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かなえバシ(旧作)  作者: 結芽月
第二章[穴埋めの日常」
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第二章[穴埋めの日常]7

 フィラがテラに追いかけ回されてから数日後、彼女等は初めて町を歩いていた。

彼女の、外で遊ぶという提案によるものだ。何故かテラはやや渋ったが(それ以前も料理の素材調達を拒否していたりと様子が変だった)。

それでも結局は話し合いの結果、遊園地に行くことになり、今はその道中である。

テラは切り替えたのかは分からないが、いつのまにか、いつになく熱のこもった表情で、口早に、一生懸命に、街に立つ建物の解説などをしている。

どこか、何かを隠すように。

ちなみに、住民は彼女らに見向きもしなかった。

「これは…………塔?」

「そう」

 テラは頷く。

 地上から見ても、やはり統一感のない作り物じみた街並み。その一角に、ひときわ目立つ、背の高い、巨大な塔型の建築物があった。

「エッフェル塔って言ってね。有名だったのよ。地球がまだ[星の断片(フラグメント)]じゃなかった頃は」

 背の低い建物が多い中、鋼鉄の塔は陽光を反射し、きらりと光る。文化を、積み重ねを感じるそれは、その横を通るヘリに、その威容を容赦なく見せつけていた。

「へぇ………」

 フィラは町を歩きながら周囲の人々を見る。

 そこにいるのは、[人]ばかりだ。

 [無名の断片]には数多の種類の種族がいるが、普通の、名前がある[星の断片]にいるのは、原生の種族が大半となる。

 そう言った者たちは、[星の断片]内で、現在の巨星が構築される前の状態を参考にした生活を行っている。その星独自の環境、文化などを守るために。

 個々の環境については、放って置いても繋がった[星の断片]から勝手に生物が入ってきて崩れる一方なので、基本国際社会の科学技術を用いて維持、再現を行っている(様々な要因から、完全再現も維持もできているところはない)。

それによって各地の[星の断片]は独自の雰囲気をもつ、国のようなものと化している。

「こうして地球の文化を守りながら、みんな楽しく過ごし…………ているわよ」

 何故か一瞬言葉につまるテラ。

 それを神威は視界の端に捉える。

「……地球の文明レベルは高くってね。順当に進化させていった結果、国際都市と変わらないものにはなってるわ」

 例えば、空中投影するスクリーンや、自動操縦の交通手段を使ったりしてね、と彼女は付け加える。

 実際、フィラ達はそういったものを、言われたとおりにすぎるそれらを何度か目にすることが出来た。

 町の住人たちは、テラが上げたような最新技術を使って生活している、ように見える。

 分かりやすい、高度文明の世界の光景だ。

 空にはドローンが飛び、地上には自動操縦のエコカーが走り、人々は手元に出したスクリーンを見ながら歩いている。

「………さて。私の大好きな素晴らしい子たちの文化をもっと教えてあげる」

 神威の方を見て、彼女はそう言い、その解説はそれからも続いた。

(……とっても、()が好きなんだね)

 フィラは静かに笑いながらその姿を見続けた。

「……でも、それならなんで……」

 [星神]であり、当然知られているはずの彼女は周囲の者たちから見向きもされないのか。

 嫌われるようなことを、そこまで好きなのにするはずがないだろうに。

(……それは私が口を出すことじゃないか。テラから言わない限り。私はただ、テラが楽しく過ごせるように)

 彼女が楽しいことへ、一歩踏み出す手伝いをするのだ。今回の提案のように。

 それから少しして遊園地に辿り着き、

「………どうして」

そして、フィラにとっての恐怖の時間が始まったのだ。

「どうしてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」

空からジェット噴射で降下する絶叫マシンに、マッハ十五で回転する観覧車。本物の怪物(機械)に命を本当の意味で狙われる謎の探索ゲームやら、地底に潜るドリルジェットコースター。

いづれにしても、およそ遊園地とは言えない遊園地(あそび場にしては危険すぎる)に連れていかれ、また体をバラバラにされ、そして修理してもらっても腕は戻ってこなかったフィラは、あまり人気のない遊園地の一角で、机に突っ伏していた。

