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かなえバシ(旧作)  作者: 結芽月
第四章[大切なあなたのために]
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第四章[大切なあなたのために]4

 二つの巨体が、向かい合っていた。

(………武装は剣……と、腕部万能武装ユニット…ってなにこれ。今は使えないの?)

〈守護神〉のコックピット内。

フィラは相手の動きに注目しながらも、同時に機体の武装の確認を行う。

奇妙なことに、後者の装備は、今の形態(・・・・)では、使えなくなっていた。

「…なにか、あるのかな。細工したとか?……奪った機体を運用するのに、機能を制限するかなぁ…?自爆機能とかじゃないっぽいのに」

 彼女の足元には、白目をむいてピクリとも動かないフルールがいる。

(奪えたのはいいけど……勝てるかな……)

 フィラはテラの録音音声でフルールをおびき出して倒し、機体を奪った。

 〈守護神〉のような巨大兵器が出てきたので、他にも出てくることを危惧し、テラがときわを取り戻す一助とするためだ。

「……扱い方は、前見た奴でいいよね」

 最初に日常をフルールが破壊したとき、彼女が操縦するのは見ていた。その記憶データを頭の中で解析することでフィラは操縦法を理解している。

「…できるはず。……一応、あなたもテラの大事なものなら、力を貸して」

〈守護神〉はそれに応えた。

 そして、彼女が機体を駆って[星入界塔]から出てきたところで奇妙な巨体を目にし、ここまで来たのであった。

『まさか、奪ってくるなんて。予想外なのさ』

「………呂廠じゃない?聞いたことない声だけど……」

 相手は姿勢を低くし、明らかに視線を、〈守護神〉の方に向けている。

 今にも動き出しそうであり、フィラには、敵意丸出しに見えた。

「………」

 彼女は警戒を解かず、ゆっくりと〈ズメウバ〉を頭の上に乗せ、盗んだ戦闘機の時の様に合体してもらう。

 その間、相手は一切攻撃を仕掛けてこなかった。

「………どういうこと?」

 敵意があるのなら、攻撃の、絶好の機会だったはずなのに、相手は待った。

 それは、何を意味しているのか。

「テラ。あれを倒せばいいの?」

「……」

「そうしたら、あなたはあの()を助けられる?」

「……ぁ…っ」

「……?」

 フィラはまともに反応しないテラに対し、怪訝な顔をする。

「…どうしたの、テラ。決めるのはテラだよ?」

「……」

「……どうしたの!何か言って……」

 フィラはテラの様子を変に思い、さらに声を掛けようとする。

 だがそこで、相手が動いた。

『まずは、一つ』

 それ、は巨大さからは想像できないぐらい繊細に、そして素早く、その巨大な腕を後ろに引く。

 一瞬にして漆黒の巨腕を前へと出す。そこから突風を付き従え、打ち出されるのは。

 ……全てを貪欲に食らいつくす、超高速で迫りくる暗黒の槍だ。


「……!」

 戦うか、戦わないのか。それを選ぶ余裕などなく、前者を選択するほかない状態に追い込まれるフィラ達。

「……っ」

彼女の思考回路が危険と判断した時には、既に彼女は機体を後方に跳躍させている。

すんでのところで回避されてしまった槍は、目の前の地面に突き刺さり、直後に……、

「……なくなって」

 巨大なクレーターのような半球が、膨張して全てを飲み込んだ槍によって作り出される。

「……これは」

 フィラが驚いて目を見開いている間に、敵の姿が消えた。

「え……」

 その呟きの漏れる間に悪魔は〈ズメウバ〉の背後で、それを見下ろしていた。

「は……!?」

『ハハハハ!』

 瞬きをする時間もなく、鋭い爪を生やした死神の左腕が〈守護神〉に襲い掛かる。

「!?」

 フィラは振るわれる爪を機体の大剣で弾くも、次の瞬間には相手は背後。

 強烈な回し蹴りが対応する前に放たれ、まともに食らってしまう。

『ハハハハハハ!!』

 悪魔は瞬間移動に近しい芸当を駆使し、消えては別の場所に地響きを立てて現れ、また消え、現れては死神の鎌のごとき一撃を当てようと、幾度となく腕を振る、振る、振る。

『その〈守護神〉の基本性能ぐらい分かってるなのさ!一緒につくったんだから!』

 フィラは雷撃を放ったりと、必死に抵抗を試みるも、全ては徒労に終わってしまう。

(……呂廠は倒されるか何かされたとしても、この相手は一体……。機体を知ってるっていうし……)

