6.樽マトリョーシカ
スマホ様、電波障害…。繋がらない…。謎のフィードバックがなおらない(泣)
豹柄ミイラの言葉をサックリ無視して、早く樽を開けるように促す。
[…はい。]
豹柄ミイラは樽の蓋の縁を歩きだし、一周したあと片足でトントンと叩いた。
[ビンみたいに、回すと取れるようにしといたよ。蓋付きの方が便利だと思うし]
しっぽがブンブン振られている。犬?
とりあえず無視して、言われた通りに樽の上のところを右に回すとパカッととれた。
ウチの踵の痛みは何だったんだ。
中を見ると、また樽。中くらいのまごうことなき樽。
「樽マトリョーシカ…」
ついさっきも同じ事があった気がするんだけど…?
チラリと豹柄ミイラを見る。
しっぽをブンブン振って、キラキラした目で誉めて誉めて!って幻覚が見えるのは気のせいだろうか?
[それも開けちゃう? 開けちゃう?]
キラキラした目で…以下略。
ウチは無言で中樽を豹柄ミイラに渡すと、先程と同じ工程で開ける。
60センチ程の中樽の中身は30センチ程の小樽。
樽マトリョーシカ…。
小樽も同様に開けてもらい、中身を確認する。
小樽の中身は…パセリ。新鮮なパセリだった。しかもみっちりと。
「何故パセリ…」
[ビタミン取れるね~。樽全部、鮮度落ちないようにしておいたよ~!]
パセリでビタミン取れるのか。
そういえば栄養関係の本でパセリって、卵なみに結構栄養豊富な野菜だって書いてあったような?
妊婦さんが食べ過ぎると流産しやすくなるとか、高血圧や冷え性、むくみ、あとは胃の痛みの緩和とか…。
あれ、効能は思い出せるのに肝心の栄養素が思いだせない。
まあそのうち思いだせるでしょ。
なんにせよこれで壊血病の心配はなくなったかな。
ウチ、結構パセリ好きだし。
卵に粉チーズと刻んだパセリを混ぜて卵焼きにするとおいしいけど、材料も器具も桴の上じゃ無い物ねだりだよね。
[じゅるり…]
大樽の上でじいーっと、ヨダレを垂らしている豹柄ミイラに、とりあえずパセリを与えてみた。決して毒味させているつもりはないが、なんとなく。お腹すいてるみたいだし…。
嬉しそうにウチの指をハシッと掴み、目を細めてモシャモシャ食べている。
「苦くないの?」
コクンと頷いてまた食べはじめる豹柄ミイラ。
〔パパセリ ビタミンA、B2、B6、C、E、K、葉酸、カリウム、
カルシウム、鉄、銅、食物繊維など栄養が豊富な万能野菜。多少苦味はあるが熱を通す事で緩和できる。脇役と思うなかれ〕
うおっ!?
ビックリした。いきなり表示された吹き出しに地味に驚いてしまった。
あ、ごめんなさいの顔文字がでた。
ウチが驚いたからかな?
〔名称を確認する事で、マスターの知りたい情報が表示されます。有機物等は生息地、栄養素から効能、カロリー、レシピまで様々な詳細を知る事も可能です。無機物等は採掘地、原材料、製作工程等も可能です。通常は簡易的な説明を表示しております。〕
何か、長々と説明する吹き出しが…。
〔危険度が高い場合、真贋はオートで表示されます。〕
ふーん、便利だからいいか。毒とかで死ぬ事はなさそうだ。
[ねえ、ねえ!君は食べないの?]
豹柄ミイラがウチの指を両手でブンブン振って聞いてきた。口と思われる所に、パセリのクズがついている。
「………ついてるよ、パセリ」
[う? どこ? とってとって?]
猫みたいに毛繕いをしてるが、耳とか頭を毛繕いして、口の所はやらない。わざとなの?
とりあえず、親指でぬぐって取ってあげる。
こんなのが神様なの?
[さっきから豹柄ミイラって言ってるけど、僕の名前はシトラリクエだよ。こんなの呼ばわりは酷くないかな?]
そんな舌噛みそうな名前呼べるか。
[ガーン]
効果音しゃべったよ、豹柄ミイラ。あと、ウチは思ってはいるがしゃべってはいないけど?
[君の考えてる事は、僕には解るよ~。神様だから!]
「……変態?」
[ガーン!?]
二度目。
「…じゃあ、リク」
[う?]
涙目で見上げている豹柄ミイラ、シトラリクエ。略してリク。
「名前」
すると、みるみるうちに表情が明るくなっていく。
[リク? 僕の名前!]
しっぽも耳もパタパタして、ウチの肩にピョンと乗ってきた。
頬にスリスリして、体全体で嬉しさを表現している。
まあ、喜んでいるならいいか。
とりあえず、樽どかそう。
桴の4/1しめているし、バランス考えないと桴ひっくり返るよね。
大樽は桴の隅、対角線の隅に中樽と小樽かな…、とりあえず。
風や波で落ちないように固定しなきゃ。
無くす前に、中樽に鮫の歯と竹の枝、なんちゃって草束子を入れておこう。せっかくゲットできた樽だもん。一個も無駄にしないよ。
邪魔にならないよう、リクは中樽の上に移動してもらう。
[あ、そうだ。大樽の底にロープとレザーシート入ってたよ。中樽の底には針金も入ってるよ]
なんと。
樽マトリョーシカに気をとられて気付かなかったよ。
リクはお土産と称して持ってきたメーカブとやらを小樽の中に突っ込んでいる。
「それ、乾燥させた方が効果あがるって」
メーカブを取り上げて、ブラックなんちゃらの皮の側に置いて弦で挟んでいると、リクが首をかしげて聞いてきた。
[え? 何で知ってるの?]
「何でって、そう書いてるじゃん。謎の吹き出しに」
メーカブの上を指差しリクを見る。
[吹き出しって何?]
「は?」
あれ? 神様なのに見えてないの?
〔真贋はマスターにしか見えません〕
……さいですか。
「…日本だと、海藻とか茸は乾燥させると、旨味成分がまして美味しくなるし、日保ちもするから。魚もそうだけど」
とりあえずごまかそう。
[おいしい…、じゅるり]
メーカブをじっとみたまま、ヨダレを垂らしているよ…。
この神様、実はかなりの食いしん坊なのでは?
[それは否めないかな? おいしいものは正義!]
ドヤ顔ですか。
さっきの生パセリも正義ですか。草食動物…
[神様だからね!]
ドヤ顔×2。
意味わからん。
……樽、固定しよう。
やっと名前で呼ばれました。リク君、歩夢さんのスルーに負けずに頑張ります。