第三章[真実の中の真実]3
「まさか、あの時手伝ってくれたあなたが犯罪者になるなんて………。本当に残念です」
アメジスタはそう漏らし、無言のフィラが収容された、艦内の檻の監視カメラを見る。
「……あんの、もう寝ていいですかね?」
「ダメですよ。やることやってください」
彼女はちらりと視線を、背後の部下に向ける。
「……面倒くせぇ。賞金首はいなかったし、怪物やら何やらのせいで艦はボロボロ。おまけに犯罪者を収容する羽目になるし」
「あ、あなたね………」
「仕事だけ増えてだるいですわ~。……給料百倍ぐらいになんねぇかな」
「……真面目にやってください!」
「はいはい」
口笛を吹きながらどこかに歩いていく部下。他もそんな感じの者が多い。
永遠と危険にすぎる地上にいさせられるのが彼らにストレスをため込ませ、艦の補修やフィラ達の収容など、しなければいけないことが急に増えたのが、その不満を爆発させたのだろう。
「はぁ………」
アメジスタは深くため息をつく。
「……それにしても、悪い[星神]なんていなかったですね。胡散臭いのはいましたけど」
呂廠がテラを消滅させてから半日。
無断で地上を移動し、別の[星の断片]に侵入したとしてフィラ達は捕まっていた。
彼女等がいたのは[地球の断片]ではなく、間違いなく国際社会の勢力圏外の、徒歩で行くしかないあ地域だった故に、罪は逃れられなかったのだ。
フィラは何も話さず、抵抗もせず、武装解除されて牢に入れるままだった。
神威は、もともと彼女にくっついてきているだけであったことや、足が悪いこと、幼子であることを理由に、牢ではない別の部屋で、アメジスタの部下の監視の元、軟禁されている。
「………あの[煌]も捕まえられたら……はぁ」
フルールはあの後、積極的にテラの打倒を手伝ったことで、呂廠に逃げの手助けをしてもらい、ともにどこかへ逃げてしまっている。
「……とりあえず、考えても仕方ありません。部下を叱咤激励、頑張っていきましょう!」
アメジスタは自分にカツを入れるようにガッツポーズをとってそう言った。
「あれ(・・)も、どうにかしなければいけませんし」
▽―▽
「……」
フィラはなんとなく、[星進志機関]のデータベースにアクセスしていた。
それが出来たのは、暇つぶしの閲覧ぐらいはと、アメジスタに許可されたからだ。
真面目な彼女がそうした理由は、以前窮地を救い、手伝ったお礼だろう。
ただ、それ以上のことはできないように通信に制限がかけられており、助けなど呼べなかった。もっとも、呼んでもあの[竜]の男などは応えないだろうが。
「……て、ら………」
彼女が見ているのは、かつての移動中に閲覧した、組織のデータベースでは閲覧制限されていた、[星神]に関する事である。
制限されていた理由は、『星神様を手伝ったこともないのに、星神様の事を知るなど無礼にもほどがある』とのことだ。そのため、一度も手伝っていないと、詳しい情報を見せてはくれなかった。
依頼が呂廠のものとするなら、テラの打倒の手伝いは達成しており、捕まったにしろ、それは伝わった可能性が高いため、制限を解除してもらえたかもしれない。
あの[竜]の男は、星神に関わることを疎かにすることを嫌うからだ。
「………私は……」
(テラ…のことを知ってたら……とか)
フィラは、テラのことをもっと知っていたら、何か変わったかもしれないと、意味などないと思いながら、ぼんやりと調べている。
地球の[星神]についてのことを。
だが、何か知ったところで、今の彼女には何かする気はなかった。
手伝う気など起きはしないぐらい、心は深く沈んだままになると言う結果に、彼女はなってしまった。
………彼は、考えている。
「キカカカカ!よかったな、勝てて」
「ああ、うん。……いい加減その笑い方止めてくれないかな」
遠くに巨大な塔型の建造物がうっすらと見える、あの会議室のある円形の建造物内。
呂廠たちは商人、ルーネィと会い、パーティを開いていた。
円卓の上には様々な料理が並んでいる。
ノーザリアが調理したものであり、フェアリオン達に送られたものであった。
「私は嬉しいです、お父様!お父様は私に一番愛を注ぐって、私が死ぬまでずっとぴったりしててくれるなんて言ってくれたし!」
「え。いやその………そんなこと一切言ってないんだけど」
フェアリオンの妄想癖にドン引きの呂廠である。
「………本当にとんでもない妄想癖じゃの」
「………だな。今回もそれで…………」
「そうじゃの」
呂廠は料理を口一杯に頬張りながら抱き着いて来ようとするフェアリオンをどうにか抑えながら、
