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かなえバシ(旧作)  作者: 結芽月
第四章[大切なあなたのために]
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第四章[大切なあなたのために]2

「私、何だけどね」

 フィラは呟く。

 今のものは録音。フィラがテラに言ってもらった台詞を自分が聞き、そのデータを機体に再生させたものだ。

 フルールはあまり深く考えないので、録音で騙し、煽って、注意を引き付けることが十分可能だとフィラは判断し、それは見事成功した。

「……後は、これをどうするかだけど」

 (それなりにはもってよ…、戦闘機〈アトホア〉……正式名称〈後で法廷で会いましょう〉)

 フィラは機体の武装を〈守護神〉の方に向ける。

「まだ、二つ台詞はある………うまくやるしか、ないか……」

 彼女は一旦心を落ち着かせて言う。

『さぁ!さぁ!今こそ裁きの雷が、傲慢なあなたを、滅ぼしますわ!』

 〈守護神〉が両手で大剣を構えると、剣は機体の指先から生じる電気を纏い、バチバチと激しい音を立てる。

「………キツイかもしれないけど……相手はフルールだし。なら日頃の迷惑のお礼もね」

 戦闘機〈アトホア〉は簡易的な変形を行う。

 機体下部の装甲が展開し、スラスターと一体の足を形作り、機首が二つに割れて腕となり、その奥から三角錐に近い形状の頭部が顔を出す。

 両腕にビームキャノンとレーザーソードを装備した機体は、目の前の巨体を睨みつける。

「……こうするのだって、テラの手伝いになる。だから……頑張る!」

 〈アトホア〉の頭部センサーが青く光る。

 フィラの叫びとともに、テラの邪魔をされないために〈守護神〉を倒すため、〈アトホア〉は戦闘を開始した。


▽―▽


「な、お父様!?なんでワタクシ達を、こんな箱の中に………」

「箱じゃなくて、脱出艇って、言うらしいけどね」

 その中に押し込められた自身の()達を見ながら、呂廠は笑顔でそう言う。

「…なんでじゃ、お父様」

「いやぁ、ね?今回のは、ルーネィによると、あちらもかなり本気らしい。…となるとだ。思っていたより激しくなりそうだから、君たちは退避させることにしたんだよ。危ないからね」

