第一章[不思議な手伝い]1
そこは、いつかの崩壊により、星が集まった星。
過去にあった全ての惑星の一部分だけが、[星の断片]として連なる巨星。
星たちの外側の宇宙は閉ざされ、天には恒星の集合体が作った[炎の殻]が存在する世界。
そんな、はるか未来か、はたまたどこかの異次元の、摩訶不思議な世界にいるのは、数多の知性ある種族と、特異な者たち、[星神]たちだった。
▽―▽
とある夕刻。
星の空は、一面の朱色。
この星には地球で言うところの太陽のような恒星がなく、代わり空の[炎の殻]が時間によって見せる、一律の光量の違いから時間が設定されているために、時差というものはない。
ただ、今の舞台は地上ではなく、地下。空が見えない地下空間、その中の四方向が灰色の壁で囲まれた無骨な通路である。
明かりはあるが、やはり暗い場所を、一機の飛行物体が駆け抜けていく。
機体色は薄紫。形は三角錐を倒し、後ろに球体と直方体を四隅につけ、全体的に流線型の形に変えたようなもの。
時折すれ違う別の機体と接触しかけ、それを回避しようと墜落しそうになりながらそれは進んでいく。
その球体部分、スモークで見えない空間の中に、フィラはいる。
彼女はそこで、少し前の事を思い出していた。
「………え?除名?何も落ち度はないはずですけど………?」
「お前は、あちこちの連中の手助けをしているだけじゃぁ、ないか。それだけだ。星神様たちのことを、手伝ったわけじゃぁ、ないだろう」
真っ白な部屋の中で、様々なグラフや文章が表示される中、一つのグラフがピックアップされる。
『[地球の断片]の孫・フィラ。親・星神はテラ。[星神]様の手伝い経験なし』
「元々、我々 [星進志機関]は、………[星神]様たちを手助けすることが仕事だ。義務だ。最高の喜びだ」
「……は、はぁ」
彼女が所属する、星の活動を進めるという志を持った機関、略して[星進志機関]は、誰かの手伝いを行う組織である。
所属する者たちは手伝いの依頼を受け、各々のやり方でそれを手伝い、組織は依頼の報酬などの整理や所属する者達の使う装備の整備を担い、依頼遂行については口を出さない。
彼女の目の前にいる者は、それなのに口を出している。
赤みがかった肌の彼は、依頼を直接伝え、受けるか否かを聞く役割を持った、 [竜]と言う、尻尾を持った種族の男である。
「確かによく頑張ってはいる。多くの、主に[六方一球形]の知性種族の手助けをしてきた。その数はトップクラスだろうな。前回のテロリスト集団と相対したものたちの手助けも良かった」
ちなみに、[六方一球形]の知性種族とは、地球の視点から見れば、いわゆる人型の知性ある種族と言う事になる。
また、[六方一球形]と言う言葉は、地球で言うところの人型と完全に同義である。
「だがな」
男は机をダンッと叩き、
「それはあくまでついでだ!本当に重要なことが出来ていない!」
「……」
「[星神]様たちを手伝えないのであれば、意味はない!」
男性は立ち上がり、部屋の真ん中あたりの透明な壁に近寄って外を見る。そこから見えるのは文明の光で、そこが巨大な都市であることが見て取れる。
「このような都市も、子が運営しているとはいえ、親の[星神]様たちが協定を結び、平和を実現させてくれたおかげだ」
「……確かに、全ての[無名の断片]が中立地帯になっているのも、共通通路として地下の[咆器の断片]が開放されているのも、[星神]のおかげですね」
[星神]は道具と定義可能な、かつて星にあったものを作れる能力と、かつての星の情報全てを持ち、驚異的な力を振るう。
かつてこの異常な星の成立時の混乱から生じ、数百年にわたって続いた大戦を最終的に沈めたのがゆえに、神がかった星の化身という意味で、彼らは[星神]と呼ばれていた。
「………様をつけろ、様を。…………とにかくだ。困る[星神]様を手伝う機関、だ!ならば!」
彼は勢いよく腕を振りかぶり、フィラを指さす。
「それができない子や孫には、ここにいる資格はない!……だから、除名だ」
子や孫とは、星神との関係を現したもので、知性ある種族を育んだ星の化身といえる[星神]を親とし、知性ある種族を子とし、彼らに生み出された意志持つ機械を孫としている。
