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かなえバシ(旧作)  作者: 結芽月
第二章[穴埋めの日常」
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第二章[穴埋めの日常]9

「ここらへんだね」

 フィラは都市の端の方にある洋館の立ち並ぶ通りを歩きながら呟く。

 テラが情報の開示でも嫌がったのか、なんという名の都市かは不明だが、兎に角何かの都市の中心地に入り口は存在する。それらしいものといれば、社のあるあのビルであろう。

 しかし、彼女が付いたと言った時、周囲にフルールの通信機の反応は一切なかった。あるのは、今フィラがいるところである。

 彼女は、フルールに通信しようと立ち止まる。

「フルール、聞こえる?こっちは着いて………ん……?」

 その時、フィラのセンサーは奇妙な音を捉える。引きずるような音が。

 彼女がいるところから少し離れたところにある曲がり角。そこから、音は聞こえてきた。

 フィラは少し気になり、そちらの方に足を向ける。

「いったい何の………」

 ゆっくりと歩いていく彼女は、曲がり角に付いたところで首を出して様子を伺ってみた。

 そして、彼女はそれを、見てしまった。

「………………!」

 羽の生えた、血にまみれた女の子。

 体に風穴が空き、苦しそうに呻き、無様に地を這う、かつて自分たちを襲った存在を。

「あなたは………」

 彼女は混乱した。

 何故、自分たちを襲った相手がここにいるのか。何故、こんなに傷ついているのか。

 何故、誰かを憎んでいるようにも思える(・・・・・・・・・・・・・・・・)をしているのか。

 そんな問いが彼女の頭を駆け巡っている。

「……これは」

 よく分からずとも、とりあえず駆け寄ることにしたフィラ。

 そんな彼女の足元に、突如として銃弾が突き刺さった。

「え?」

「……」

 彼女は銃弾の出所を目で追った。そしてその先に、彼女はいた。

 テラはいた。

「テラ……?」

「………どうしているの?」

 テラはフィラの方を見つめる。見開かれたその目は、血走っている。

「テラ、これは………」

「………な、なんでもないわよ」

 テラは手に持った銃も、地面に突き刺さった銃弾も消滅させ、鬼気迫った表情でそう言う。

「……え?」

「……なんでもないのよ。別にいいでしょ?いいから帰って神威との……()との日常をするのよ」

 フィラは目の前で呻く存在を見る。

「この………侵略者、め………」

 羽付きの者、フェアリオンは苦しそうに呟く。

 その言葉に、テラは激高した。

「何を言うのよ!」

 彼女の手にはナイフ。それが見えた瞬間にはすでに投擲がなされており、フェアリオンの顏のすぐ近くにそれは突き刺さる。

「テラ……何をしてるの………?」

「……!」

 震える瞳で自分を見つめるフィラに、テラは相変わらずの表情で、

「何でもないわよ」

 そう繰り返す。どんなことを言われてもずっと、震える声でそう言う。

「こ、の…」

 フェアリオンは息を粗くしながらテラの方をずっと睨みつけていた。

「………なんでも、ないのよ………」

 そう言い続けるテラは、フェアリオンの横を通り過ぎ、フィラとすれ違う。

「……いいから、日常を続けるのよ……平和で、幸せな、日常を……」

「…………ねぇ」

 テラは立ち止まる。

「………何」

「……どうして、こんなことを……?」

 状況とテラの態度から見て、フェアリオンをこんな状態にしたのは彼女で違いはなかった。

(どうして、こんなことが起きてるの…あなたはただ……)

 誰かが誰かを殺す、殺される。それに近い現場に遭遇したことはない事もないフィラであるものの、今まであんな平和な時間を過ごしてきた中、突如としてこんなものを見せられ、犯人がテラとされて、混乱は止まらない。

「ねぇ………!」

「……戻るのよ、日常に……」

「……戻れないよ」

「え?」

 フィラは振り向いてテラに言う。

「こんなの見て……今まで通りにできるわけないよ……」

「……」

 テラは息を呑み、止まっていた。

「……テラ、どうしてこんなこと………。こんなの………神威が知ったらあなたを嫌いになる……」

「……」

「…何か、納得できる理由を…………そしたら、きっと手伝いにもどれる…」

 フィラは、テラの行為を一方的に糾弾できるほど、強い正義感は持ち合わせてはいなかった。しかし、フェアリオンの痛みを想像し、心を痛めるほどの優しさはあった。だからテラを攻めることは仕切れずとも、何かは言わずにはいられない。

 そして、これほどの事ゆえに、このままではテラに対する印象は悪い者へと変わってしまい、今まで通りに過ごすことなど不可能になる。

 それでは、楽しい時間を過ごす手伝いなど決してできず、それでは彼女の手伝いの信念に反してしまう。それを避けるためもあって、そんなことを言ったのだ。納得でも出来れば、せめてと。

 あまりの突飛な状況に混乱しているのも、大いにあったのだろうが。

「………もう、できない?こんなことを見たから……だったら」

 その時、テラは狂ったような瞳をフィラに向けた。

「……!?」

 彼女が驚いてたじろぐ一瞬の間に、テラは地を蹴ってフィラに接近し、全身を地球で言うところのコマのように回転させ、彼女を思い切り蹴飛ばす。

「………っ!」

 フィラは蹴飛ばされて飛んでいく最中にあった家を蹴り、空中で体勢を整えて地面に着地。テラを見る。

「……神威が知ったらもうダメ……なら、アンタを壊せば……いいのよね」

 彼女は懐からリモコンのような物を取りだして宙に掲げ、素早く操作する。

 その直後。

「な………!?」

 壁を突き破り、窓ガラスを割り、扉を蹴破り、周囲の家という家から[人]……と思われていた物たちが次々と飛び出してくる。そして、驚いているフィラに次々と襲い掛かってくる。彼女は彼らを殺してしまう可能性に攻撃を躊躇したことが、彼女を手遅れの状況に陥らせる。

「こ、これは………!?」

 次々と、明らかに生き物の挙動ではない動きで襲い掛かってくる彼らによって、フィラは離脱も叶わず、動きを封じられ、その波の中に埋もれていく。

「……いなくなって」

「あ、あぁぁぁ!?」

 テラは去っていく。

フィラを飲み込む肌色の波は蠢くうちに、いつしか鈍色の波にその姿を変える。

(これって……全部が、()じゃなくて…ただの機械………)

 そのまま彼女は、機械の波の中に取り込まれるように深く、深く埋もれていった。



 ただの平和な時間が流れるだけのはずであった。

 だが、そうはならない。あの時は、いわばメッキ。似せた偽物。

その下には、無自覚の悪意と、悲しみが渦巻いている。

 静かに流れる時などなかった。既に。はるか前から。

「……あれ、テラ姉ちゃん」

「起きちゃったの?神威」

「……ああ、うん。ところで、フィラ姉ちゃんは?」

 神威は、目をこすりながら言う。

 テラは神威の頭のすぐ近くにちょこんと座っていた。

「………!」

彼女ははっとした様子で少し考え、

「…ああ、ええと、ちょっとね?頼んだことがあって。しばらくは、帰ってこれないわ。でも暫く、私が一緒にいるわ」

 テラは、にっこりと笑いながら言う。

「…。…そう、か………?」

 神威はそう言ってくるテラの表情の裏に、何かを感じ取った。


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