「お父様、俺たちの事……」

「…ひどいですよお父様!邪魔だから捨てるだなんて!」

「…い、いやそこまでは言ってないんだけど」

「そうじゃぞ、フェアリオン。そこまで言っていない、というか流石に思ってないじゃろ」

「そうだぞ」

 頷く()たちにフェアリオンは。

「そうなんですか?」

「そうだよ。君たちは、大切だからね。今までありがとう。わざわざ猛勉強まで国際言語覚えて、僕の楽しみの手伝い、ありがとう。後は僕だけでやるよ」

『お父様…』

「前回のも、ちょっと危なかったし。これ以上は、ね?だから……」

 呂廠はフェアリオン達に微笑みかけ、脱出艇の発進ボタンを押した。

『お父様~!』

 彼女等の叫び声は、発進した脱出艇が遠ざかっていくほどに、小さくなっていった。

「さて。前回は本気を出していなかったとはいえ、向こうから見れば、僕は格下。どう、戦おうかな?」

彼らの文明レベルは、地球で言うところの、石器時代ぐらいだ。

彼らが持つ杭打機は、衝撃を与えるとはじけ飛ぶ、固有の土を利用した、狩りの道具をルーネィの入れ知恵で改良したものとなる。

 そして、[壬]というフェアリオンたちのような種族の使った、最初の道具である。

 そういったことから、彼らは最先端の技術の扱いなどまるでできず、呂廠が能力で作れるのも、それ相応のものにすぎない。

「……でも?真っ向からの張り合いが無理と言うなら、からめ手を、ね?それは、力の差を埋めうる、また別の力になるからね。……それじゃ、最後の楽しい戦い、始めようか」

 勝敗はどうであれ、そろそろ国際的な組織から、彼の行為やルーネィの行為に対し、取り締まりの手が伸びるらしい。

 だから、これで最後だ。こんなに堂々と戦いができるのは。

「だから、楽しもうか。テラ?」

 彼は、都市に作られた円形の巨大構造物にある、吹き抜けの廊下から、透明なガラスで覆われた天井を通して空を見上げる。

空には〈ズメウバ〉がおり、そして彼女は現れる。

一度は失ったものを取り戻すため、そこから飛び降りてくるのだ。

「廠ぉぉぉ!」

 ガラスの割れる轟音と共に、テラは天井を突き破って呂廠の前に舞い降りた。

「………早かったね?テラ」

 呂廠は笑顔で言う。

「……ときわはどこよ!」

「おおっと、怖い怖い……ま、そんなことはいいじゃないか!」

 呂廠は両腕を広げると同時に、無数の杭打機が空中に出現し、杭が次々にテラ目掛けて打ち出されてくる。

「……楽しいもうよ、戦いを!僕を倒したら自由に探して取り戻せばいいさ!」

「うっさい!………するわけ、ないでしょ!」

 テラは背後に跳躍を繰り返しながら左手にマシンガンを作り出し、狙いが付けられないことを承知で弾をばらまく。

「おお!すごいね、テラ!」

 杭の数は圧倒的。ならばこちらも、数の暴力で対抗しようと、テラは思ったわけだった。

 ばら撒かれた弾は杭を打ち抜き、破壊し、軌道をそらすことで、一本たりともテラには近づけさせない。

「…君、何で戦うんだい?」

 呂廠はテラにそう問いかける。

「…ときわを取り戻すのよ!」

「商人に聞いた通りだ。本当に良い理由じゃないか。少なくとも僕よりいいね」

「……」

 テラはさらに距離を取り、呂廠を睨みつける。

(……さっきできればよかったんだけど。隙は無かったし。うまく隙をつくって……)

 彼女は、和服の内側に入れてある、あるもの(・・・・)の存在を確かめる。

「……おや、来ないのかい?」

「……煽りは、いらないわ!」

 テラはステップを踏むと、両腕にミサイルポッドを作り出して全弾打ち出す。

 破壊の顎が呂廠を襲わんと迫るが、

「ふんっ!」

 彼が腕を振ると、四方八方に杭打機が現れ、杭を打ち出してミサイル群を迎撃する。

 破壊されなかったものは彼の眼前まで迫るが、急に軌道を変え、あらぬところに突っ込む。

爆炎が生まれ、両者の視界を遮る。

「ふっ!」

「はは!」

 爆炎が晴れた直後、両者は手に各々の格闘武装を持って接近する。

 テラは、長い糸に手榴弾を何個も括り付けたもの。

 呂廠は、杭打機。

 両者は同一直線状を駆け抜け、お互いの武装を相手に向かって使用する。

「粉々になれ!」

 テラが叫び、手りゅう弾のピンを全て抜き、呂廠に叩きつけようとする。

 だがそれは成功せず、途中で何かに押されたように変な挙動で飛んでいき、壁を粉砕。

 呂廠の杭はテラの左わき腹を穿つ。

「……痛っ…」

「…ははっ」

 呂廠は見る者も魅了する顔を歓喜に染める。 

テラは手りゅう弾をもう一つ、床に向かって投げつけ、爆発させて時間を稼ぐ。

「凄いなぁ、[地球の断片]っていうのは。僕たちとは比べ物にならないほどの文明だ」

「…そりゃ、ありがと!」

 星神たちは一階下に落下。

 その際、両者はすでに応戦の準備を完了し、大量の武器を展開している。

「…アンタ、なんで私たちの日常を壊したの。どうして……!虐殺したの!」

「……い、いやぁ。あんなにする気は、無かったんだけど…まぁ、やっちゃったからなぁ……」

「は?」

 テラは半眼で視線が横に流れた呂廠を見る。

「……まぁ、やった理由はだね……、単純に」

 呂廠は杭をさらに打ち出す。

 テラは過剰な火力の火炎放射器で燃やし尽くす。どうも杭は植物でできているらしいので、そういうこともできた。

「戦いと言うのに、興味があってね。それで実際やってみたら、楽しかったわけ、これが。そういうのなかったからね、僕たちのとこには」

 地球の石器時代レベルだと言うのであれば、農作もやっていない頃となる。食物連鎖に基づく戦いはあっても、地球の人がやったような、争いとしての戦いはなかったという事になるのだろう。

 知らないことへの好奇心。それが理由だというのか。

「………そんな理由で!」

 テラは激高し、大剣を両手に構え、ミサイルを撃ち込みながら路床へと接近する。

 姿勢を低くし、全力疾走。

 あと少しで呂廠を両断できるというところで、

「……すまないけど、こんな理由でね!」

 呂廠は羽を動かして一気に離脱。

その叫びと同時に、テラの周囲、三百六十度に杭打機が現れる。その先には、地球のツタのような植物で作られた縄が括り付けられている。

「………っ!」

 フィラは逃げようとするが、床、天井、壁、全てが杭打機で覆われており、退路はない。

「このぉ!」

 テラは破壊して強硬突破しようとするが、そんな暇が与えられるわけもなく、杭は四方八方から彼女を襲い、何度も交錯し、重なり、混じり合いを、彼女を完全に動けなくし、周囲の空間も埋め尽くす。