「確かに大戦終了時の設立はその目的で、ですけど。…でもそれって、もう昔の事ですよね?」
「………」
[星進志機関]とは大戦からの復興の際、手の足りなさに困る[星神]を手伝い、それを最高の幸福とする、宗教組織のような側面もかつてはあったが、今はそうでもない。
時間の経過、復興の完了や、[星神]が子と一緒に呑気な暮らしをするようになるなど、だいぶ落ちぶれてしまったことで、そう見ることが出来なくなったのが主な理由だ。
そのため、ついでの業務であった、手が足りない所に必要な能力を持った者を手伝いのため、送り込むことを主にした組織に変わっていたのだ。
「何で急に……。別にそうしなきゃいけないわけじゃないですよね……?」
「はっはっは。知らんな。星神様の役に立てないお前は我らと同じではない。同志ではない。孫、だしな。だから去れと、それだけだ。その証拠もあるぞ?」
そう言って、除名に関する事が書いた紙資料を見せつけてくる男性。
孫とは純粋な道具としての起源を持つ者がほとんどだ。そのため、子より下に見られたりすることがあるが、多様性を受け入れざるを得ない間の社会では、稀になっている。
[星]神の手伝いをしたことがない事だけで、このような事をされてしまうのは、相手がそういうことをする類の子だからだ。
「………だが、厄介なことに、上のやつらがお前の努力に免じて、一回チャンスをくれるそうだぞ?」
不満が声に出ている男は画面を切り替え、あるメッセージを表示する。
「………『……我、救援を求む。救援者は[人]を要請する』って」
フィラは顔を挙げて男性に問う。
「これは…………。依頼主は誰ですか?」
「知らん」
首を振る彼。不機嫌さが現れた声だった。
『え』
「匿名で頼むと言っていた。ただし、[星神]様らしい」
「………。ところで[人]って………」
「………ああ。お前の親の、子の親、地球の[星神]となるだろうな」
「……匿名の意味…。まぁとにかく、一体どうしたのかな……まったく分かんないけど………」
今の時代、何もなかった惑星の断片である[無名の断片]が、多くの種族が交流して国際都市のように栄えている。一方で、それ以外の、子がいて自然もある、国のような形となった各[星の断片]のいくつかは、鎖国状態のようになっているところが、一部あった。
[地球の断片]もその一つで、最低限度の交易以外、外との交流がない。そしてその内情は知られていない。
そのため、地球の[星神]が何をどうしているのは知れない。そしてここで、その親が、助けを求めているかもしれないという。
「せいぜい頑張るんだなぁ?[星神]様のために、何もできない無能。所詮、報酬の金目当てめ。はやく消えてくれよナァ?」
男は小馬鹿にしたように笑う。
フィラはその言葉に眉をひそめ、
「………………訂正させてください」
「何?」
男はフィラの真剣みのこもった声に眉を顰める。
「私は、お金を得るためにやってるんじゃありません。行きますけど……除名はいやですけど、除名を免れるために行くんじゃないんです。私は……」
フィラは一呼吸を置き、はっきりと言う。
「私はただ、手伝いたい!それを信念として動いているんです!あなたたちが星神の手伝いを誇らしく思っているように」
男はそう言った彼女の隊が気に食わなかったのか、顔を歪めて彼女を蹴りだした。
そんなことがあって、彼女は今、とある[星の断片]に向かって進んでいるのだった。
▽―▽
「?いなくなった?いなくなった…………何で何で何で?どうして………いなくなっちゃうの……もういないの?」
錯乱した様子で叫ぶ、少女のような誰かがいた。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
激情を押さえることなど一切せず、彼女は叫ぶ。
彼女は叫ぶ。地獄の淵で。数多の名前を呼び続け、届きもしない手を虚空へと伸ばす。
けれど彼らはもういない。大切な彼らは、彼女等は、笑い合った子供たち(・・・・)は、もういない。
「………っ」
一滴。水滴が、落ちる。何度も、何度も、落ちる。その手はゆっくりと地に降ろされ、彼女は、蹲って動かなかった。