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かなえバシ(旧作)  作者: 結芽月
第三章[真実の中の真実]
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第三章[真実の中の真実]4

空から来る光量が極端に少なり、怪物の活動も多少は沈静化する深夜。

アメジスタたちは[星入界塔]に併設されている[星法平正機関]用の空中艦整備施設に入っている。

艦の修理は、夜という事で今は行われていない。

艦内に残る者たちは、国際都市で発売されたゲームで遊んだり、眠りこけていたりする。

 そのため、艦内は静かであった。

「………よし」

 そんな中で小さいながら、確かに聞こえてくる音がある。

 それは車輪が回る音。長い通路の中を、走っている者の音だ。

「……けど、どこなんだ?」

 ある角を曲がって、それは姿を現す。

 奥行きもなく、厚さもない。

 取っ手は高さがあり、それがついている板は、平らで物を載せられそうだ。

 車輪は、乗せた物を簡単に動かすのに使える。

 ………………つまり、台車である。

 そしてその上に、やや長めの棒を持った神威が座っており、まるでボートでも漕ぐかのように、うまくそれを動かしていた。

「……どこだよ……」

 ある部屋(・・・・)を探している彼は、軟禁されている部屋から抜け出してきたのだった。

 監視役は、結局あのまま、部屋の鍵も描けずに監視も完全に放棄していた。

 なので、彼にとって重く、厚く、大きな扉を、時間を駆けてゆっくりと開けていき、その後ばれないように、匍匐前進により、全力でその場を逃走した。

 ちなみにそんな状況でも、監視役はゲームのボス戦で忙しいらしく、彼にまったく気がつかなかった。

「…………どこだ」

 その後、たまたま通りかかった、放置されているらしい倉庫にあった、壁に立てかけてあった台車と長い棒を拝借し、今に至る。

(………俺は、はなしを。テラ姉ちゃん(・・・・・・)と、はなさないと)

 彼には、違和感があった。

 感じていたことがあったから。テラや呂廠の、発言に、思うところがあった。

 それを指摘せず、何もせず、ただ見ていただけだったから、テラはああなってしまったし、フィラも落ち込んでしまった。

 そして彼は、長い思案の後に思ったのだ。今までのままではいけないと。

だから、今明かされていない真実を知り、彼自身にできることをすると決めたのだ。

この行動の理由は、それだけではなかったが。

(俺にできるのは………)

 それは何か、明確には分からない。

 だから、フィラの信念、言葉に倣い、手伝い(・・・)をしようと思うのだ。それが大好きなテラのためにもなると思って。

 きっと手伝えることがあると、確証は全くなくとも、そう信じて。

「…なんか、ばしょがわかる………ちずとか……いや、かんしべやとか…」

 怪物の襲撃などによる戦闘時であっても、落ち着いて収容者を監視できるような、監視部屋があるはず。

 そう考える彼は、ひとまずの目的をそれに定め、それらしい場所を探し始めた。


「これ………」

 フィラは、相変わらずぼんやりと閲覧している中、ある情報を見つける。

 かつて、フルールたちと[咆器の断片(マゲナ・フラグメント)]を取っていた時に目にした、[星の断片]の消失のニュース。それに情報の更新があり、消えたのは、ある[星の断片]と記述されていた。

