2話 いざ森へ
「みんな揃っているわね。では行きましょう、伝説の剣のもとへ。」
満面の笑みで元気よく号令をかけるのはカイラー家の長女アイリーン。
笑顔のアイリを愛おしそうに見つめるのはハルバート家の長男カイル。
この2人はやくくっ付かないかなと思うのは僕、ヴォイド家の長男レオニス。
今日は伝説の剣のもとにたどり着くために必要な4つの属性石を求めて幼馴染3人+護衛が各1人ずつ。
森の中は剣の力なのか魔物は存在しておらず、居るのは野生の動物たち。動物も領民もほかの領地に比べて魔物の心配がないので、薬草なども自分で取りに行けるほど平和だ。
ここから数日僕達は森の中で属性石を探して探索することになっている。さて、何日かかるのか。
「アイリ、楽しみなのは十分に伝わってきた。だからこういうのもなんだけど、本当に理解しているよね?伝説の剣が担い手を選ぶということは災厄が起こる、もしくはもう起きているってことを」
「もちろん、わかっているわ。でも大丈夫よ。私たちの誰かが選ばれたとしても剣さえあれば災厄を退けられるのでしょう?だから伝説の剣なのよ。」
相変わらずアイリは楽観的だ。ここまでくれば嫌でも理解してしまう。伝説の剣はきっと担い手を呼んでいる。森に近づくほど強く感じる。災厄が起きることを。剣だけがあっても駄目なことを。災厄がいつ起こるのかはわからない。剣の扱いを学べる騎士化でさえ初等部を卒業後の中等部から。さらに中等部の2年生から。あと4年はかかる。
それでは間に合わない。いつ起きるかもしれない災厄にあと5年はまってくださいなんていっても聞いてくれる保証はない。
どうやって鍛錬を行うのか。どうやってこの2人も一緒にできるのか。僕がしっかりしないと災厄に負けてしまうだろう。
「ちょっとレオ!聞いてるの?」
ふと耳に聞こえた声にはっと現実に戻る。
「あ、いや、ごめん。考え事してた。何の話?」
「今日は水の石を取るだろ?あと2つはどっちから取りに行くかっていう話をしているんだ。何を考えていたんだ?」
話の内容を説明しながら考え事について聞いてきたカイル。その顔には災厄について考えていたんだろ?と言っているように見えた。
「災厄のことをちょっとね。石の話だよね。水の石の次はやっぱり火かな?水辺の近くから行くんだし多少湿って燃えにくいだろうし。」
「レオ!それはいい考えだわ。水の次は火。でその次は風にしましょう?やっぱり光は最後よね」
石探しの方針が決まった後は、長期休暇が終わったら選択科目の何を取るかとか。王都で今何が流行っているかなど雑談をしていた。
「…んぁ?いつの間にか寝ていたのか。」
気が付くと馬車は止まっていた。アイリとカイルもどうやら寝てしまっていたらしい。2人ともまだぐっすり眠っている。
馬車を降りるとオレンジ色に輝く日が西の方角に見える。どれほど寝ていたのだろうか。それとも着くまでに時間がかかったのだろうか。どのみち今日は馬車の中で寝泊まりかな。そんなことを考えながら馬の世話をしている御者の人に尋ねる。
「お疲れ様。僕たちどのくらい寝てましたか?」
「これはレオニス様おはようございます。それはもうぐっすりと。そうですね、ここに着いて半刻程でしょうか?ついたときには日も暮れかかろうとしていましたし、今日は馬車でお休みになるかと思い声はかけなかったのですが」
「おかげでぐっすり眠れたよ。まだ2人は寝ているけど。」
2人はまだ起きないだろうし、枝でも集めに行こうかな。馬車で1夜明かすとはいえ流石に火は必要だろう。
「ところで他の方々はどこに??ちょっと枝集めにでも行こうかなって思うんだけど」
「他はみんな枝集めと何か食べられそうなものを探しに行きましたよ。食料は持ってきましたが念のためにと。ですのでどうぞごゆっくりなさっていてください。」
つまりやることがないということか。とその時森の中から緊張感が襲ってきた。
「ネクター!今すぐ馬車を出す用意をっ!緊急事態だ!即街へ戻るぞ!!」
森の中から慌てるように走ってくる他の護衛達。そのうち肩を借りながら走っている一人の右肩から血が流れていた。
それを見た御者はすぐに出発準備を始める。
森で何が起きたのかは分からないが、ここにいては危険だというのは強く感じる。僕も急いで馬車の中に戻る。
護衛達と合流し僕たちは来た道を戻った。
「それで、森で一体何が?」
周りを馬車の中から警戒している護衛に話しかけた。
「魔獣です。今まで森で発見されたとの報告がない、いるはずのない魔獣が3匹。うち2匹は仕留めましたが、その際にアルベルトが1撃もらってしまいまして。」
魔獣…やはり災厄はすでに起こっているという認識のほうがいいのかもしれない。
「ゴードン。アイリは呼ばれている気がすると言っていた。僕は災厄は伝説の剣を取るだけでは退けられないと何故かそう確信している。そして今日森でいるはずのない魔獣がいた。つまりだ、少なくてもアイリは剣の担い手であることは確実。すぐに準備を整えて剣を取りにいかないといけない。領へ戻り次第準備してほしいのだけれど、どれくらいの時間がかかる?」
「なるほど。呼ばれている気がする。剣だけでは足りないと確信している。そして魔獣ですか。本当は貴方様方には、魔獣の討伐が終わるまでは領地にいてほしいのですが、その話だと担い手であることを信じるしかありませんね。護衛任務も付随するので通常の2倍の編成で行こうかと思います。およそ3日ほど頂ければ準備はできるかと」
「わかった。カイルとアイリには僕から話しておくよ。3日後にまたこちらに来てもらうことにする。それと、今日から本格的に武を習いたい。準備で忙しいとは思うが、誰か先生をお願いできないだろうか?」
森に魔獣が現れた以上今後何が起こるか分からない。今からだと遅いかもしれないけど、今すぐにでも始めないと取り返しのつかないことになるのは確かだろう。
「わかりました。ではこの私めがお教えいたします。準備は部下に任せますので明日の朝食前に走り込み、昼食後に剣の練習をいたしましょう。」
森から帰る予定ではなかったのに何故か書き上げたら帰ってた…。あら?