第四章[大切なあなたのために]1
地下通路内で逃走中。
全力で追手から逃げる事のみを考えるフィラ。
邪魔者を排除するために能力で追手の破壊せずに軌道をブレさせ、味方を巻き添えにさせて落とすテラ。
何もすることがなくぼうっとしている神威。
そんな三人であったが、ついに。
「見えたわ!」
そしてついに、目的地の[地球の断片]の[星入界塔]への入り口が見えてきた。
だが。
「…これは」
フィラが目の前に広がる光景を見て呟く。
[星入界塔]は半壊しており、無残の元なっていたのだ。
「ここを昇って、行けばときわが………」
テラはそう言い、〈ズメウバ〉内のモニターで、彼女も周囲を見渡す。
「………あのよく分からない爆弾の余波、くらったのかしら。まぁ、そうなりそうだけど」
彼女は、[星入界塔]を見ながら言う。
「……爆弾って?」
「……みんな殺されたときに使われた爆弾よ。急に空から降ってきて、一瞬で何もかもを消し炭にしたわ」
「………思い出したくなかったこと、思い出させた?」
「…まぁ、そうね」
半壊している[星入界塔]には、誰かいる様子はない。
「……でも、そんなことが起きたんだったら、一瞬で情報が出回ると思うんだけど……」
「……」
「そうだったら、もっとはやく、本当の事知れて……テラが痛い思いせずにすんだのに…」
彼女はその疑問に答える。
「……あんまり認めたくないけど、[地球の断片]ってド田舎だから……」
「いなかなんて、しゃかいてきにはきほん、どうでもいいのかもな」
そう言う神威。
「………でも、そんなことを理由にして情報がいきわたらないんじゃ、管理体制とかに問題あるのは違いないんじゃ…」
「……まぁね……最近の[星入界塔]周りの諸々の腐敗は凄いのよね…ホント雑で……」
「……だから、事が起きてから結構立ってるのに何にも解決してないのかも」
[星法平正機関]などの組織が動き、何かしてもいいはずだが、情報が出回るのが遅かったことが原因で、動きはまだらしい。
[地球の断片]におけることは一か月程前の事なのだが、田舎も田舎の場所のこととなると伝わりにくいのかもしれない。社会の勢力圏の端である以上の意味もないので、注目もされていないのだろう。
口を出されたくないので、鎖国で情報封鎖していたことも関係あるのかもしれないが。
「………何かの組織の動きなんて待ってられないわ。ときわがどうなってるのか、分かんないし」
「………それは、そうだね」
その時だった。
[星入界塔]に近づいていく彼女らの正面に、巨大な画面が現れる。
「これは………!」
そこには、呂廠と、〈レクト〉……という名の装備を着せられ、バイザーの奥で虚ろな目をしたときわが映っていた。
『やぁ』
彼は静かに笑う。
「キカカカカ。星神同士の戦闘データは取った。[羅星]弾頭もだ。〈レクト〉の稼働試験も成功っと………」
『計画通リニ進ム現実、ソウ言ウノッテ、イイデスヨネ、ますたぁ』
「ああ、そうだな。このまま〈レクト〉の本気の戦闘データも取るぞ。キカカカカ!」
『ソレデ機体ガ完全二仕上ガッタラ、〈守護神〉ト本気バトル、デスネ』
「ああ。ああ!そうだな。キカカカカ!このままもっと取って、研究に役立てるぞ!」
『数日ぶりだね、テラ。そこにいるんだろ?』
「呂廠………!」
テラは彼を思い切り睨みつける。
『商人から重い白いこと聞いてね。ちょっとしたことを言うために、ね?こうやって話しかけてるんだけど』
「ちょっとしたことって…一体……」
フィラが呟く。
一方、画面の呂廠は静かに笑い、ときわを前に出す。
『彼女。このままじゃ死ぬよ(・・・・・・・・・)?』
さらりと、そう言った。
「………え?」
テラは動揺し、瞳を揺らす。
『彼女、こんなゴツイものを纏わされてるけど、そうしているのって、ものすごく体力を奪うものでね。このままじゃ衰弱しちゃうよ?』