「これは………」

 それは、今の状況を形作る前提を覆しうるもの。

 だが、これだけでは足りなかった。

「………でも、私は」

 テラを傷つけ、手伝いも放棄してしまったことによって落ち込む今、それだけでは、彼女を奮起させるには足りなかった。

 彼女だけの今の状態では、まだ。


「全く再生する気配がないですね」

「zzz………」

「………なんで、私だけ真面目にやってるんですかね…。バカらしくなってきます…」

 長い廊下を進み、ある角で曲がった先に繋がる、長い廊下の端に位置する真っ白な部屋。

アメジスタはその中で、涙目でコンソールパネルを操作している。

他の者達は勝手に睡眠に入ってしまい、殴っても殴っても起きてはくれなかった([燐]の腕は、元々獲物を殴殺するためにできたものらしいので、それに適している)。

「……私、あまりこういう細かい作業は得意じゃないんですけどね……」

 彼女の目の前には、透明な円柱の中に入れられた、テラの手があった。

 〈レクト〉の攻撃で消えなかったこれは、彼女等によって回収されていたのだ。

「[封御の輪]はセット完了……後は…ふわぁ」

 アメジスタは大あくびをする。

「……さ、さすがに疲れましたか。ま、まぁ……部下のやるべき仕事、全部したらそうなりますよね………無理と言う名の過剰は悪ですね」

 アメジスタは眠そうに眼をこすり、さらに少し操作をしたのち、部屋の照明を消す。

「寝ますか………」

 そう言いながら彼女は部屋の自動ドア通って出ていこうとするが、ほとんど体が出たところで倒れてしまい、片足がドアに引っ掛かる。

 普通なら痛みで声を上げるところであるところだが、

「くぅ……くぅ」

 彼女は疲れで深い睡眠に入ってしまっているようで、全く感じない様子だった。

 そして、ドアは中途半端に開いたままである。

「…………もしかして、ここか?」

 そんな様子を、物陰から見ていた彼がそう判断したのは、彼らが回収されたとき、彼女が最高責任者を名乗っていたからだ。

 そんな彼女が出てくるぐらいなら、何か重要な何か(監視部屋)であろうと考えたのだ。

別に監視部屋とも限らないはずだが。

「…行くか」

 彼はゆっくりと棒で床を突き、台車を進ませていく。

そうしてアメジスタの前まで来た彼ではあるが、かなり小さな彼からしたら、それなりの巨体になる彼女は、部屋の中に入るには、

「…じゃま、だな…」

 かといって、彼の腕力では彼女を一気にどかすのは無理だし、踏み越えるのも、彼の足ではややつらい。その上を這って行くのは、アメジスタを起こす可能性があるので良い選択肢とは言えない。