「……君たちもありがとう。見えないところで頑張ってくれて」
「いやいや……。いや何もしてなくね、俺たち」
「……か、かもしれんのぉ。出番が全くない故、してても全く伝わらんし」
「キカカカカ!メタを気取った発言とはな!」
ルーネィが笑い、つられてほかの者たちも笑う。
「……もっと楽しんで?僕のために頑張ってくれてるんだからね。国際言語覚えたりとか」
『わっかりました!』
そうして彼らは、目標の達成を祝い、祝杯を交わした。
楽しくて、楽しくて、仕方がなかった。
彼らはそんな、幸せそうな結末を迎えた。
彼は、考えている。
「……そういえば。皆さん」
「はい……?」
「め、面倒くさそうな声、出さないでください……なんだかこっちのやる気もなくなりますから……」
アメジスタはブリッジで好きなようにしている部下たちを見回し、ため息をついてから言う。
「艦もこれだけ損傷していますし。……そういえば。任務期間未消化で通り過ぎた[星入界塔]がありましたよね。この際、そこで補給を受けましょう。スケジュールに反しますが、理由としては十分でしょうし。………ようは休みですよ」
彼女がそう言うと、部下たちはいっせいに彼女の方を見て、
『………ないない』
「へ?」
『あの真面目な上官が、スケジュールを捻じ曲げる?そんなバカな。そんなのはこの世界がもう一個出来上がるぐらいあり得ない。よって……ただのつまらない冗談だな!』
「失礼ですね!部下の健康管理だって私の仕事なんですから、ストレス発散の機会ぐらいあげますよ!休みだって上げたいですよ!無理とは悪、過剰なことこそ悪なんですから!」
『嘘つけ!』
「ひどいですね!経費で小遣いをあげるから好きにしてって言おうと…」
その直後、部下たちが全員、綺麗に一列になり、アメジスタの眼前に跪く。
「……はい?」
そして、全員が同時に聞き手を彼女の方に伸ばした。
『小遣い下さい』
「……………、……、…!…………この守銭奴たちは………」
『いいから金を』
「後でちゃんと上げますから、着くまでは真面目に仕事を……」
『金』
「……………」
ゴミを見るような目つきで、部下たちを見つめざるを得ないアメジスタ。
「……もう、イヤです………」
宝石のような物体でできた、ゴツゴツとした手で頭を抱え、彼女はそう呟いた。
彼は、考えている。
「おい、ガキンチョ。時期に補給兼休みに、この艦は入るわけだが。そうしたらお前もあの孫も、然るべき所に連れてかれて、あっちの方は裁判だ。覚悟しとけよ」
〈ズメウバ〉を没収され、軟禁されている神威の部屋の扉の横で、監視役はゲームに勤しみながら、一気に言っておくべきことを告げ、直ぐにゲームに集中し始めた。
「………結局、誰も真面目にやってくれませんけど……。まぁ休みができたのは事実ですし」
アメジスタはブリッジの画面に映る、巨体構造物を見ていた。
「……怪物の襲撃も何度会ったことか…。ですが、たどりつきましたよ」
映っているのは立ち寄る予定の、[星入界塔]である。
「これで落ち着けますね。私もたまには遊んだほうがいいでしょうか…そうですね。過剰労働につく、過剰という概念こそ悪!何事も適度に、ですね」
彼女たちは久々の休日と言う楽しい結末に辿り着く。
悪の[星神]、テラは討ち果たされ、それを知らなかったとしても、その勝手を手伝った愚かな子と孫は然るべき報いを受ける。
大切な仲間を殺された親と子はかたき討ちを果たして報われ、亡国の姫は自身の体験を活かし、その手伝いが出来た。
商人たちは悪の[星神]による強制的な仕事から解放され、自由に動ける。
正義の者達は、ハードワークから解放される。
全てが良い形に収束し、大団円として、今回の物語は幕を閉じる。
これで、終わり。
文句のつけようはない。
物語は、結末に至った。
これで、いいのだ。
「いいわけないだろ。……こんなおわりで、いいわけが」
…………そのはずだったのだが。
「……ウソばっかりだ。……俺は、ホントのこと、しらなきゃいけない」
嘘とは、何のことなのか。
真実は開示され、全てが終わったのではないのか。
「……そもそも、おわっちゃいねぇ…まだだ」
その大団円は間違いだと、彼は言う。
「……もう、姉ちゃんたちに、ついていくだけじゃ、いけないよな……」
悪であるはずの者たちを見続けてきた、決心した彼はそう呟く。
「俺が、やる。しる、はげます、姉ちゃんを」
彼は目の前の世界をしっかりと見つめなおす。
「………もし、テラ姉ちゃん(・・・・・・)がそうなら。ぜったい、てつだう……そう、はしをかけるんだ」
小さなその手は、決意を示すかのように、力強く握りこまれた。