邪神チャクラ
チャクラと名乗ったその男性は、服装からして、私よりだいぶ早くここに来た人のようだ。
「チッ、ヒーロー気取りがってよぉ!寝てろ!」
かなりアレなファッションセンスの男が口汚く言い放つと、三人の男たちが同時に安っぽい湾曲した剣をこれみよがしに抜き放つ。
「ほー・・・剣、ねぇ」
「どうした?ブルっちまったのか?」
顎に手をやり剣を見つめるチャクラを品性の欠片もない笑い声で指差す。
「ちょっと、どうしたの!?」
チャクラが男たちの言うとおり本当に『ブルった』のかと危惧したが、
「ん?あぁ、いや、なんか、こう・・・まぁ、いいや。ほらこいよ」
言葉を探すように眉根を寄せたが、それも一瞬のことで、すぐに挑発してみせる。
「言われなくても、うずうずしてしかたねぇ。いくぜ!」
三人の男が、この狭い路地で3方向に固まらないようにしてチャクラに迫る。
「おっ、ちょっと良い動き」
チャクラが感心していると、
「その減らず口、叩き壊してやるよ!」
と、男が正面から上段の構えで振り抜こうとする。
「危ないっ!」
何を棒立ちしているのかと叫ぶが、チャクラは手をひらひらとするだけだ。
そして、とうとう刃の切っ先が未だ余裕綽々の短身の頭に当たる。思わず目をつむる。
だが、その刃がチャクラに当たることはなかった。
いや、正確には、その何もかもが、チャクラには当たらなかった。
「えっ?」
ポン、と水素にマッチを近づけたときのような音がしたかと思うと、もうそこには何も無かった。
口を大きく開けた男二人に歩み寄り、
「どうよ、まだやる?」
と軽々しく胸を叩くと
「ひぃっ」
先程までの威勢が嘘のようにか細い声を出して路地を駆け足で出ていく。
「あっ、おい、おいてくなよ!」
と、もう一人も続く。まるで何事もなかったかのような静寂。
そこに、たった一人、神のような力を持ち、悪魔のように恐ろしい、『邪神』が立ち、
「ふーん?結構かわいい顔してんじゃん?」
にかっと、歯を見せて笑った。