「まぁ、いくら文明レベルが低くってもね?道具がたった一つだけ、なんてことはさすがにないよ」

 呂廠は得意げにそう言う。

(拘束が強すぎて、抜け出せない……。空間的余裕もない)

 それがなければ、何も作り出すことが出来ないのである。

「……さてさて。もう終わりみたいだね?また戦えて楽しかったよ。前回とあまり変わらなかったけどね」

 そう言うと呂廠は、手に石できた、不出来な器のようなものを作り出す。

中には透明な液体が入っている。

「……たまには、他の誰にも頼らずに僕たちの力で勝ってみたいと、思ってね?」

 彼はそれを、杭と縄で作られた檻の中に流し込む。

(……なに?)

 何かがしたたり落ちる音に反応し、テラは頭も動かせないので、目だけを動かす。

「何かが……あっ!?」

 それは、伝わっていくところを溶かしていきながら(・・・・・・・・・)、テラの頬に落ちてきた。

「これ、は……」

 シュゥ~という音と共に、それはテラの頬を溶かしていく。次々と落ちてくる水滴……何かしらの強い酸性を持った液体は、彼女の体を、上から溶かしていく。

(強酸……いたい、いたい、いたい、いたい、いたい、いたい、いたい、いたいぃぃ!!)

 再生を行っているため、体が全損することはない。

 だが、痛みはなくならない。体が削れていていく痛み。あるものがなくなっていく喪失感。なくなっては戻る気持ち悪さ。全身を襲う不快感、悪寒。何かに飲み込まれ、内側に何かをいれられたような威圧感。

 それらが大挙して襲ってくる。

(いだい…いだい…いた、だだだだだだだだだ!!)

 なくなってと望んでもなくならない、何処までも続く苦痛。痛みと言う恐怖の監獄の中に、彼女は囚われていた。

(何か……これをどうにか…いたいっ、よう……)

 彼女の頭の中に、どうにか状況を打開してくれそうなアイテムが次々と浮かぶ。

 だが、それを作り出すスペースがない(・・・・・・・・・・・・・・)のだった。

(……うぅ。こんな痛みを、ずっと感じるぐらいなら…いっそやめて)

 そうして諦めそうになる彼女の頭にときわの姿がよぎる。

(………ダメだ……あきらめちゃ……!失ったものを取り戻すのよ!)

 彼女は激痛に無理に耐えながら、その機会(・・・・)を窺がう。

「楽しいね、テラ?」

「うぅ………あぁ」

 呂廠は強酸で溶けていく檻の隙間から見えるテラに微笑みかける。

「ジャイアントキリングと言うのも本当に」

「…………」

「文化というものもいいね。今までやった芝居っていうのも本当に楽しかった。……いいなぁ、君にはそう言うのがあって」

 少し残念そうに言う呂廠。

 ないゆえに、する楽しさは飛び抜けていて、そしてないことに少なからず嫉妬が生まれてしまっているようだった。

「本当に、羨ましいなぁ?」

 呂廠は、なすすべもなく溶け、再生を繰り返して痛みに完全包囲されているテラを見て、随分と余裕があるようである。

(………狙い、目は……)

「どうしてそんなに発展出来るのかな?ねぇ、テラ……」

 彼は顔を檻の中に入れ、彼女に顔を近づけて問い掛ける。

「……それは」

「うん?」

呂廠は何かを期待して彼女を見る。

「文明レベルが低い……。……そうね。わざわざ高いのに囚われてる必要なんて、ないわ。アンタがこちらの高さをうらやましがるなら、こっちも同じレベルに、合わせてあげるわ!」