 反撃の目は一向に生まれないが、彼女はせめて当たる攻撃の数は減らそうと回避を優先し、機体ダメージを抑える。

  跳躍、しゃがむ、横に倒れる、変な体勢になって回避するなど。

 〈守護神〉は攻撃回避のためにせわしなく動き回る。

(……だとしたら、なんなの?テラは何も言わない……。どうして?)

 何故、テラはときわを取り戻すと息巻いていないのか。ずっと無言なのか。

 知らない声の持ち主、目の前の相手とは、いったい何なのか。

「………けど、このままじゃやられちゃう……」

 相手の正体がなんであろうと、このままの状態が続けば彼女等は敗北し、ときわの奪還に失敗することになる可能性が高い。

 それは……、

(私が負けて……本当に無駄に終わったら、意味ない。それじゃ手伝いになって、ない…!)

 彼女は闘志を燃やす。

 テラのために、彼女が望む、ときわの奪還のために。

(チャンスを……反撃のチャンスを……)

 フィラは自身の演算能力を総動員し、相手の動きを観察し、隙を探す。

 悪魔を操る者は夜の闇の中、ひたすらに笑い続ける。

 今は、フィラ達は何一切の抵抗も許されず、ただいたぶられるばかりだった。

『さぁ!さぁ!』

〈守護神〉の死角を取っては凪払いによる攻撃の繰り返し。

 単純故に強力な攻撃。…………だが、あくまで単純だ(・・・)。

(機体性能に頼ってるのかな?……でも、このまままじゃとらえきれない。……なら)

 フィラは、機体に剣を背中に懸架する。

 そのまま、前方に立っている敵機に向かって全力疾走させる。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 走り、走り、走り続ける。

 そして、巨大な拳を握り、勢いよく左足で大地を踏みしめる。

 勢いよく突き出されるのは、唸る右の鉄拳。悪魔を目掛けた。

 その勢いは、激流のごとく。

いつしか電気の装甲を施した破壊の顎は、今まさに、敵の巨体をかみ砕かんと迫った。

 だが。

『は!そんな必殺技が、そんな都合よくあたるわけ、ないなのさ!』

 かなりの速度で突っ込んできたフィラを嘲笑うかのような叫びの後、敵は背後に高速移動。無防備な背中に、破壊の一凪ぎを叩きこむため、相手は足を踏み出し、腕を勢いよく突き出す。

『これで終わりだぁぁぁ!!』

 〈守護神〉の動きを真似たそれは、嫌がらせなのか。

 敵の手の中に、短めの漆黒の槍が作り出される。

 度重なる攻撃に、機体の背中の装甲には隙間が生じている。そこに槍を突き刺し、内部機器を貫いて機能停止させる算段だろう。

『アハハハハハぁ!』

 迫る、脅威。

 行動不能は敗北を意味する。

 敗北は無駄を指す。

 無駄は、手伝いをしくじることを…。

 ………だからさせない。

「……ひっかかり一名ご案内!」

『は?………うん!?』

 拳を前に突き出した〈守護神〉。

 それはそのまま前方に右足を踏み出してさらに勢いよく走るような体勢になっている。

 故に、地を蹴った足は後ろに振り上がり、背中に懸架された剣の先に勢いよく当たる。

 そしてそれは、振動で跳ね上がって敵機の胴あたりに接触。敵機体の上半身をのけぞらせ、攻撃を外させた。

「な!?」

 基本性能を理解されていても、それ以外の部分、操縦技術で相手を出し抜けばよい。

 相手はその点で勝ってはいなかったし、失念している様子でもあった。そこをついたのだ。

(戦闘はビギナー………)

