蹴りが入り、オークが右方向に転がっていった。

「ニー!大丈夫か?」

「父さん、ありがとう!」

「お前の力じゃ、まだ押し負ける!お前は技で勝負しろ!絶対勝てる!」

 ビードは、そう言うとまた自分の位置に戻り、オークを斬りまくっている。


「よぉし!」

 父の言葉で初心に返ったニーは、オークが振ってくる棍棒をかわし、振り下ろしているオークの右腕をすぐさま切り落とした。

 そして、返す刀でオークの首を切断した。


 戦局は防衛隊優勢で進んでいき、数でも同じかオークの方がやや少ない状態にまで持ち込んだ。

(勝ったな)

 見張りの者が上から眺めて、そう思って、遠くを見たその時、向こうから何かが来るのが見えた。


「今度は何だ?」

 まだ遠くてはっきり見えていないが、それはどんどん近づいてくる。

「第三波か?いや、1体だけだ。しかし、なんだ、あれは?オークの王、オーカスか?今までのオークの3倍の速さで向かってくるぞ!」

 見張りの者が焦り気味に下の防衛隊に向かって叫んだ。


 オークの3倍の動きを見せると言われるオーカス、どれだけの強さなんだろう。

 ニーはオークを見る事自体が初めてだった。

 もちろん、その王と言われるオーカスなんて見た事どころか聞いた事もなかった。

 ただ、隊長や副隊長であるビードの顔色を見る限り、ヤバい状況になりそうな予感がした。



 そして、ついにそのオーカスが防衛隊の陣の正面まで来た。

 だが、まだオークたちを倒しきれていない状態だった。

 オーカスは、オークよりも大きく、赤黒い毛で覆われていて、どこかで奪ったのか鎧も着ていた。

 右手には大きな斧を持っている。


 ニーは、相手が大きい武器を持っていた事から、攻撃速度は遅く、それをかわしてすぐ斬り込めば勝てると思い込んでしまった。

 だが、結果は違った。

 いきなり、その大きな斧を横に振った。

 いや、正確には振った後しか見えなかった。

 その攻撃で防衛隊の数人がオーク共々、視界の外に飛んでいった。


 速い。速すぎる!

 でも、チャンスは振り終わりしかない!

 ニーは咄嗟にオーカスとの距離を詰めた。

 そして、その勢いをのせたまま、反対側に伸びきっている右腕に斬りかかった。


 ザクッ!


 オーカスの右腕に当たった。

 当たったが、ニーの力が足りないのかヤツが骨太なのか、斬り落とすには至らなかった。

 いや、かすり傷と呼んだ方がいいくらいだ。

「ニー!危ない!!」

 大してダメージを与えられなかったショックで一瞬戸惑っていると、ニーに対して叫ぶ声がした。

 その瞬間、ニーの頭に猛烈な衝撃がきて、ニーは街の防壁まで飛ばされた。


 ニーは、クラクラする視界の中でオーカスを見ると、右腕で肘打ちをしたような格好になっている。

 ニーは、オーカスの反撃を喰らったのだと理解したようだ。


 意識が朦朧とする中、ビードがこちらに駆け寄ってきてくれているのが見える。

 更にその向こうでは、隊長や他の隊員たちがオーカスとの戦闘を繰り広げている。

 しかし、隊長はまだしも、他の隊員たちではオーカスに太刀打ちできていない。

 一人また一人と倒されていく。


「しっかりしろ!ニー!!」

 焦点が定まってなく、虚ろな目をしていたニーにビードが叫んだ。

 その叫び声でニーは、我に返った。

「大丈夫!吹っ飛ばされてただけ。まだ戦える!」

 そう言って立ち上がったところへオーカスが迫ってきていた。

 その後ろでは、隊長が膝から崩れ落ちていく姿が見えた。


「くそっ!隊長まで!ここまでか」

 そう言いながらビードはニーの前に立ち、オーカスに剣を構えた。

「ニー、すまん。守りきれないかもしれない」

 その言葉を発したビードに、オーカスが斧を振るう。

 ビードは剣でオーカスの斧を受け止めるが、その剣は折れ、そのままビードの身体を斬り裂いた。

 そして、斧は止まらずにニーの目の前まできていた。

 しかし、ビードが剣で受け止め、その身を盾にして守ってくれたおかげで、ニーの頭は斬り裂かれず、右目の上に深いキズが入っただけで済んだ。

 だからといって、状況は何も変わっていない。

 もう勝つ手段は何も残されていなかった。


『翔べ。ヤタガラス』


 どこからか、そんな声が聞こえた。

 そのすぐ後に、右側から黒い鳥のような形をした閃光が飛んでくるのが視界に入った。

 そして、その黒い鳥はオーカスに直撃した。

「グガァ!」

 黒い鳥が直撃したダメージで、オーカスが叫び声をあげた。

 その叫び声が聞こえたのとほぼ同時に、直撃地点を中心とする一帯が闇に包まれた。

 当然、ニーも闇の中だ。

 何も見えない。


「お前はまだ死ぬには惜しい男だ」

 何者かがそう言うのが聞こえた。

 そして、暗闇の中、剣先だけが光って見えた気がした。


「ギャアーー!」

 剣先が見えたかと思ったら、今度は何かの断末魔みたいな声が聞こえた。



 暫くすると、だんだん闇が晴れてきた。

 目の前には、オーカスがズタズタに斬り裂かれて倒れていた。

 そして、その横に黒いフードを被った一人の男が立っていた。

「力が欲しければ、ついてこい」

 男はそう言うと、ニーの返事も聞かず森の方へと歩いていった。

 ニーはおそらく考えたわけでも答えが出たわけでもないだろうが、何かに引き寄せられるようにその男の後を追った。


 ニーは男の後を追っている途中で一旦振り返り、父や仲間の惨殺された光景に涙が溢れたが、涙を拭い、また後を追い始めた。



 ニー’s ビューポイント――――


 暫くすると、森の奥から感じていた異様な気配はなくなっていた。

「またオーカスがいるかと思ったぜ」

 ニーは、知らないうち、剣に手を添えていた。

 そして、もう危険な状況ではないと判断したのか、剣から手を離し、構えを解いた。

「父さん、あの時、埋葬しなくてゴメンな。でも、街の人たちが墓を作ってくれたみたいだぜ。前に街へ立ち寄った時、父さんの墓の隣に俺の墓もあったよ。笑っちゃうだろ」

 天を仰ぎながらそんな事を呟いて、街の方へ振り返った。

 そして、街に向かって歩き出しながら、ニーは更に呟いた。

「父さん、今ならオーカスに勝てるかな」


【読者の方々へ】


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