第二章[穴埋めの日常]2
「ふわぁぁ。ここ、どこですの?………って、ゴミ捨て場!?」
ヘドロのようなものや、その他の者によってヌメヌメになったフルールは、壁に突き刺さっている、中破した〈ミタッタ〉に掴まって汚すぎる水場から上がる。
どうやらそこは巨大な構造物の中で、辺り一面真っ暗だった。
「っていうか誰ですの?服だけ溶ける液体をすんごい化学反応でつくったのは」
フルールは自分の格好を見て呟く。特殊な繊維で編まれた彼女の服は、ところどころ溶けて穴が開いていた。
「何故に夢のアイテムがこんなところに…………」
彼女は機能停止している、〈ミタッタ〉内の簡易シャワー(無理矢理取り付けてもらったもので、これが変な位置にあるせいで機体のバランスが危うい)で、汚れを軽く落としながら言う。
「ほんと、しつこい汚れですわね!………おっと、そうですわ。ここでこれ。最強汚れ落とし洗剤、[消えうせろゴミどもがぁ!]ですわ。おお、良く落ちますこと」
一人で洗剤のCMじみたことを始めた、やや変な彼女の事を見る者は、この場にはいない。
「ふう、ようやっと取れましたわ。そしたらナノマシンで服を、修理、修理、ですわ」
そうして、体を多少は綺麗にし、穴の開いたところの色が若干違う、ある程度は綺麗になった服を着て、懐中電灯をポケットに入れ、〈ミタッタ〉から出るフルール。
「ここ、どこですの?……って、そりゃさっき言いましたわ」
言いながら彼女は、〈ミタッタ〉から出してきたワイヤーアンカーを使い、壁にぶら下がり、
「暗いですわね………」
密林の住人のように移動する。
「あー、ああー………なんか違いますわね」
彼女はあちらこちらを危なっかしく移動していく。
「あーあー。…………あーああー!これですわ!」
そう叫んだ直後。
「……痛いですわ」
壁にぶつかり、地球で言うところの猿が、文字通り木から落ちるように下に落下していくフルール。
「ぎゃふん!?」
彼女の体はどこかの段差に当たって跳ね、そのまま階段らしきものを転がり落ちていく。
「…………」
階段からのエスカレーター。エスカレーターからのエレベーター。エレベーターからの謎の帆船。
「え、なんでフルはこんなことに?」
いつの間にか、ひっくり返って船の中。
彼女はゆらゆらと、暗闇の中で揺られていき、暫くしてようやく船は止まった。
「ん?なんですの?」
彼女は、揺れがなくなったことで体勢を立て直しやすくなったので起き上がり、足を船から出して床を探す。首尾よく見つかったところで飛び移ろうとうっかり跳ねてしまい、転覆に巻き込まれかけ、半分やや汚い水をかぶりながら、彼女は足場に大の字に横になった。
「なんなんですの~………」
しばらくそうしていた彼女だが、
「ちょっと……ざぶい”でずわ”」
フルールは震える。
「っていうか真っ暗ですし」
ポケットの中の懐中電灯に気付かないフルールであった。
しかし、周りが見えず転んだ際に、それにようやく気付く。
「そうでしたわ。持ってきたんですわ!頭いい!」
嬉しそうにそういう彼女だが、持ってきたそれを使う事にすぐに思い至れなかった時点で、とても頭がいいとは言えなかった。
「すんごく、大きいですわね…………」
呟きながら行く彼女。
無機質な鋼鉄の巨大空間を行く中、彼女はふと、ある方向に明かりを向ける。
そしてそこに、それはあった。
「ん?なんですの?この大きいものは」
彼女の視線の先。
そこには、巨大なあるものが鎮座している。
「すんごくパワーを感じますわね」
漆黒の装甲。太く、重厚な四肢。それを持った、[六方一球形]の巨体。
「でっかい兵器ですわね~、どんくらいあるのやら」
彼女の十倍以上の巨体は、静かに佇んでいる。
「凄いですわね」
そう言って何気なしにフルールは横を向く。
「………」
何かいた。
腕にガトリングガンを取り付けた、せなあに翼をもつ、無表情な孫が。
「侵入者ヲ発見。排除シマス、ますたぁ」
「……え、ちょ、フルは抗えぬ流れに流されてここに至ったというわけでし…」
「打ち首ブレード」
「ひゃぁぁぁ!?ですの!?ですの!?」
無慈悲な剣戟がフルールを襲い、彼女は涙目になり、全力で逃走を開始した。
「逃ゲレルト思ウナ」
孫は、その後を追う。
その後フルールの悲鳴が響き渡った。