第三章[真実の中の真実]5
「上手ク行キソウデス、ますたぁ」
『キカカカカ!そりゃ、よかったなぁ。今度は、さらに有益なデータがとれるかもなぁ?』
「ソウデアルト、イイデスネ」
ノーザリアは、先程捕獲した職員をダストシュートに、無情にも落としていく。
『さて?どんな面白い戦いが、見られるのかねぇ?キカカカカ!』
「はい、まぁ~すたぁ~。怪物モ」
ノーザリアはほっこりと笑う。
全ての裏にいるものたちは、未だ自由。
(神威は……テラのために)
今まで自分の後を付いて来ているだけであった彼は、自分の意思で行動を起こしていた。
自分以外の誰かのため。
ただの幼子の様に見えていた彼がそんな行動に出たのは、意外で、予想外だった。
(……神威は、頑張ってる……)
それなのに、自分は落ち込んでいた。
(……でも、私は……)
罪悪感と自責の念が、心を支配していた。
「………」
ふと、フィラはテラと目が合う。
前のことを思い出し、申しわけなさで眼を逸らしてしまうのだった。
「………はなし?」
そう言うテラは、非常に弱々しかった。
まるで、傷ついた子どものように。
「テラ姉ちゃん……。………っ!」
コンソールパネルの上に座っている神威は、拳を胸の前に握り締め、目の前に立っているテラを見つめる。
「………おしえてくれよ!」
「……」
「……いってくれなかったこと、いってくれよ!」
「………」
テラは、答えない。目を背けるだけだった。
「……どうしてなんだよ……」
神威はやるせない気持ちでいっぱいになる。
「……どうして、ずっとだまってるんだよ……」
「……」
「……っ!なんで………」
テラは目を瞑る。
神威はあらん限りの声を持って叫んだ。
「……かかえこみつづけて、つらいおもいしつづけなきゃいけないんだよ、姉ちゃんは!」
「…………え?」
テラは虚を突かれたような表情になる。
「……どうして、そう、思うの……?どうしてわかるの!?」
「テラ姉ちゃん」
「……」
テラは、いつになく強い神威の眼差しに驚く。
ただついてくるだけで、無邪気な振舞いも多かった、子どもそのものであった彼。
そんな彼による行動に対するテラの衝撃が大きかったことは、想像に難くない。
「……俺はずっと、フィラ姉ちゃんやテラ姉ちゃんにいそんしてた……」
「……」
「ずっと……だ。姉ちゃんたちはすげーやつだなって、おもって。……ずっとなにもにもまけない、つよいのだって、おもってたんだ……」
「……神威?」
彼は息を深く吸う。
「……でも、そうじゃないんだろ?ほんとうは……とってもよわいんだろ?テラ姉ちゃん」
「………」
「……俺は、みたんだ」
彼は静かに語る。
苦しむテラのこと。涙を流すテラの事。
傷つくフィラの事。うまくいかないフィラの事。
決して無敵ではなく、不屈でもない、彼女等の事を。
「……もう、あんな姉ちゃんたちをみるのはいやなんだ。こんなふうにくるしんでるテラ姉ちゃんをみるのもいやなんだ…いや、いや、いや……なんだ、なんだ……!」
今回の行動のもう一つの理由は、それだった。
「……ああ、わかるりゆうだっけか。……ずっといっしょにて、わからないはずないんだよ…」
「……神威」
フィラが驚きと賞賛のこもった視線を彼に向ける中、彼はテラの瞳をじっと見つめる。
「テラ姉ちゃん」
彼は額をさらに強く押しつけ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「……うれしいのが、たのしいのが。くるしいのが、つらいのが。そばにいるんなら、なんだって」
「…………」
「ちかくにいるっていうのは、いっしょにそこにいたっていうのは……心に、ふれてたって、ことなんだよ……」
テラは目を震わせ、それを見ている。
「……そばにいるなら、どんなおもいだって、きもちだって……つたわるし、わかるんだよ…………」
そばにいるとは、一緒にいるとは、思いを知るための橋。知るための、手伝いをするもの。
「なぁ、テラ姉ちゃん」
「……」
「俺、がんばるからさ……テラ姉ちゃんのために」
(私の、ために………)
テラはそこで、ゆっくりと神威の頬に手を置く。
「……だから、いいからいってくれ!はなそう!そうじゃなきゃ、どうしようもないんだ!ぜんぶはきだせよ!」
「………」
テラは、神威を見つめる。
一滴。一滴の雫。涙。彼の涙。彼の瞳からあふれる涙。それらは彼の頬を伝って、テラの手に落ちる。
「………姉ちゃんにやりたいことがあるなら、てつだう…がんばる、がんばるから、たのむよ……!」
彼女はそれに、ゆっくりと触れる。
「テラ姉ちゃん、テラ姉ちゃん……、やだ、やだ……やなんだよ」
神威は涙を必死にこらえようとするも、それはできず、涙は寧ろ、どこまでも溢れ出てきた。
「神、威………」
テラは、涙で濡れたその顔を見たその時。
(…………!)
彼女の脳裏に、ある顏が浮かんだ。
つらそうな表情で、頬を涙で濡らす、その顔を。
ずっと抱きしめて居たかった、ともに過ごし続けたかった、みんなの顔が次々と。
「いや…………」
それに、彼女は恐怖した。嫌がった。怖がった。
そして、そうしてしまう原因足る、今の自分が嫌になった。
子に辛い思いをさせ、無理をさせる自分に。
そんなことがしたいわけじゃ、なかったから。
「………」
だから、明かした。
なんにも、する気は起きなかったけれど。
失ったものを取り戻すなんて、無理なんだと、あの時呂廠に負けって、そう思ってしまったから。
▽―▽
宴会のさなか。
「しっかしなぁ、フェアリオンの妄想癖は、ひでぇな。同時にすげぇが」
「まぁ、そうじゃのう。……お父様と星神テラの戦いを盛り上げるために(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)、自分がテラに(・・・・・・)よって全てを奪われたという妄想を(・・・・・・・・・・・・・・・・)、自身に刷り込んだ(・・・・・・・・)んじゃからのぉ」
「盛り上げは、まぁうまくいったのか……?」
「一応、そうなのかのぉ?」
そんな会話を見たルーネィは、
「キカカカ!お前ら、説明台詞にもはまったのかよ!文化どころか文明もない、好奇心だけある奴ってのは………馬鹿だねぇ」
そう言い、ずっとニヤニヤしていた。