「………ん~」

悩みながら、棒でツンツンと彼女をつついてみる彼。

 ……結局、案が浮かばずに彼が頭を抱えたその瞬間。

 カツン……

「……!」

 神威は驚いて顔を挙げる。

 彼がいる廊下の真ん中あたりの、彼が覗いていた場所とはまた別の曲がり角から、足音が聞こえてくる。

「……ま、みつかる……どっかかくれんぼ……かくれんぼできる、とこ…」

 彼は焦って周囲を見回すも、そこは長大な廊下のど真ん中。

 近くに資材搬入用のエレベーターがあるが、彼には動かし方が分からない。

 目の前の部屋に入ろうにも、彼には自動は反応してくれないようでそれ以上開かないので、どうしようもない。

 周囲には特に隠れられる場所はなく、そして彼の移動速度ではあってもたどり着けはしない状況にあった。

「……あ~。やってらんねぇ。反乱でも起こすか~」

 そんな気の抜けた声が聞こえてきて、その感じが彼の緊張感を際立たせ、不安を煽り、パニックを引き起こす。

「えと、えと、えと……えと……!」

 彼は結局その場から動けず、首をグルグル回すだけ中、ついに。

「……ふわぁ……ん?」

 ご丁寧にわざわざ神威の方を向いた、頭に一本角の、アメジスタの部下の男と神威は、バッチリ目を合わせる。

 近くではエレベーターのドアが開いている。

「……不味い、脱走か……!流石に減給される……!」

「……はんのうおそっ!?って、やば……くるな!」

「うるさい!金のため、金がある限り、とまんねぇぞ!」

「なんだよそれ…!?」

 そして男は全力疾走で神威に迫ろうとし、

 彼が怖がって棒を前に突き出して目を瞑った瞬間、

「コレガ所謂、[燐]弾トイウモノ」

「へ………?」

 それは、額にも堅い宝石のようなものが付いた[燐]を、高速で前に投げ飛ばすことで砲弾とした物。

「…なんて弾だ!?」

 熟睡中アメジスタ弾。

それは、男の鳩尾にクリーンヒットし、そのまま諸共に吹っ飛んでいき、廊下の最奥のダストシュートに突っ込んで落ちていった。

「………」

 神威は投手を見上げる。

「ドウモ」

 そこにいるのは、フィラを抱えたノーザリアであった。

「………?」

 神威は頭に疑問符を浮かべる。

「エレベーターニヨリ、昇ッテ来タ」

「は、はぁ………?」

 混乱したままの彼をおいて、彼女はアメジスタの足代わりにいつの間にか挟んでいた台車を放り投げ、扉を力技で開ける。

「…入ッテ」

「……な、なんのつもりだ?っていうかフィラ姉ちゃんをはなせよ!」

「アッソウ」

 そんな簡素な反応したかと思ったら、ノーザリアは神威を部屋の中に蹴り飛ばし、直後にフィラも投げ入れる。

「!?」

 まずフィラが部屋の中心にある円柱形の装置の前に落ち、その上に神威がポテッと落ちる。

 彼が目をパチクリさせている間に、

「ソレジャ、サヨナラ」

「……え、いや、ちょっとま……」

 無言で見つめられる神威。

「……」

「……今度コソ、サヨナラ…デ、イイネ?イイ、ネ?」

「……あ、はい……」

尋常じゃない「め・ぢ・か・ら」に白旗をあげる神威。

いつの間にか回収した部屋の中の職員を両腕に抱えたノーザリアは、手を振る代わりに背中の作り物の羽を振らせて外に出て、その直後にドアは閉まった。

「…。……ん?なんでいんの?」

 呂廠がビデオ通話をテラにした時、彼女もいっしょに出てきていたことから、近くにいた可能性はある。こっそり乗り込んだのかもしれない。

 だが何故、助けたのだろうか。

「………なにしたいんだ、あいつ……」

 首をひねる神威であったが、兎にも角にも部屋に入れたこと、そしてフィラを下敷きにしていることに気付く。

「……フィラ姉ちゃん!」

「……神威」

 地面でぺしゃんこになっているフィラは、ちらりと彼に視線を送る。

「……大丈夫?蹴り飛ばされたけど」

「……ああ、うん。フィラ姉ちゃんは…」

「私は、いいよ……」

 それっきり、彼女は喋らなくなった。

「………」

 神威は近くに一緒に落ちた棒を拾い、匍匐前進で、円柱の装置の光でうっすらと見えるコンソールの方に近寄り、頑張ってその上に上る。

「………。これか?」

 彼がコンソールパネルの端のスイッチを押すと、うっすらと照明が付く。

 と同時に、部屋の中心の装置の光量が減り、中にあるものが見えてくる。

「………あ!」

 それは、[封御の輪]に覆われた、あの時残った、テラの片手であった。

「…テラ……?」

 それが視界に入ったらしいフィラは驚いて目を見開き、起き上がる。

「これは………」

 フィラはテラの手が浮かぶカプセルに手を伸ばそうとする。

 だが、急に手を引っ込めてしまう。

「………」

 一方で神威はさら操作を行うも、それ以上は何もできなかったようで、ため息をつく。

 そして、腕を組んで少し考えてから、彼は口を開く。

「………フィラ姉ちゃん」

「………どうしたの?」

「俺をかたぐるましてくれ」

「………?いいけど……」

 ぼんやりとした様子のフィラは彼の所に近寄り、彼を肩車する。

「テラ姉ちゃんのところに、行ってくれ」

「………」

 フィラは一瞬躊躇った後、装置の前に立つが、視線を落とす。

 神威は、フィラが機械であるが故にしっかりと固定してもらっているおかげで、バランスを崩さずに棒を構えられた。

「……たしかどっかで、フィラ姉ちゃんはいってた。こまったときの…」

 彼は棒を全力で、額に脂汗を浮かべながら、どうにかバットのように振る。

「……フィジカルぅ……アタァーック!」

  直後、棒が当たったカプセルは割れ、少量の破片が飛び散り、神威の頬を傷つける。

「……う。……いたい、いたい…けど!」

 傷から溢れ出す血。その痛みを感じながらも、彼はテラの手に、手を伸ばす。

「神威……?大丈夫?」

 彼の苦痛の声に、彼の行動が良く分からないフィラは、そう言う。

「…だいじょうぶじゃない!けど!」

 彼は身を乗り出してようやく、中に入っていた液体と共に流れだしそうになったテラの手を、その小さな両手の中に収める。

 [封御の輪]を外し、ひとまずフィラの髪の中に入れておく。

「……神威。何、してるの?どうして…そんな」

 彼女は神威の積極的な行動に驚きもある様子で、そう問い掛ける。

「………ホントのこと、しるんだよ」

「……本当の、こと……?」

 フィラは不思議そうな顔をして瞬きをする。

「……そうだよ」

 神威はそう呟き、両手の中のテラの手を、力強く抱きしめる。

 その手が、僅かに震える。

「……なぁ、テラ姉ちゃん。ずっと、なんにもはなしてくれなかったけど」

 彼は、静かに言葉を紡ぐ。

「……あんなやつらが、いってたことは、ウソだろ?」

「……え?」

 突如奇妙なことを言いだす彼に驚くフィラ。

「……ホントのこと、いってくれよ……俺なりに、できること、するからさ………」

 彼は、同じように小さなテラの手を、さらに力強く抱きしめる。

「………なぁ!」

 ()への思いがこもった、()の叫びが響く。

「神威……」

 フィラは、何か思ったようだった。

「……はなしを、しよう。な……?テラ姉ちゃん……」

 その時。

「……………ぁ」

 彼が抱きしめる手が動き、千切れているところから次々と肉体が構築されていき、最終的に小さな少女の形を取る。

 青い妖精を思わせる和装束がその身を包み、彼女は装置の上に足を尽き、自身の()と、繋がれた手を見る。

「……私の……」

 その頬から、涙が流れた。


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