 相手が驚愕している隙に、フィラの操る〈守護神〉は体をひねり、あげた足を勢い良く伸ばす。

 轟音と共に足が付く。

 巨体が回っていき、悪魔に一撃を加える拳を突き出そうとする。

 だが。

『……遅いなのさ!」

「!」

 僅かに速度が足りない。無理やり振り下ろされようとしていた悪魔の腕の方が僅かに早い。

「神威、テラ!」

 フィラは頭部を防御しようとするも間に合わない。

 機体の拳が敵機を打ち抜くはやく、死にガマの鎌がテラを粉々に……。


『……ぁ』


 とまった。何故か、敵の振り下ろしの一撃は。

 届かないわけはないのに。さっきも、今も。

全員を殺すと宣言していながら、相手は決定的な手に出ない。……出れない。

(それとも………)

 だが、そんな思考している間も、拳は空気を裂いて突き出されていく。

 僅差で速度が上回った、相手の攻撃がなくなった今、それは必中の一撃足りうる。

 引かれていた拳は、大気を震わせ、一直線に敵の鳩尾へ突き刺さった。

『あああ!?』

 敵は装甲の破片を散らしながら後方に吹き飛ばされ、着地に失敗してバランスを崩す。

すかさず一歩。踏みしめる。

(………でも今は、これを倒さなきゃ始まらない!)

 次なる行動は、地を力強く蹴ってた勢いを乗せた強力なタックルだ。防御など受け付けない。

 さらに敵は吹き飛ばされ、宙を舞っているところに間髪入れず、雷撃を打ち込む。

『ああああああああああああああああああ!?』

「………」

 しびれた敵機は、ときわの叫びと共に大地に落下する。

『……ち、違うこうじゃない、なのさ……、…!』

 ときわが息を呑む音が聞こえる。

目の前には、背中の大剣を引き抜いた〈守護神〉が、佇んでいた。

(これを私が倒す……そうすればテラがときわを助けに行けるようになる………なの?本当に……)

 フィラは違和感により生じた疑問を抱えながらも、起き上がろうとする敵機の頭部を破壊しようと剣を機体に振り上げさせる。

 攻撃の手を止めないのは、以前に手伝いを放り投げたことが嫌で、今度こそやり遂げようとする気概故だった。

(…………テラ。これで、あなたは失ったものを取り戻せる?)

 剣が、振り下ろされる。

『………っ』

 敵機の頭部へと向かって。

 その時だった。

「……っ、待って!」

今更になってテラが叫ぶ。

「……ときわ、なの……!そこにいるのは、乗ってるのは!」

「え?」

 〈守護神〉は、剣をすんでのところで止める。

「…これに乗ってるのが……?」

 それを聞いて、フィラの頭の中に浮かんできたことは、違和感だった。

 何故、こんなことを?という。

(……テラが黙ってた理由は分かったけど……でも、そのときわっていう子がこうするのは……どうして?)

 違和感が募っていく。

 何かが、おかしいのだ。

 しかし、考えている暇はなかった。

『だぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 一瞬とはいえ、フィラは膨れ上がってきている違和感に意識を裂いた。