呂廠はときわのバイザーを取る。すると、顔を青くし、呼吸を少し粗くしたときわの素顔が、露わになる。明らかに、大丈夫そうではなかった。
「………そりゃ、ちょっとしたことじゃないだろ!」
神威が思わず叫ぶ。
テラも、フィラも同じ気持ちであった。
『……さぁて。返事はここからじゃ聞こえないけど。急がないと手遅れになるよ?』
「………っ。呂廠っ!どこまでも私の大切な子を…そんな風に!遊んで!」
『それじゃ。戦えるの、楽しみにしてるよ。目の前の円柱の建物にいるから、おいで?』
彼はテラの言葉は無視し、爽やかな雰囲気を出しながら言ったのち、画面から姿を消す。
「……ときわ。……呂廠ぉぉぉぉぉぉ!」
テラは、怒りの声をあげ、一度息を吸い、フィラに声を。
「フィラ!行って!私は、アイツを木っ端みじんにして、ときわを取り戻す!」
「分かった!」
滞空していた機体は、推進器の出力を一気に上げ、[星入界塔]内に侵入。
テラを送り出すため、一直線に美しく、巨大物資輸送用の装置がかつてあった、今は巨大な穴の中を突き進んでいく。
そんな時だった。
「これは……!」
瞬間、雷撃が走る。それは空中を縦横無尽に駆け回り、フィラ達を捉える。
「な、なにが……わぁぁぁぁぁぁ!」
雷撃は機体を包み込むように走り、網のようになったと思えば、それは直ぐに引っ張られる。
彼女らは抵抗できずに、振り回される。
神威が思はず呟く中、雷撃の網に囚われた機体は[星入界塔]の空洞内を落ちていき、あるところで機体は解放される。
「こ、この……どうにか…!」
機体は空中で何回転もしながらも、フィラの必死の姿勢制御でどうにか元の体勢になる。
直後。
『さぁ、フルが相手をしてあげますわ!死に損ないの悪魔め、ですわ!」
「フルール!?」
「……あれは、私がみんなと造った、〈守護神〉!?」
〈ズメウバ〉を見下ろす巨大な[六方一球形]。それは依然、フルールがテラを攻めたてるときに使った巨体の、全貌であった。
「なんで、私達の思い出の品を……あんなことをしたアンタが!」
テラは機体内のコンソールを操作し、外に声が響くようにし、フルールに対して叫ぶ。
「どうして、それを持ってるのよ!」
「………死にぞこないの悪魔め……!今度こそフルが、確実に消してやりますわ!」
一方で、
『フルール!』
フィラが、戦闘機についている発声器を使用し、彼女に語り掛ける。
説得するつもりなのだろうが、
『……っ、フィラ。本当に悲しいですわ。まだ分からないなんて…』
フルールは心底呆れたような声を出す。
『嘘に踊らされて…まだ現実が認められないなんて……アホですわね』
「アホで、おバカで、ざんねんな、ひきにく(・・・・)はおまえだよ」
神威は半眼になり、未だほぼ嘘っぱちの情報を信じているフルールにそう言う。
『神威!失礼ですわ!ひき肉とか、いくらフルがしょっちゅうなってるとはいえ!……ホント、懲りたりとかは、しないんですのね!なら……』
巨体、〈守護神〉がその巨大な腕を掲げると、その手に小さな欠片のようなものが集まっていき、一本の巨大な剣を構築する。
『フィラ、謝っておきますわ。ですが反省はしません、悪を撃つための戦いなんですもの!』
その叫びとともに、フルールは機体に大剣を振り下ろさせる。
超質量の剣は、振り下ろされるだけでも大気を激しく揺らし、[星入界塔]を震わせる。
大気を裂き、突風を従え、うなりを上げ、一撃は〈ズメウバ〉を破壊せんと迫る。
「く……!」
フィラは機体の速度を最大にし、大剣の直線上からギリギリで離脱。距離を取る。
「…………なんで、私を悪にして、悪側について、それを使うのよ!本当は正義のために、ただ守るためだけにつくったのに!」
テラは揺れる〈ズメウバ〉の中、悲痛の声を上げ、目じりに涙をためる。
