第四章[大切なあなたのために]3
「え……………」
テラの顏が衝撃と恐怖に染まる。
「……嫌い、嫌い、嫌い、嫌い………本当に嫌い、嫌いなのさ」
ときわは目を細めてテラを見る。
「………なんで、なの………友達なのに…一緒に笑って……私、ときわとずっと一緒に……」
「あなたの所為だ」
「………?」
ときわは、混乱と恐怖に押しつぶされそうなテラを見つめながら、語り始める。
「……あなたはずっと[地球の断片]にいろって、保守派に組して……外に出るのを許さなかった。鎖国じみたことして、私達みんなを捕らえていた」
「…………」
「だから……あんなにたくさん死んだなのさ…。……町自体は大きくもなかったのに………あなたが[地球の断片]に縛ったから……私の家族も死んだなのさ……」
彼女は語る。
できるだけ静かに。
だがその息は荒い。そのためか、奇妙なことに感情の起伏があまり感じられない言葉は、恨み言のように呪詛に似たものを持って、テラに襲い掛かる。
「……嫌い、嫌い、嫌い………大っ嫌い。あなたがいるから悪いなのさ……」
ときわの目じりには、涙があった。
「……テラが悪い。テラが……守ってくれなかったから、テラが無能だったから…
だから、許せないなのさ」
ときわは友達であるはずのテラを責め立てる。
同じ被害者であるはずの彼女に責任を擦り付け、彼女のせいだと叫び続ける。
あまりに勝手で、無責任で。
あまりに、嫌な言葉で。
「……大切と言っておきながら、守れない、守れない」
「………やめて、やめて…」
テラは首を左右に何度もふる。
嫌な記憶が、思い出される。
恐怖が、思い出される。
「……そんなの、ただのやつあたりだろ!」
神威はテラも被害者だから、攻めるのはおかしいと、感情的になって言ってくれる。
だが、ときわの意見は、発言は、姿勢は、決して変わらない。
テラを罵倒し、攻め続ける。
勝手な責任転嫁の言葉の数々。
それは言い終わった時には彼女を嫌いになってしまうぐらいの程の、もの。
「いや……そんな」
テラは大好きな子が、友達が自身を嫌ってしまったと、信じることはできない。認めることはできない。
否定したい、否定したい。
「……そ、そうだ。洗脳とかされて……」
そんなむちゃくちゃなことを言うのは、テラのことを悪と思うように洗脳されているに違いない。
と、ほとんどただの思い付きでいった彼女の考えは、
「……そんなことされてると思うなのさ?」
嘲るように言うときわに否定される。
「…………」
彼女の目は、すでに虚ろではない。
どこかぼんやりとしてこそいるものの、そこにははっきりとした意思があった。
「……でも、ときわは、そんな………」
「……うるさい。わたしはあなたを憎んでるなのさ。嫌っているなのさ。…………」
彼女はテラに外されたバイザーを拾い上げ、装着する。
そして、瞳を震わせ、唇を震わせ、体を震わせ、嫌だと震える声で呟く彼女に向き直る。
「……テラは、私達のために、犠牲になるべきだったなのさ」
「……とき、わ……」
『……ちょうしのんな!』
神威は機体に一方踏み出させる。
『テラ姉ちゃんはアンタをたすけるためにがんばってここまできたんだぞ!ずっとくるしんで……。なのに、アンタはそんな、かってなこと、いうのかよ!』
「知るかなのさ。テラが何を思っていようと…………」
ときわは一呼吸置く。
「……あなたを、決して許さない。何もしれくれない、ただ思うだけのあなたは、いるだけ無駄なのさ。価値なんてない。あなたは役立たずだから。だから……消す」
『…………………おまえ!』
神威は顔を真っ赤にし、機体をときわ………〈レクト〉の方に接近させる。
しかし、彼女に一発入れることは叶わない。
何故ならば、強烈な空気の大波が、〈レクト〉を起点に周囲に広がったからだった。
『なぁ!?』
〈ズメウバ〉はある程度近づいたところで、その波動にはじき返される。
テラも突然のことに対応できず、吹き飛ばされる。
「……と、きわ………」
〈レクト〉が白い光を放ち始め、円柱の形となり、男を中に入れ、空高く立ち上る。
同時に、波動がより一層強まり、周囲の物体が崩れ始めていく。
〈レクト〉は機械の支柱と共に、徐々に空へと上がっていく。
「……ときわ。ときわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
何を作り出しても吹き飛ばされ、抵抗できないテラが、手を伸ばして叫ぶ中、ときわは空に上がっていく。
瞬間、床が完全に崩れる。
テラ達は落ちていき〈ズメウバ〉は瓦礫に何度も当たることでうまく飛べない。
故に、このままいけば、彼女等は落下して粉々になってしまうところだった。
けれど、ある者が駆る物が、その巨大な手で包んで、掬い上げてくれたおかげで、彼女等は難を逃れたのだった。
「………あ」
彼女等が見上げる空に、巨大な何かが作り上げられていく。
崩れた建造物は、光りの柱の周りを回るように集まっていき、彼女等の遥上空で、漆黒の巨体を構築しているのだ。
彼女等を持つ巨体はそれに巻き込まれないよう、後方に大きく跳躍し、地響きと共に着地する。
「………これは」
テラはその衝撃を受け、思はず上を見上げる。
そしてそこに見えたものに驚愕する。
「……〈守護神〉………!?乗ってるのは……」
『私だよ』
「……ふぃ、フィラ?………まさか…奪ってくるなんて」
『まぁ、相手があのアホだから………いやまぁ、それはいっか』
「………」
〈守護神〉は前を向く。
『とにかくこれを倒せば、いいてことかな』
『何が来ようと、あなたたちは全員、殺してやるなのさ』
『……それは。させないから』
『ふん』
〈レクト〉を巨大化し、さらに禍々しく、巨悪な形に変えたような、腕。
大地を貫いて体を支える、針のように鋭い巨大な足。
小さめの腰回りと中心部が前に突き出た、刺々しい胸部。
大量の、先端がとがった板状の武装を乗せた背部。
そしてそれら全ての上にある、〈レクト〉に近いが、棘が増えた、バイザーが限りなく黒に近い紫色に、不気味に光る頭部。
光の柱は雷のような形に割けて強烈な空気の圧力と、激しい光を放つ。
それを背にし、頭部を妖しく光らせる漆黒のその姿は、まさしく悪魔であり、姿を現したのは、そんな巨大な機械の怪物だった。
「…………」
テラが俯く中、〈ズメウバ〉が歩いてきて、彼女をコックピットに入れる。
「……テラ姉ちゃん」
機体の腕を使って中にいれた彼女を、神威が心配そうな声をかける。
だが、あと少しと言うところでときわを取り返せなかった彼女は、〈守護神〉とフィラの登場の驚きが覚めれば、落ち込んで俯くほかに何もできなかった。
それほど、彼女の心とは弱いものであった。