拠点騒動
そこは、埃っぽくジメジメした、端的に言えば掃除されていない部屋だった。
「うっわ、よくこんなとこで生活してましたねぇ」
アマリが部屋にある薬品らしきものを眺めながらつぶやく。
「いやぁ、こんなひどい部屋で申し訳無いね」
全く悪びれる様子もないチャクラが飄々と答える。
その様子にため息をつき、
「大体こんな場所どこで見つけたんですか?」
「なんか路地裏に居た怪しいおじさんのクエスト受けたらここの鍵貰って・・・」
「なんでそんなとこホイホイ付いてくんですか・・・」
犬ですかアンタ、と文句を言いつつも、安全な部屋が手に入るのは助かるな、と思ったのも束の間、衝撃的な事実が明かされる。
「あ、そのへんの瓶触っただけでも爆発する薬品入ってるのもあるから気をつけて〜」
伸ばしかけた手を毒蛇のような速さで引っ込め、
「そっそういうのは先に言ってください!危うく揃って吹っ飛ぶところでしたよ!?」
顔を真っ赤にして言い募ると、チャクラがわざとらしく肩をすくめ、
「いいじゃない、何事も経験だよ?」
と、ひらひら躱してくる。もう起こる気も無くなったアマリは、また一つため息をつき、
「はぁ・・・で、ここで何するんです?」
「何って、爆弾の調合。」
ここで合点がいったように昭和風ポーズをして
「あっ、じゃあさっきの爆弾も・・・」
「そう、まだ試験段階だけどね」
あれで試験段階とは頼もしいと思ったが、
「あれ、じゃあ寝泊まりする場所は・・・」
「ん?ここだけど?」
「寝相が悪かったら?」
聞きたくない質問に、ボンと手振りだけでやってみせる。
「やっぱり・・・」
ガクリと肩を落とす。それからふと地面を見ると、薄暗い部屋の中でもタイルの光沢が目に入る。
「ここって本物の世界みたいで凄いですよねぇ。爆弾作るとか自由度も高いし」
感慨深げに呟いてみるが、チャクラの反応は薄く、
「そうなの?ボクは他のゲームなんてやったことないからわからんけど・・・」
「ありゃ、あんなに速くアバターを動かせるのに、他のゲームやったことさえないんですか。もしかして、ご家庭の事情だったり?」
軽く聞くと、一瞬だけチャクラ瞳が真紅眼に燃えた。同時に背筋に氷が這い回る錯覚を覚えるが、寒さのせいだと割り切る。
「んー、ボクの家は3つあってねぇ」
「あ、長くなるならいいです」
なんだか聞いてはいけない気がして、手をふりふり誤魔化しておく。
「それで、私の手伝えることって?」
やっとのことで本題に入る。
「あぁ、そうだったね。君には・・・」
ここで、突然ドアが大きくしなり、怒鳴り声が聞こえてくる。
「さっきの人たちですかね?」
「また懲りずに来るもんだねぇ、まぁ、話は撃退後で」
とんだ邪魔が入り、月が登ろうとする時間、まだ本題には入れない。