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砂に埋まった人

作者: 江口サイト

あらすじ書いてるのに前書きでも話に触れるとネタバレになりそうなので、黙っておきますね。

あ、フィクションです。

大丈夫。大丈夫だ。

手や足は動かないが、問題はない。

体を起こす?無理な話だ。

今僕は砂に埋まっているのだから。


あれだ。歩きスマホというやつだ。

今話題のGOとかウォーク的なやつだ。

集中しすぎて周りを見ていなかった。

僕のせいだが、スマホが悪いのかもしれない。

そうか、アプリの製作者のせいで砂に埋まったのか。

いや、この場合会社のせいになりそうだな。

よし、クレームを入れよう。スマホが手元に有ったらの話だが。

よしんばあったとして、画面を見ることもタップすることもできない。

この状況から解放されるのなら何回でもマットをタップするけどね。


ひとしきり責任転嫁が終わったところで冷静になる。


ちょっと苦しいかな。

圧迫での苦しみもあるかもしれないが、そもそも酸素が供給されているとは考えられないからな。

ここからは解決方法を考えるとするか。

まず必要なものをピックアップする。

①情報

②道具

③人材

④空間

⑤食糧等のエネルギー源

⑥新作のゲーム

⑦映像を映すテレビ

⑧電気もいるなぁ

⑨攻略情報を調べるために必要なPC

⑩いや、スマホでいいか。


結論が出た。

スマホが必要だ!


僕は手探りでスマホを探した。

と言っても手首も満足に動かない状態。

見つかるはずもなく…。

砂だからか、空間はどんどん埋まっていく。

さっきより苦しいかもしれない。

どうしよう。どうしよう。

でも大丈夫。大丈夫だ。


そうだ情報だ!

外の様子はどうなっているのだろうか。

普通の歩道を歩いていたのだが、気付けば急に砂の中だ。

景色も見てないから道路工事があったのかもわからない。

もし工事中だとしたら誘導員がいるはずだ。

そうかわかったぞ!工事業者にクレームを入れよう!

ここから出たら真っ先に電話番号の確保だ。


少ないだろう酸素を多めに肺に送り込み、

もう少しだけ冷静になる。

情報と言えば、今の状態を確認しよう。

まず暗い、動けない。

口を開くと砂が入りそうで怖い。

手を動かす感じ完全に砂。

最悪なことにうつぶせ状態である。

知識もないし、最悪かどうかは分からないが。


あ!

玄関の鍵閉めたっけ!

えーっと、うーん、閉めたような…。

割合的には閉めたのが70%を超えている。

じゃあ大丈夫かな。うん大丈夫。

取られて困るものなんてないはず。

プレミアの付いているものなんてないし、買うお金がまずない。

ガスの元栓は閉めてるし、IH置いてから風呂以外でガスは使わないんだよね。

オール電化だとアパート側はいいかもしれないけど、ガスがないと停電時は地獄だろうね。

そう、蝋燭は買っておきたいんだ。

今度スーパーに行ったら買っておこう。

メモを取りたいがスマホがない。

結局スマホを探すことの優先順位が上がるだけじゃないか。


また、意味もなく難しい顔をしながら手首を動かすのだった。


…あー。

タピオカだ、タピオカチャレンジだ。

あの、胸にタピオカミルクティーを載せて手放しで飲めるとかいうやつ。

それをやってればストローを加えたまま砂に埋まっ…くだらねぇ。

僕に胸はないんだ。そもそも出来やしない。

ストロー程度の長さじゃ砂の外の空気を吸えるわけがない。

もし吸えても、タピオカが詰まっていたらどうする?

僕の死因は「タピオカが詰まったことによる酸欠」って報道されるのか?

そんなの嫌だ。

「あいつ、そんな流行に乗るような奴じゃなかったんですけどね。」とか、

友人インタビューで流れるんだろうか。

友人インタビューに答えそうな奴と言えば…。奴か。

奴なら「タピオカっすか!マジで!はっはっは!ださっ!」とか言いそう。

僕はタピオカミルクティーを飲みながら死ぬわけにはいかないんだ!

何とかしてここから出る方法を考えないと!


でもタピオカミルクティーなんて飲んだことあったっけ?

あ、ないなぁ。じゃあ報道で流行がどうとかの件はないのか。

なんだ。だったら安心していけるな。


僕は眠ることにした。


僕は夢を見た。

暖かな日差しを無視してスマホを見る僕は、「眩しい。」と文句を言う。

涼しい風が吹く優しい草原を無視した僕は、「風強い。」と文句を言う。

妖艶な雰囲気の夜の月明かりを無視した僕は、「暗い。」と文句を言う。

春の芽吹く気配とともに走り去る学生を無視した僕は、「うるさい」と文句を言う。

夏の燦燦たる太陽の励ましを無視した僕は、「暑い。」と文句を言う。

秋の哀愁漂う物憂げな空気を無視した僕は、「腹が減った。」と文句を言う。

冬の白く煌びやかな結晶のキャンバスを無視した僕は、「寒い。」と文句を言う。

そうだ。

今まで見てきたものはスマホだ。

周りの色とりどりの現実を無視して、手元の色とりどりの偽物を見てきたんだ。

なんて愚かなことをしてきたんだろう!

これこそが時間を無駄にするってことじゃないか!

よし、砂から出たらつぶやこう!


僕は懲りなかった。


起きたのは衝撃を感じたからだった。

レスキューだろうか、担架に乗せられて運ばれるのは初めてだった。

救急車の排気ガスがあるにもかかわらず、久しぶりの外の空気は意外とおいしかった。


救急車に揺られながら意識を失う僕の最後の言葉は、

「僕のスマホ見ませんでしたか?」だった。

最後までお読みいただきありがとうございました。

この話。

スマホ(PC)って必要ですか?

っていう情報をネットを参考に構築する業者に悲しみを感じました。

んで、できました。

嘘です。ごめんなさい。ってね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 現代人の思考の形式が書き込まれていて素晴らしいです。 流行を追っていないつもりが気づかぬうちに流行に敏感になっているところとスマホ生活による詩的情緒の退行を描かれているところが特に興味深か…
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