〈守護神〉とは本来、平和の象徴。戦いに使う意図はなく、浪漫だけで作り上げた、子たちといる幸せを現した物でもあったのだ。
なのに、最初は幸せな時間を壊すために、今は幸せを取り戻す邪魔すらしてくる。
「………どうしてよ」
「……テラ」
フィラはつらそうに顔を歪めるテラを見、少し考えるそぶりを見せる。
『確実にここで仕留めますわ。どれだけ時間を駆けても!』
『時間……!』
そう、呂廠の言葉が本当なら、今この瞬間も、ときわの死は迫っているのだ。
こんなところで、時間を浪費している暇などないのである。
『天誅雷撃!』
〈守護神〉が手を力いっぱい広げると、一瞬の間もなく、その指先から幾つもの雷撃が発され、〈ズメウバ〉を電撃でかみ砕かんと襲い掛かる。
機体はスラスターの出力絶え間なく上げ下げ。一直線に飛んだと思えば急旋回。さらに急停して攻撃が集中しようとするまでの刹那に急加速を使用し、攻撃を避ける。
機体の負荷も、乗っている者の負荷も構っている暇はない。
「……っ……くる、しい、な……」
「神威……」
テラが心配そうな声を上げる。
〈ズメウバ〉には急加速時よって生まれる重力の圧力を大幅軽減する機能もジャケットもあるが、それでも幼い子供の彼には、何度も来る重力の力に耐えるのはつらいようだ。
「これじゃ、外に出てミサイルを撃てないし……どうすれば」
この状況を如何にかできなかと考えるテラであるが、
「……〈守護神〉は完璧なスーパーロボットを目指した物…弱点はない……止められない。それじゃぁ、ここで………」
彼女の頭にある可能性がよぎる。
“失敗“
「やっぱり……無駄に」
「まだだよ!」
一瞬弱気になったテラだが、フィラの叫びで元の調子に戻る。
直後に彼女が、
「……テラ。私はこの戦闘機を使ってここで囮になって、あなたを呂廠の所へ行かせる。だから、言う通りの台詞を、ちょっと今ここで言ってくれる?」
「……いいけど……って囮!?あんたここで壊される気!?神威が苦しい思いをする羽目になるわよ!?」
「……大丈夫。そのための台詞だよ。フルールの事は良く分かってる。残念ながら、友達だから。囮以上の働きをして、あなたが取り戻すために貢献するよ。……っていうか、このままの状態じゃ、神威が押しつぶされちゃうし、あの子も、ね?」
「…………分かったわよ。何を言えばいいの?」
「えっとね―……」
そしてフィラは、三つの文章をテラに言わせ、立てた簡単な作戦を説明した。
「それじゃぁテラ。まずはお願い」
「ええ!」
テラはフルールに声が聞こえるようにしたままで、呂廠の所へテラが辿り着く作戦のため、彼女は口を開く。
「………本当に愚かなひき肉ね!適当にビリビリ、ブンブンしてるだけじゃ、この大悪魔は捕らえられないわよ!お味もきっとひどいんでしょうね!」
『な。………フルが、不味いひき肉?質が低い…しょうもないって奴って事ですの!?』
そう叫び、機体の操作を止めてしまうフルール。
その隙に、テラ達を乗せた〈ズメウバ〉は戦闘機との合体を解除。[星入界塔]の出口に向かって飛翔を開始する。
『………ふ、フルは!美味しく調理できますわ!………ってそうじゃない!っていうか逃げる気ですわね!』
遅まきながら気づいたフルールは、〈ズメウバ〉の方に機体の手を向けさせる。
だが。
『馬鹿なひき肉ね。私はこっちよ!アンタみたいな生ごみのため、私が直々にタイマン勝負してあげるのよ?………光栄に思いなさい!アンタを肉塊に変えてやるわ』
テラの声が、戦闘機の方から響き渡る。
『な。……なんという傲慢、思い上がり!……まだ殺しをしようと言うのですわね…!
いいですわ、そのつけ上がり切った顔をぶん殴って分からせてやりますわ!悪魔め!』
〈守護神〉が戦闘機の方を向く。
その中にいるのは。