 直後。その言葉とともに、檻は赤く燃え上がった。

「な……!?」

 呂廠は驚き、檻から距離を取る。

 そこには、確かな隙があった。

「くらえ!」

 彼女は和服の懐から[封御の輪]を取りだし、勢いよく投擲する。

 驚異的なコントロールで放たれた輪は、見事に彼の首にはまる。

「な、なんだ?」

 彼が戸惑っている間に、檻は燃え尽き、その中から、全身を赤く燃え盛る炎で覆ったテラが、姿を現す。

「その炎は………」

「あなたが虐殺してくれた、私の()たちが、初めて扱った道具よ」

「…[文明根源]、か」

 それは、かつての星の文明の原点にあった、最初の道具を、自由自在に扱うことができる、それぞれの[星神]で完全に異なってくる、ずば抜けて特異な能力である。

 形を変えるもよし、自在に動かすもよし、およそなんでもできる。過去の道具をそのまま作り出すだけの能力とは、一線を画するものなのだ。

 ちなみに、呂廠が四方八方から杭打機の尻を叩かずとも、杭を打ちまくっていたのも、[文明根源]の力だ。

「……なら、くらいなさい!」

 テラは炎を纏わせた剣を振るい、呂廠に接近する。

「今度はアンタが、溶ける番よ!」

 灼熱の刃が呂廠に迫る。

「ははっ!」

 流石に驚いたのか、対応が少々遅れつつも、彼は縦にしようと大量の杭を生みだそうとする。

 だが、それは叶わない。何も生まれない、作り出されない。何も、起こらない。

「……な、どうしてなんだ!?まさかさっきの……」

「……そう。それは[星神]の能力の大部分を封じる[封御の輪]よ」

 呂廠の首についたもの。それはかつて、神威が手だけになったテラの元を訪れた時、フィラの頭に置いたもの。

 テラは彼の提案により、それを彼女から貰っていた。

「[星法平正機関]所属の艦が保有していたものよ。性能はお墨付きだわ」

「く………外れない………壊せない」

 彼は[封御の輪]を引っ張ったり、握り潰そうとしたりするが、全く効果はない。

「さぁ、ときわの場所を、教えなさい!」

「く………」

 呂廠は冷や汗を浮かべながら、既に作り出していた杭の中で大きいものを手に取り、盾にしようとする。

しかし、杭は火炎放射器で燃やされたときよりもはやく、溶ける。

燃えないのは、彼女の炎は本物ではなく、本物同様の熱を持っただけの再現物だからだ。

「………それは凄いよ、テラ!」

 彼は翼を広げ、一旦距離を取ろうとする。だがその際、驚き故か隙が大きかった。

 それをテラは見逃さない。

「さぁ、もう終わりよ、観念して消えない!」

「…そうは、いかないなぁ!」

 呂廠は羽を動かした後、近くの鋭く尖った、巨大な瓦礫を拾い上げて投げてくる。

 テラがそれを避けるために動こうとすると、瓦礫は急に軌道を変え、彼女の目に向かっていく。

 全身から高熱を発する状態にある彼女がずっと立っているのに、溶けない床と同じで、耐熱性にたまたま優れているらしい同様の素材のそれは、その大きさも相まって、当たれば彼女の目を潰し、激痛を走らせ、大きな隙を作る事だろう。

