第一章[不思議な手伝い]4
「よくやった、フェアリオン」
「ありがとうございます、お父様」
フィラ達を襲った襲撃者、フェアリオンはお辞儀をしながら言う。
彼女等を含めた複数名がいるのは、薄暗い、どこかの会議室。
真ん中には円卓があり、フェアリオン達は、その中心にある穴に設置された高い椅子の上で、足を組んで座っているものを見上げていた。
「実に良い事だ、僕の子よ」
座っている男が言う。
「はい……!」
フェアリオンが見上げる彼は、彼女やその周りの者たちと同じように、地球でいうところの、蝶のような大きな羽を持っている。背はひょろりと高く、髪はやや長い。纏う紫の服は露出が多く、彼の多すぎず、少な過ぎない筋肉量の肉体を見せている。
彼は柔らかに笑う。
非常に端正な顔立ちで、[六方一球形]の種族には受けがよさそうな、所謂イケメンである。
「それじゃ来て、フェアリオン」
彼がフェアリオンを手招きすると、彼女はまるで子供のように目を輝かせ、進み出て彼の前に跪く。
「お父様………」
彼女はとても嬉しそうに笑っており、それを見た彼は、優しい笑顔を見せる。
「顏を挙げて、フェアリオン」
「はい」
フェアリオンは顔を上げる。
途端に、彼女を見下ろす彼と目が合った。
「あ……、その……お父様」
彼女は急にもじもじしだして、顔を赤くして俯く。
そんな様子の彼女の事を軽く笑ったのち、彼は彼女の頭に手を伸ばし、
「では、ご褒美だ」
「は、はい?」
「ほれ」
その頭を優しくなでる。父親が娘の頭をなでるかのように、ゆっくり、優しく。
「お、お父様………こ、こんな………私が、一番ってことですね。私が一番偉いって、大切だって…言われた、……うれしい♡」
「………、あ、ああ。……その自己暗示妄想癖はどうにかならないかのか心配だけども。ま、兎に角偉いぞ、フェアリオン」
「キャー、お父様ぁー!もっと、もっと撫でてください、お願いします」
「はいはい。どうだ?」
彼はさらにやさしく、深く、彼女の事をなでる。
そんな彼らの様子を見るのは、他二名。
「フェアリオン………、普段はあんな冷てぇのに、お父様に褒められたりするとこれだからな。俺らの中の紅一点は、ホント変な奴だよ」
片方は鎧で体を覆い、面倒くさそうにしている羽を生やした筋骨隆々の美青年。
そしてもう片方は、
「儂も、お父様に撫でられたいのぉ……つーか、あやつだけとかずるいんじゃよ」
「いや分かるけどな、爺さん。呂廠お父様にそうされたいのは分かるけども、爺さんの外見でそれ言うのは、ちょっとな」
立派過ぎて、自分でも踏みそうになるほどのひげを蓄えた、羽を生やした老体だ。
そして全員が全員、例の杭打機を持っている。
「さて、ご褒美はこれぐらいにして、話を勧めようか」
彼、呂廠は、名残惜しそうに自身の髪を触るフェアリオンを元の場所に戻し、机から飛び降りる。
『はい、我らが親よ』
「よろしい、僕の子ら、[壬]よ」
呂廠は、威風堂々とした様子で祭壇から彼女等を見下ろす。
彼女等は跪き、彼の声を聴く。
そんな様子に満足そうな彼は、ゆっくりと口を開く。
「第二計画の第一段階は、フェアリオンのおかげで無事終了した。後は各自準備にかかれ。奴との戦いの準備を、な?」
『分かりました、我らが親よ』
息の合った声で答えるフェアリオン達。
「再戦の時は近い。準備は完璧。何も問題無い。そうだろう、商人?」
呂廠は背後の暗闇に視線を移すよ、そこに、急に何かが現れる。
「キカカカカ」
六方一球形の種族の形をしている者。その数は二。背の高い片方は、背の低いもう片方を抱えている。暗いためにそれ以上は分からない。
「その通りだ。言いデータくれよ?キカカカカ」
そう言いながら、小さい方の何かは自分の頭に手を掛け、少し回しつつ、力任せに引っ張る。すると、ブチブチと言う生々しい音と共に、その頭がねじ切れる。
「キカカカカ!」
そうして千切れた頭は笑い続ける。機械的に、無機質に。
それを見た呂廠は、
「………ホント、悪趣味だね、商人」
「キカカカ」
首無しの何かは、地球で言うお手玉のように自身の頭を弄んだ後、それを元に位置にくっつけると、逆再生したかのように、頭は綺麗に元に戻る。
「……とにかく配備は、着々と進んでいる。いつでも始められるように、頼むぞ、僕の子らよ」
『はい!』
そうして彼らは、会議室を出、各々別の方向に散っていった。
「………お父様は、必ず達成する」
一番最後に出ていこうとするフェアリオンは、確信をもってそう呟いた。
「……あ、あれ?涙が……」
いつの間にか流れてきた涙に気が付く彼女。
「……うぅ、うわぁぁぁ…みんな、みんな……」
そして、呂廠に見えないよう、静かに泣いた。
しかし、彼はそれに気づいていたようで、
「………あまり、頑張りすぎなくてもいいだぞ?僕のために」
一方で、それを見ていた、呂廠の近くで宙に浮かぶ者は呟く。
「怖いぐらい、献身的なこった……………キカカカカ!」
▽―▽
ずっと、平和だった。みんな楽しそうに、変わらない日常を謳歌していた。
自分もそうだった。
みんなと一緒に何かを作り、みんなのためにいろんなことをして。
喜んで、喜ばれて。
「今日は何をする?」
自分といつも一緒にいてくれる彼女が聞いてくる。
「そうね……」
腕を組んで、少し考えてから笑い、
「みんなの度肝を抜く、すごいものを造ろうかしら!」
「どんな?」
「現実的じゃなくて、実現しなかったものを、実現させてみるのよ!」
「へぇ~。おもしろそう、私も手伝う!」
「ありがと。それじゃ、計画やってみましょう」
そうして、いつものように笑顔で、楽しい一日を過ごしていくはずだった。