第二章[穴埋めの日常]5
場所は、フィラとテラが出会ったところ、ビルのような建物。
「………」
以前、フィラは何かしらの手伝いをすることを申し出ていた。
その結果が。
「……私は旅館の女将か何かなの?………いやまぁ、これも手伝いって言えば手伝いだから、いいけど……………」
神威のために毎食つくって持ってくるという、店のウェイトレスと言うか、メイドと言うか、そんなことをさせられていた。
とはいっても、格好はテラが、フィラが以前着ていた物と近いものにしてくれたので、見た目はそう言う類には見えない。理由は、神威がその恰好以外嫌がったからだ。
「ここ、ネットにも繋げれないのに。私の頭に入ってるのじゃ、国際都市以外だと材料手に入らないし、作れないしなぁ…………」
そもそも材料自体も、都市に農作物生産能力があまりないらしく、輸入に頼っているため、場合によって供給量が十分でないことにより、不足していたりした。
そんな状況の中、初めて作った料理は………。
「できたよ」
「やったー!フィラ姉ちゃんがつくる飯だー!」
神威の部屋の、スライドするドアを開けると、中ではテラが神威と自身の駒を進める遊びで盛り上がっており、フィラに気付いた神威がよろこんで万歳した。
「それで、何つくったの?」
「うん」
神威とできるだけ長く遊びたくてフィラに任せたテラは、お盆の上の料理を見る。
「これ…………………おかゆ?病人じゃないんだから」
「……おかゆだよね…他は一個だけ材料が足りなかったりとか絶妙にイラつくラインで…」
おかゆ。それは地球で言うところの穀類がある[星の断片]では必然的に作られる、最も有名な料理である。入っているものは場所によってまちまちだが、地球で言うところの米のようなものを、水多めで炊いてつくるという手法は変わらない。
文化も違う、いくらかの[星の断片]間における、数少ない共通しているものだ。
「もうちょっとどうにかならなかったの?」
「いやまぁ、それは私も思うんだけど。ちょっと雑過ぎるし」
別におかゆは凝った料理ではない。おいしいが、ただ単純においしいだけのもどうだろうか、というところだ。そもそも病人用の料理であるし。
「まぁ、次からはもうちょっと頑張ってみる」
「俺はフィラ姉ちゃんがつくってくれたものなら、なんでもいいぞ!……あ、でもまずいのはむりだから」
そんなこんなで、数日間食事を作るフィラである。
テラは神威と遊ぶのに必死で手伝ってはくれなかったが、半分自ら引き受けたようなことなので、文句は言わない。
「今日は麺類で」
ドアを開けると、絵を描いている二人の姿がある。
「うま!だれなんだ、テラ姉ちゃん?」
神威はテラが描いた[人]の絵を見、そう言う。
そこには、彼女と似た格好(ただし服の色は薄い黄緑色)の[人]の少女が描かれている。
「これは………」
語るのは気が進まなさそうなテラであったが、子の神威の言葉であった故か、渋々話す。
「……友達よ」
「え………」
(…そ、そっか。友達がいなくなるかなるかしちゃって……。それでつまんない時間を…)
二人は、ぼそりと言ったフィラに申し訳なくなる。
(だから依頼を……。……これは、テラが楽しい時間を過ごすための手伝いを、もっとしなくちゃ)
具体的には面白いことを行ったりして、と。
そのように思考が一致したテラと神威であった。
「今日は……カレーっていうので………」
なので、材料を渋々代用するなどして頑張り、凝った料理で神威を喜ばさせ、彼が好きらしい彼女にそれを見せることで、楽しませようと思ったフィラ。
そんな彼女が部屋に入ると、盾とおもちゃの銃で銃撃戦を行うテラと神威の姿があった。
(……ん?………神威なりに頑張ってる、のかな……?)
その光景に、やや嫌な予感も感じたフィラである。エスカレートしないか、と。
「今日、は………その、ハンバーグと言うの、を………」
ドアを開けると、各々用意した機体に取り付けた謎の装置により、頭上にエネルギーの収束体である光球を出しているテラと神威の姿が、あった。
(……ん?何してるの?)
「………いや、二人とも………」
彼女の演算海路が導き出した嫌な未来図。
それが脳裏をよぎり、嫌な予感として再度頭をよぎった彼女は、ツッコまずにはいられなくなった。
「あ」
「え?あって何?なんか嫌な予感が……」
直後、双方の装置が煙を噴き上げ、同時に光球が尋常ではない光を放ち、
「あ」
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンンン!!
「なぁぁぁ!?」
原因は爆風。
起きた現象は吹き飛ばされること。
そしてやってくる結末は。
「うぅ……………」
バランバラン。四肢が外れて床にコロリン、となった。
「またバラバラに……」
「……気にしない方が良いわ。」
煙の中から神威を抱えて出てきたテラがそう言う。
「いや気にするよ!?痛いとかはないけどこの四肢の喪失感が!」
フィラはしくしくと泣きながら、ツッコんだ。
ちなみにテラは不本意ながら、バラバラ芸を見せることになったフィラの姿にちょっと笑っている。
(……楽しんでる?ならいいかな………いや、よくはないかも)
その後フィラは直してもらえたが、その際に突風を起こす謎の武器を取り付けられ、勝手に起動するそれに苦しめられ、テラ達に面白がられと、日々を過ごしていった。
▽―▽
その日、それは完成した。
ただどうにも、全てをおじゃんにしかねない、とんでもないやらかしがあったらしい。
やった本人は私の一番の友達によって即刻許されたようだけど………後で彼女、絶対とんでもない報復を仕掛けるわね。
……とにかく、目標の物は出来上がった。
凄い達成感があった。
「………できたわ!」
一番の友達、自分と色違いの格好の彼女と抱き合い、ハイタッチ。
「いやはや、すごい出来であるなぁ」
「最高ね!」
(……ふふふ、まさか内側にあんなの(・・・・)があるなんて思わないでしょうね)
みんなで頑張ってつくったもの。
それを見て、汗水たらして頑張ったみんなは、笑っていた。
本当に楽しそうに、幸せそうに。
自分もそうだった。自然に、笑っている。なぜなら、楽しいから、幸せだから。
「やっぱり、みんなでつくるっていうのは、いいな!」
途中参加した一人が、肩に手をおき、笑って言ってくる。
「………そうだね!」
相手に頷く。
本当に、本当に楽しい。
「…そう言えば、もう夜だね。一応、外泊許可はとってあるけど……」
一番の友達がそう言う。
実は折角大きな目標を達成したのだから、何か振舞おうと、ちょうど考えていた所だ。
わざわざ言ってくるあたり、狙っているのだろう。
本当に、用意周到なことだ。
「……ええ、そうね。今夜は、ご馳走をしてあげるわ!」
「お、そうなのか!」
「ええ、密かに予定して、下準備は既にできているわ」
にやりと笑う自分。
他の皆もにやりと笑う。
『……だったら』
全員が息を大きく吸い、叫ぶ。
『祝杯の時間だー!』
ひと際小さい一人が、強調するように遅れて跳ねる。
「だー!」
けど、みんながいった後に言ったから、ちょっと孤立感が出てしまい、その場は一瞬凍ったけど、
「わははははははは!」
豪快な一人が、大きな笑いでそんな空気を吹っ飛ばしてくれる。
「……いいね、こういうの」
自分はそう呟いて、手を掲げる。
「さぁみんな。祝杯をの準備、始めるわよ!」
『おー!』
そんなふうに、みんな楽しく仲良く、日々を過ごし、とても満たされていた。
それがあるだけで、本当に幸せだった。
………なのに。