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かなえバシ(旧作)  作者: 結芽月
第二章[穴埋めの日常」
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第二章[穴埋めの日常]12

 フルールはこう語っている。

 地球の[星神]テラは、高い科学技術を以てして[封御の輪]を破壊し、国際社会の勢力圏外で、文明が未発達の[妖嘩芭の断片(ミュギラ・テ・ガエフラグメント)](名づけは別の者)を襲撃した。

 その攻撃対象となったのは、[星の断片]のごく一部であったが、そこには数多の生き物がおり、そして()、[壬]たちがおり、彼らは殺し尽くされた。

 何故、テラはそんな事をしたのか。

 かつての大戦において[地球の断片]は戦いに参加しており、テラはそのトップであった。

彼女は、自身の()が行い続けた戦いという者があまりに楽しく、終戦を迎えるまで戦いを続けたらしい。前半はともかく、後半は調べたら分かる、疑いようのない事実だ。

 彼女は、余りにも戦火を広げ過ぎた。その結果起きた諸々の事と、性格の悪さで、彼女は[地球の断片]においてはひどく嫌われていたらしい。

 そのせいで彼女は孤立し、とても退屈な日々を送っていたが、自身の快楽を優先する傲慢な彼女は、それに不満を持ち続けた。

 あるとき、唯一懇意だった()に見放された彼女は、ついに退屈が限界に達し、 [地球の断片]を飛び出す。

そして、自然豊かな[妖嘩芭の断片(ミュギラ・テ・ガエフラグメント)]を見つけ、そこで自分を拒絶しない()との理想の日常を過ごすため、[壬]たちに攻撃を仕掛け、破壊を繰り返したのだ。

