忘れられた母達へ
ここは周りに何も無いほぼ陸の孤島と言ってもいいような山奥にたつ高級老人ホーム。敷地は広く、プールやゴルフ場などの運動するための施設、一流のシェフがいるレストランが和洋中の3箇所ある。他にも季節の花々が咲いている公園などもありさすがは高級老人ホームと言うだけの場所だ。山奥と言う立地も都会の喧騒な雰囲気を忘れさせてくれる。
私は今回取材する場所を『老後にこんな暮らし出来たらいいなぁ~幸せだろうな』なんて思っていた。
今回の取材は老人ホームの闇を暴く的なものでは無く、半分宣伝のような紹介のような取材だ。
老人ホームに着いて、まず私たちは職員の方の案内で敷地内の色々な施設を巡った。老人達が庭でお茶をしたり、映画を観たり、プールで体を動かしたりしている姿を私は『みんな元気でしっかりしてるなぁ。』と思いながら見ていた。
そして全施設を一通り見終わった後、私達は予定通り入居者への取材を行うことにした。
「毎日が楽しい」「こんな所に入れてくれて、子供に感謝してる」などのプラスの意見が多かったが、
一人の老婆が
「時々もうここがあの世なんじゃないかと思ったりするの。ほらここ山奥だから家族も誰も滅多に訪ねて来ないし、同じ景色をみて、同じ人と話しての繰り返しでね。ここには色々あるから外に出るようなことも無いし。ちょっと寂しいわね」
「変な話ししちゃったわね、ごめんなさい。久しぶりに外の人と話せて嬉しかったみたい。」
と悲しそうなに笑いながら話してくれた。
それを聞いて思い返すと確かに老人や職員以外の人間はみた限りいなかった。
確かにここはあの世のような場所なのかも知れないと老人ホームを背にし思った。
後日、その老婆のセリフや顔を忘れられなかった私は簡単に行くことは出来ないので彼女宛に手紙を送ることにした。