「………楽しいことを手伝ってはいるつもりだけど………これ出来てるのかな……ていうか体に辛い」

 あちらこちらで機体を酷使する羽目になったため、フィラは整備がしたいところだった。

「ありがとうございました」

 アトラクションの担当員の[人]が、笑顔でそう言う。

 遊園地の賑わいは、かなりのものだった。

 多くの人が笑い、楽しそうに過ごしている。まさしく日常の風景である。

「はぁ………」

 関節負荷に悩んでフィラはため息をつく。

「ああ、楽しい!」

「ホント、そうだな!」

 疲労しない、星神であるテラはともかく、何故ずっとあんな狂気のアトラクションに乗ってきている神威がピンピンしているのか、フィラには心底疑問だった。

(何で機械の私が、一番弱ってるのかなぁ………)

 彼女だけ突っ伏して、各所から煙を挙げている。

「テラ……」

「…ん?何よ」

「……ちょっと体がもたない……ごめんだけど…少し」

「ああ、負荷がね」

 うんうんと頷いた彼女は、突っ伏しているフィラの手を握ってくれる。

「大丈夫よ」

 テラはほっこりと笑う。

「テラ………!」

(私のこと心配してくれるんだ………!)

 ちょっとうれしくなったフィラ。

 が、その感情は次の一言で一撃粉砕。

「安心しなさい。スクラップになるまで手伝わせるから」

「……」

 ポカーンと口を開ける固まるフィラ。

「修復、酷使、修復、酷使。心配しなくても、あなたは不休で手伝えるわよ?」

親指を立ててグットと小声で言いながらそう言うテラ。

「…………ここはブラック体勢なんだね!分かったよ!」

 半ば涙目でそう叫ぶフィラ。

 どうやら、テラが楽しい時間を過ごすための生贄として、永久に利用されるようである。

「…………すげぇ……。フィラ姉ちゃんが、こわれたおもちゃみたいだ……」

「……いや、こわれたおもちゃって………」

 フィラはしくしくと泣きながらツッコむ。

 そんな彼女を見ている二人は、若干楽しそうだった。

(まぁ……二人が楽しんでるから、いいのかなぁ……)

「それじゃ次、行こうか」

「そだな!」

「うん……」

 机の上に転がっていた神威は、フィラの肩に上る。

 テラは席を立ち、二人を手招きする。

「行くよ、次次」

「ほらほら、フィラ姉ちゃん。はやくはやく」

「う、うん」

 少々涙目で、フィラはテラが放り投げた腕を取り付け、神威を肩車して次のアトラクションに向かう。

(なんか、自由奔放な姉弟に翻弄される母親か、長姉みたいな立場、私…)

 そう彼女が思いつつ進んでいた時だった。

「…の、くせに。こんな風に、楽しんで………」

「!」

 その視界の端に、あの妖精じみた襲撃者が映った。

「………!」

 フィラは立ち止まる。

「こんな風に、遊んで……!」

 近くの柱に付けられた、いくつもの風船の上に浮遊する彼女は、小さな声でそう言う。

「貴方は……!…一体、なんのた……」

「どうしたの」

「あ、テラ………」

 いつのまにか、テラが戻ってきていた。

 その瞳に、怒りを宿して。フィラを睨みつけていた。

「これは、そこの………あれ?」

 一瞬やって来たテラの方に視線を向けたフィラがもう一度柱の方を見ても、そこには何もいなかった。

 ただ、棒についた全ての黄色い風船が割られていた。

「…………」

 それを見たテラは、顔をしかめる。

「………行くよ」

 テラはその光景を振り払うかのように頭を振った後、近くに見えたアトラクションの方に走っていってしまう。

「……。なん、なんだ……?」

 困惑顔の神威を肩車したまま、フィラは彼女の後を追った。

 それを見ていた神威は、眉を顰めた。


 黄色とは幸せを意味する。その色をした風船が割れると言う事は、この時の終焉を意味しているのかもしれなかった。


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