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拳に爆弾を  作者: ボブ
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プロローグ「魅入られた男」

少年だった頃。

普通の家庭に暮らし、何不自由ない、とまでは行かずとも幸せに生活していた。だからだろうか、失われることを考えていなかったのは。

爆発の原因はガスの元栓が開いていたから、だそうだ。優等生だったあの頃は、毎日先生に手伝いを頼まれ、両親より遅く帰ることもままあった。

家が200mほど先に見えてきたと思ったとき、不意に、焦げた匂い。その時爆発は起きていたのだが、目も耳もろくに仕事はしなかった。あまりの衝撃にたっぷり三分は立ち尽くしていたと思う。赤い夕陽を真紅に染め上げる死の炎を目前にして、考えていたことはただ一つ。この凶暴なまでに純粋な殺意が、『欲しい。』第一の欲求の誕生であった。このとき、俺は爆弾に魅せられた。

両親は死んだ。その後、代わりに育ててくれるような親戚はいなかったので、国のお世話になり、義務教育は受けられた。もちろん、俺の欲求は欠片も満たされなかった。義務教育がおわった。国は義務教育以降の面倒は見てはくれなかった。

職を探さねばならない。だが、学歴なんぞ誰でも入れる中学校まで、その上保護者も居ないとなれば、カタギの職になどつけるはずもない。ならばなるべく本職らしい、チンピラ共の入っていかない事務所に入る。

扉を開けた途端に、抜身のナイフのような目つきが俺を襲う。スターの気分になって気を紛らわせながら、リーダーらしき人物に話しかけようとした矢先、野太い声が「採用」と目の前で発した。まだ何も言ってないと顔を上げると、あの目つきはにやりと笑い、「客商売やってて、人の心も読めんようじゃあ三流も三流よ。なるだけ合法的な仕事はさせてやっから。事務所に布団敷いて寝ろ。」口を挟む間もなく言い募られた。このときは、俺の人生で数少ない幸運だった。

ほとんどの仕事は雑用だったが、一度だけ、借金取りの見学に行ったことがある。そこで初めて、人が人によって破壊されるのを見た。あのときの感覚が蘇るように、自分の奥底に住む自分が見つめてきて、俺は第二の欲求に取り憑かれた。拳に魅入られた。

齢17のことであった。児童期の栄養不足が原因か、小柄な体躯に真紅の紅をドス黒く染めた炎を宿したその男は、チャクラとして、別世界へといざなわれた。

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