エピローグ[失ったものの奪還]
「さてさて。いいデータがとれた。キカカカ!これからももっと研究できるぞ!」
「嬉シソウデスネ、ますたぁ」
「そりゃぁ、な?こんなデータ、そんなにとれないしな?あいつらには感謝、感謝だな。キカカカ!!」
ルーネィはどこかの[国際都市]にある喫茶店で、笑顔で首をねじ切りながらそう言う。
そしてその手で、[地球の断片]に関する今回のことで取れたデータ、その全てがはいったチップを弄んでいた。
「呂廠たちへの入れ知恵とかは、特に楽しかったな!キカカカ!」
ルーネィは、今回のことに関して、あらゆる点で関与していた。テラも呂廠も、ときわも、その他の子や孫全員が、そのデータ取りに利用されていただけだったのだ。
誰もそれに、気づいてはいなかった。
「また、機会があったら、あったり取引するかもな?キカカカカ!」
ルーネィとノーザリアは、研究と商売のために、またこういったことをするのかもしれないが、それは誰にも分からないことであった。
「さぁて?これでなにするかねぇ…」
そう言って首を付けなおしたルーネィが、ニヤニヤしながらなんとなしにチップを軽く放り投げた時だった。
バキンッ!
銃弾が吐き出される音。空気を貫き、突き進む音。それらを感じさせる暇なく、最後の、チップが粉々に砕ける音が響いた。
「……」
それを見たルーネィの目は点に。
「のぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?でぇぇ!でぇぇぇたぁぁぁぁぁ!?!?!?」
パニックになり、絶叫して頭を引きちぎっては投げようとするルーネィ。
「落チ着イテ居クダサイ、ますたぁ!」
それを止めようと無表情のままで、しかし声には焦りがにじみ出ているノーザリア。
彼女等が展開するそんなコントのような場に、女性は足を踏み入れた。
「待ってください」
「?」
多少は落ち着いたルーネィがノーザリアと一緒に振りむく。
するとそこには、服がボロボロになり、明らかに落ちぶれた様子のアメジスタが立っていた。
両手に持った銃を向けて。
「……フィラさんたちだったり、あの守銭奴たちのせいで散々ですよ。解雇されてこの様です。……ですが、あなたたちは見つけました。さぁ、神妙にお縄に付きなさい!」
「…キカカ、カカ!解雇されたんなら逮捕権も、武器を持つ権利もないだろ!お前は違法に銃を所持し、一般市民に発砲した犯罪者だぜぇ?…っていうかデータ返せ!」
「うるさいです!例え一切の権利が剥奪されようと!地の底まで落ちていこうとも!あなたを捕まえるんですからぁ!犯罪者を捕まえるんです!」
「そうかよ!いいからデータ返せぇ!」
「やかましい!もう心は折れません!アメジスタだけで、やってやりますよ!」
「手伝いがあってもしくじった奴が調子に乗るんじゃねぇよ!データどうしてくれるんだよぉ!」
アメジスタは銃を乱射しながら、ルーネィを抱えて逃げるノーザリアを追うのであった。
ときわは、どこかの病室で目を覚ました。
随分清潔な部屋だ。開けた窓から吹いてくる優しい風がカーテンを、彼女の髪を揺らす。
「なのさ……?」
状況がよく分からずに首を傾げる彼女。そこに部屋の入口の方から声がかかる。
「ときわ君。君はもう大丈夫だ。生身とはいかぬがな、生きながらえることができるようになったぞ。あの[星神]…いや、君の大切な友達に感謝するといい。彼女の適切な対応がなければ、君は身体改造をしたとしても、助からなかったんじゃ」
白衣にゴーグルを掛けた背の低い初老の男性(医者なのだろう)はそう言い、部屋の出口の方に行く。
「面会は構わないぞ。既に面会者は来ておる。無理にならない範囲で話しておいてかまわん」
そう言ってするりと退室した彼と入れ違いに、小さな影が病室の扉を駆け抜けた。
「……ときわ!」
「なのさ?」
どこから持ってきたのか、ときわの横たわるベッドの横に三脚を流れるような動作で起き、テラはそこに座った。首には[封御の輪]はがついている。
「ときわ!」
テラは目じりに涙を浮かべながらときわの手を握った。
「…ときわ!ときわ!ときわ!」
「…テラ」
ときわはテラの手を握り返す。
「また一緒にすごせる……過ごせる…うぅ」
テラは我慢しきれなくなったのか、ときわに抱き着いて泣き始めた。ずっと、ずっとだ。その鳴き声はあまりに大きく、他の病室の担当医から注意が来るほどだった。
しかし、それほどテラのため込んでいた気持ちは大きかったことになる。大切なときわに生きていてほしい、また一緒に過ごしたいと、そう望む気持ちが。
それは、今もっとも近くにいる彼女にはすぐに分かった。
「………」
彼女は慣れていない一部が機械の体をどうにか動かし、テラを抱きしめる。
「……ごめん、なのさ……」
二人の額が触れた。
「…ありがとう。これからも、ずっと一緒にいようね…なのさ」
優しい風が二人を包んでいた。
「…よかったな」
「うん」
テラとときわの様子を、フィラと神威は病室の入口から覗いていた。…まぁそのせいでテラの鳴き声が拡散されやすくなり、注意を受けることになったのだが。
「………さて。どうしよう……」
フィラは脂汗を浮かべながら言う。
今回の事件、ルーネィがアメジスタによって捕まえられたことで全容が解明され、誤解が解けている。フィラ達が捕まる理由になったことも今回はノーカウントとされた。
黒幕であったルーネィの存在を知り、フィラは怒りが湧かないわけではなかったが、ルーネィが今回の事件の責任で終身刑に処されたのだから、これ以上何か言う事でもなかった。
ただし、ただしである。
今回の事で、フィラがどうやっても言い逃れできないことがある。
それは。
「…窃盗……」
あの艦で機体を奪ったことだ。幾らテラの手伝いのためとはいえ、それを言う事もなく奪い、[地球の断片]の残骸となった[星入界塔]に放置してきたのである。さらに機体はフルールから機体を奪う際に小破している。よって器物損壊も追加である。
彼女が手伝いの組織に所属していることやテラと言う[星神]の言葉などがあれば多少は現在されるかもしれないが、無罪はさすがに無理な気がする。
所詮、何処までいっても犯罪は犯罪なのだから。
「テラ姉ちゃん……」
今フィラがここにいるのは、温情でテラの様子を見に来ることが出来ているというだけで、これから裁判が待っているのだ。
それを証明するかのように、廊下にはフィラを見張っている者がいる。
「神威……」
彼女は避けられない嫌な現実にため息をつきながら言う。
そこに彼は、
「おつとめ、がんばってきてくれ」
無情な一言。
「まだ懲役刑と決まってないからね!?…いやそう言う問題じゃなかった…!」
そして。
「被告人を有罪とする。罪は罰金刑」
やはり、いかなる理由があっても物を盗るのはいけないことのようだった。
「……すみません」
唯一の救いは、テラの言葉であの[星神]を信奉する[竜]の男を抑え、組織からの除名だけは防げたことか。
「…まぁ、テラの手伝い、できたからいいかな」
フィラに後悔はなかった。