 更地になったその場所を、彼女は利用し、能力で都市をつくり、自分のことを知らないであろう()を呼びつけた、ということになっている。

 [星進志機関]にはフルールのような変わった経験や背景を持つ者が多いので、そこを当たれば望み通りの()を手元に置けると思ったとのことだ。

 また、都市が出来上がったあとも、自分がいた場所を取り戻そうとするフェアリオン達

を、邪魔者として排除し続けた。

 日常を再現するための飾りで、邪魔者を排除する用途もある住民を模した機械を使って。

 あれらがテラに見向きもしなかったのは、そう言う理由なのかもしれない。

「だから、あれは悪魔。滅ぼすべき巨大な悪、なのですわ」

テラに物資輸入を、地球出身である繋がりから強制された商人、ルーネィに手下であるノーザリアから聞いたらしいフルールはそう、断言した。



「………違うよね。虐殺も、侵略も……して、ないよね……?」

 フィラはまた、恐れていた。フルールのいうことが本当であることにより、テラに対する印象が変わることが。

 だから、問いかけているのもあった。

「…………」

 テラは答えを返さない。

「……何か言ってよ」

 フィラは叫ぶ。テラは答えない。

「テラ………」

「本当に、馬鹿なことを………」

 テラは瞬時にバズーカ砲を作り出し、フィラたちの方に打ち込む。

 弾は〈ミタッタ〉に命中し、機体は爆発炎上する。フィラ達は爆風で吹きとばされ、床を転がる。

「あははははは!あはははははははははは!あっはっはっはっはっはっはっはっは!!」

 彼女は笑う。狂ったようにひたすらに。

「………そして、ね!確かに私はここを占拠してるわねぇ!?だから、何よ?何が悪い?奪って何が悪いっていうの?ねぇ!」

 笑う、嗤う。

 同時に、周囲一帯の停止した町が、銀色の光に包まれる。

「これは………」

 フィラとフルールは辺りを見回す。

 彼女等のいる建物を残し、全てが次々と消えていく。

「ぜーんぶ、ぜーんぶ、に・せ・も・の!確かにここは、私の侵略地よ!」

 銀色の光の中、彼女は笑う。

「……けど虐殺ねぇ……?何しょうもない事を言っているのかしら?そんなくだらない事」

「な………」

 フィラは息を呑む。多くのものを殺すことを、彼女はくだらない事と言った。

「………本当に、くだらないわねぇ」

 狂ったように踊りながらテラは言う。ある種の侮蔑にも似た視線を、フィラに向ける。

「あははは、あはははは」

 また彼女は、笑う。

 その時。

『ではテラ。そんなに笑っていられるぐらい余裕があるなら、戦ってもいいかな?』

 突如、テラの背後の空中に四角い画面が出現し、そこに男の顔が映し出された。

「………!呂廠っ!」

 彼女は勢いよく振り返り、画面に映る男を睨みつける。

『君が好きにやるのもここまでだ。いい加減、勝手な占拠も、殺すのも、止めるんだよ』

 フィラ達がどうにか起き上がる中、画面の男、呂廠は落ち着いた様子で言う。

「な……。……何を、何を言ってるのよ……!そんなバカな、くだらないことを……!」

 テラは顔を赤くし、声を荒げる。

『そうかい?殺すことは、気にするようなことではないって?バカなことを言うなよ』

 画面の向こうの呂廠は、鼻を鳴らす。

「………それは……こっちの台詞よ!」

 テラは八つ当たりするかのように銃を乱射し、空中に浮かぶ画面に穴をあける。

 だが、投影機の類で出しているようで、画面は決して消えない。

『……とにかく。自由な時間は終わりだ。ルーネィ製の物資だって、もう入らないしね?』

「……なんですって?」

『ソウ。アナタニ脅サレ、無理ヤリ物資搬送ヲサセラレテイタますたぁは、服従ナドヤメタ。コレカラハ、アナタヲ倒スコトニ、精ヲ出スソウ』

「………何を、言ってるのかしら」

 心底困惑した様子のテラ。

「……どうにしろ、あなたはもう終わりと言う事ですわ。都市はフルが破壊しましたし、ウソの日常を過ごすうえで欠かせない物品の仕入れも終了。フィラも真実を知りましたわ」

 フルールはテラを指差して言う。

「神威の保護者であるフィラも真実を知り、認めざるを得ない以上、これ以上続けるのは不可能。あなたの身勝手な野望は、ここに潰えたのですわ」

 フルールはいつになく饒舌に話す。

 説明的なのは、フィラに細部まで全てを分からせるためか。

「さぁ、報いを受けにでも行くといいですわ。ろしょう?とやらと戦い、滅びなさい」

「………そう、だ!いたい、いたい、いたいって思い、ながら……お父様に……!」

 息を粗くしているフェアリオンが、フルールに同調して言う。

「………この……この、このこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのぉぉぉぉ!」

 そんな彼女等の態度に、テラは怒り狂い、床を力強く踏みつけ、ひび割れさせる。放たれた銃弾が壁を抉り、天井を破壊して大穴を開ける。

彼女の叫びが響き渡る。

「…どうしてよ。どうして……私の、邪魔を……するのよ……。どうして……こんなに、ひどいことに、ひどいことを……なんで」

『それは、君が誰の目から見ても、自分勝手な悪魔だから、さ』

 呂廠はテラのことを指さし、そう言い放つ。

「そ、そんな………ことって……」

 テラは周囲を見回す。

 呂廠に始まり、フルール、そしてフェアリオン。

 全員が冷ややかな目でテラを見ている。

「……テラ」

 フィラはそんな目こそしなかったものの、テラが悪であることに疑い持つ方が、今は難しかった。

「……」

 テラはそんな彼女の、不安と恐怖、そして僅かな落胆が入り混じった表情を目撃し…、

「……神威」

 だれにも気づかれず、物陰から、静かにその場を見ていた神威を目にして、

「……………ああ、そう。そうなの。…そう、そう、そう……なんで、どうじで、よ…」

 ぽろぽろと涙を流し始めた。

「………自覚のない悪程、見ててひどいものはありませんわ!」

「ふ、フルー、ル………」

 フィラは相打ちをかける彼女を止めようとするも、声にあまり力は入らなかった。

「………ああ、ああ。もういいわ」

 テラは俯き、そう呟いた後に顔を上げ、たまった涙を四方に散らす。

「…ならせめて。アンタを消し炭にしてやるわよ!全部壊して、邪魔する、最低なアンタを!」

『君の日常は、許されるものでは無いから、壊すのは当然のことだよ。申し訳ないけど、悪いとは思ってないね。…………しかし、そうだね』

 画面がぶれる。

「………戦いを始めるのは、いいよ?」

「な………」

 無数の杭が、テラを刺し貫く。

「テラ…!」

「呂廠!」

 テラの背後には、先ほどまで画面に映っていた呂廠が静かに立っていた。

「いつの、間に……」

 そう驚くフルールに、

「フェアリオンが高速で飛べるんだ。声が聞こえないギリギリの場所からここに来る

ぐらいは、僕にもできるよ」

「…お父様!」

 フェアリオンが歓喜の声を上げる。

「……さて?戦おうか、テラ?」

 脚の関節を貫かれ、一時的に膝をついた彼女は、痛みで顔を歪めながら、憎しみのこもった瞳で彼を睨んだ。

[星神]にも痛覚は存在する。だから、体を抉られた痛みが、今の彼女を苦しめていた。


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