 しかしだ。

「…分かってるわよ、それ」

テラは余裕を持ってそれを避け、地を蹴った呂廠に近づき、その肩腕を溶かし尽くす。

「アンタたちが、その羽から、強めの衝撃を受けると破裂する気泡をたくさん出す身体機能を持ってるのは。神威やフィラたちと、話したからね」

「……凄いな。よくそんなの分かったね」

 呂廠は驚き、称賛の声を上げる。

「私の()の言葉に、三人寄れば文殊の知恵っていうのがあるのよ」

 テラは得意げに言う。

「……うん、まぁ良く分からないけど」

「平凡でも、集まればいい考えが浮かぶってことよ!」

 彼女は廊下を疾走し灼熱の剣を呂廠に向かって突き出す。

「く……自棄を起こさずに落ち着いて戦われると、こちらには勝ち目はない……いい勉強になったよ………〈レクト〉!来てくれ!」

 呂廠は羽を強く羽ばたかせて後退しながら、テラを圧倒したときわを呼ぶ。

 だが、何も起こらない、何もやってこない。完全な時間の無駄だった。

「……どうしたんだい?どうしてこな………」

「消えろ!」

「………あ、やちゃったなぁ」

 〈レクト〉が来ないことに驚いたことで生じた、僅かな隙。

  テラは彼が彼女に意識を向けなおす前に、力強く床を蹴って一気に距離を詰め…、

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 灼熱の裁きを、呂廠に叩きつけた。

「うぉ!?」

 テラは勢いのまま、彼に突き刺した剣を横に内で溶けていく彼の体の上下をほぼ分離させ、彼とすれ違う。

「……どうやら、足りなかったようだね。まだ、僕は戦う気が……」

 呂廠はまだ、倒れてはいなかった。

 胴のあたりが溶けて無残な姿にこそなっているが……まだ戦える、などということはない。

「あなたは終わりよ。時間的にね」

「うん?それはどういう………」

 チクタクチクタク……と、ほんの僅かな時を刻む音。

「……ん?」

 彼は自分の胴を見る。

 そこには、爆発寸前の時限爆弾。

 次の瞬間。

「………これが、本当の爆発オチというものぁ……!」

 轟音と爆風とともに、呂廠は跡形もなく吹き飛んだ。

「…………悪役は、爆発で散るのがセオリーよ」

 ()の創作物に、敢えてなぞらえた打倒手段は、テラの()への愛と、それ故の怒りの象徴であったのかもしれない。

「…どんな悪役も、敗北の瞬間に与える時間は、等しく一瞬ね」

 テラは自分の体も溶かしにくる炎を消滅させる。

「………ときわを、探さないと」

 彼女は爆発の後をちらりと見、呂廠が粉々になり、[封御の輪]だけが転がっているのを視界に入れた後、ときわを探すために走り出す。

 それから、やや時間をかけて彼女は目的の場所を見つけたのだった。

「ここ、ね」

 テラは天井の巨大な空洞になっている空間で、何故か機械の支柱に磔にされている〈レクト〉………ときわを見つける。

 空間はガラス張りであり、外から〈ズメウバ〉に乗った神威も見守っている。

「……ときわ」

 彼女は静かに言う。

「みんなを、全部をなくしちゃったけど……でも、あなただけは取り戻せるよ」

 涙が、流れていた。

 テラは、最初はゆっくりと、徐々に走る速度を上げ、ときわの元に迫っていく。

「ときわ…………ときわ、ときわ……!」

 彼女の脳裏に、()たちとの思い出が蘇る。

 今は、失ってしまったもの。

 けれど、彼女との、ときわとの思い出は取り戻せる。彼女とまた一緒に入れるなら。

 新しい思い出もつくってゆける。

 今の自分には、神威やフィラもいるけれど。それでも。

「ときわ………戻って来て」

 大切なあなたを取り戻したいと、手を伸ばしたのだ。

「………」

 テラは磔にされたときわの元に辿り着く。

 ようやく失ったものを取り戻せる嬉しさで、涙の量は増えていく一方だった。

「……今、助けるわ」

 テラはそう言い、大剣をつくりだして、思い切り振りかぶって支柱の根本を折る。

 〈レクト〉の四肢の、縛りつけられている場所も破壊たことで、ときわは機体ごと、どっかと床に座り込む。

 彼女はゆっくりと、ときわに手を伸ばし、バイザーを外してあげる。

「……………ぁ」

 その振動で、彼女は僅かに目を開ける。

「………テラ」

 ときわはどこかぼんやりとした目で彼女を見つめる。

「……ときわ!」

「……テラ」

 二人は見つめ合う。

 いつしか、ときわの瞳は、僅かに潤んでいた。

「……助けに、きてくれた……なのさ」

テラは涙を拭き、頷く。

「ありがとう…」

 ときわは静かに言う。そして装甲に包まれた腕をゆっくりと広げる。

(………もしかして、甘えたいの?いいわよ)

 彼女はまだまだ幼い少女と言っても過言ではない年齢なので、彼女はそう思ったのだった。実は親子に近い関係もあったために。

「……これから先も、いっしょにいようね、ときわ」

 テラはそう言い、彼女をゆっくりと抱きしめる。

「………ああ…、テ、ラ」

 ときわはため息をもらし、そして。


 グチャァッ…


「え?」

 その右腕を、テラの胸に、背後から突き刺していた。

 ときわは、言葉を続ける。

「………あなたと一緒に、いたいわけないなのさ(・・・・・・・・・・)」

 嘲るような視線をテラに向けながらそう言い、胸から鋭い爪が伸びたテラを見せつけるように掲げたのち、機体に思い切り腕を振らせ、彼女を遠くへ振り飛ばした。

「あぁぁぁ!」

 壁に激しく打ち付けられたテラは、胴に穴が開き、再生するまで悶える中、ときわの事を見る。

「…………なん、で……」

『テラ姉ちゃん!』

 神威の叫びと共に、〈ズメウバ〉がガラスを突き破り、空間内に入ってくる。

 機体はテラを守るように、彼女の前に着地する。

「………どうして」

『なんでだ!なんでテラ姉ちゃんを………!』

 発せられるのは非難の声と、何故という疑問を形にした質問だった。

「……」

『どうしてだ!』

 何故と問う声が再び響く。

 ときわはその言葉に僅かに震えたのち、にやりと笑って言う。


「……そこの[星神]なんて、大嫌い(・・・)だからなのさ」


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