 相手にはそれで十分であったようだ。

「これは……!」

 思考に巨大な漆黒の球体が、〈守護神〉を襲う。胸部表層の装甲が分解され、さらにその直後、意趣返しにタックルを食らわせてくる。

「つぅ!」

 〈守護神〉は吹き飛ばされ、宙を舞っているさなか、相手は空中に高速移動。

 振り上げた脚を勢いよく降り下げ、〈守護神〉を勢いよく地に落とす。

「……っ」

 フィラは直ぐに機体を立ち上がらせ、剣を構える。

 空からは漆黒の槍を作り出した敵機が迫る。

『らぁぁぁぁぁ!』

「……はぁ!」

〈守護神〉は勢いよく剣を振る。だが、相手があえて槍に接触させた瞬間、接触面が消えて剣はバラバラになってしまう。

「…は!」

 それを予想していたフィラは、すでに機体に、剣を手放させており、その時にはパンチが敵を襲う。

『あああああああああああああああ!』

 強烈無慈悲な一撃が、敵の頭部にヒビを入れ、相手は怯む。

『……痛い、痛い……』

 ときわの悲痛な声が響いた。

 とても、痛そうな。そして、辛そうな。

『……やめて』

 再び、テラが口を開いた。

「…え?」

『やめて……ときわを傷つけないで。それだけはやめてよ…やめ、なさいよ…。戦いを、止めて……』

 自分の大切な()が、自分たちを襲う事への恐怖ゆえの、必死の懇願が絞り出される。

 フィラには、それに逆らう気は起きない。そうしたいと思うわけがない。

「………」

 だから、〈守護神〉はパンチのために握りしめていた拳を開き、構えを解く。

『……ときわも、止めて?痛いのなんて嫌でしょ?苦しいのなんて嫌でしょ?……』

 懇願は続く。

『……やめてよ。こんなの。違うよね?私を嫌いって…戦わないで…暴言やだ…こんなのときわの本心じゃないはず…戻ろうよ、仲よくしようよ、帰って来てよ…こんな、こんなの…ときわが全部仕組んだの?…あのとき私をやったのはときわの意思?…神威違うよ、ときわはそんなのじゃ……ああ、ああ、ああ!……もう、やめてよ、仲よくしよう!ね?』

 ごちゃまぜの感情。制御できない。溢れ出す思い。恐怖と願望と嘆きと…。

 あらゆるものが、とめどなく溢れ出る。

 テラが傷つき、混乱し、迷い、悲しみ、苦しんで、泣いていることは、彼女を直接見ずともよく分かった。

『…や、めて……こんな………の……』

 声は消え入りそうなほど小さくなっていき、最後には誰かに訴えかけることすらできない程になってしまう。

『……。…テ、ラ』

 ときわの静かな声が響く。

 フィラはその中で、テラの意思を尊重するために、口を開く。

「………私は、もう攻撃しない」

『……』

 〈守護神〉の全身から力が抜ける。

「だから、あなたも」

 フィラはときわにも戦闘中止を促す。

『……そう。そうしよう………』

『……え?それじゃぁ………!』

 そんな、テラの喜びの声が漏れた瞬間。

『とは思わないなのさ!』 

 瞬間的に移動した敵機の回し蹴りが、無防備な〈守護神〉を襲う。

「っ!」

 だが、フィラは宣言通り攻撃はせずに防御のみに徹する。

『……テラ。あなたの気持ちなどそこらの糞以下…いや、それよりももっと下なのさ。本当にくだらない。泣きたきゃ泣けばいい!どんなに悲しもうが、苦しもうが、知ったことじゃないのさ!本当にどうでもいい!あなたの気持ちなんて!』

 悪辣な言葉が並べ立てられる中、敵機は防御だけの〈守護神〉に幾度となく攻撃を仕掛け、傷つけていく。

テラが悲しみの叫びを上げ、

『このやろう!テラ姉ちゃんはしんぱいして……!』

 神威の怒りの声が上がる。

『余計なお世話なのさ。無駄、いらない。ほんっとーに、くだらない!何しょうもないことをしているなのさ!』

 止まらない猛攻。 

 止まらない鋭利な言葉の連続。

 機体の装甲は削られていき、なす術はないし、あっても使う気はフィラにはなかった。

 テラが何かを決めない限り、フィラはただ、現状維持に徹するだけだった。

『アハハハハハハ!滅べ、消えろ、苦しめぇぇぇ!』

 テラを罵倒しながら、攻撃を続けるときわ。

 しかし、何故だろうか。

(どうして…こんなに違和感があるの)

 彼女の暴言の繰り返し。畳みかけるように放たれるそれは、間髪入れずに言うことで、

(必死に、嫌われようとしているみたい………)

 そして相変わらず、彼女は機体の頭部、テラ達のいる〈ズメウバ〉に攻撃を絶対にしてこなかった。

「………」

 そこにテラがいるのを知らないとしても、かすりすらもしないのは、余りにも奇妙。

(あなたは………)


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