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冬の雨が上がる時  作者: 登夢
第1部 家出・同居編
23/49

散骨と衝撃

6月に入ってから蒸し暑い日が続いている。明日は父の四十九日だ。おじさんは気になったのか聞いて来た。


「明日で四十九日になるが、親父さんの遺骨をどうするつもりだ。ここにずっと置いておくのもどうかと思うけどな」


「明日は土曜日です。散骨に行こうと思うのですが、付いて来てくれませんか?」


「散骨か、いいけど、人に見られないようにしないといけないな。どこへ行くつもりだ?」


「多摩川、六郷土手駅から歩くとすぐ多摩川だから、そこで」


◆ ◆ ◆

その日、私は目立たないように父の骨壺を手提げ袋の中に入れた。駅から二人で歩いて川岸に着いた。私は蓋を開けて少しずつ川に流していく。全部流し終わった。私は骨壺を力一杯川に投げ入れた。あまり遠くへ投げられなかった。岸から5mくらいのところへ落ちて、大きな水しぶきが上がった。私とおじさんは手を合わせた。


「お母さんの遺骨もここで散骨しました。お墓がないので父が多摩川に散骨しようと言うので、去年の6月にここで」


「そうだったのか、お墓参りはここに来るんだ」


「偶然ですが、父が死んだ日は母が死んだ日と同じでした。だから、四十九日も同じ日になりました」


「そんなこともあるんだ」


「側溝で溺れたのも母が水の中に引き入れたのかもしれません。私たちの邪魔をしないようにと」


「そういえば親父さんは安らかな顔をしていたな」


「いまごろ二人仲良くしているかもしれません」


「そうならいいね。また、ここへお墓参りに来よう」


それから二人はベンチに座って川の流れるのを見ていた。私は両親が元気なころを思い出していた。自然と涙が出てきた。丁度高校へ入学したころ、あのころが一番楽しかったのかもしれない。


「何を考えている?」


「両親が元気だったころのことを思い出していました。ほんの1年前までは仲良く暮らしていたのに」


「本当にそうだね、人生一寸先は闇だ、だから今日を大事にして生きるしかない」


「母は幸せだったのだと思います。母は高校生の時に家出してきて父と知り合ったそうです。父と母は10歳以上年が離れていましたが、一緒に生活しているうちにいつのまにか結婚して、私が生まれたそうです」


「俺たちと出会いが似ているじゃないか! 親父さんは以前俺に自分と同じ匂いがすると言っていたのはこのことだったのか」


「父は元々人づきあいが不得手で、なかなか職場になじめず、たびたび転職をしていました。母はしっかりもので一生懸命に働いて、家計を支えていました。私を高校へ行かせるために無理をして休みもなく働いていました。それがたたって」


話しているうちにまた涙が出てきた。私のために母は亡くなった。悔やんでも悔やみきれない。


「母を失ったことで父の生活が荒れて、母の生命保険の保険金が100万円ほどあったけどすぐに貯金が底をつきました。食料を買うことにも不自由になり、私はコンビニでアルバイトをすることでなんとか生活を支えていました。それで学校へ行く時間もなくなってしまいました」


「そうか」


「出会ったあの日から1日前にお金を取り上げられて、途方に暮れて、もう父とは暮らせないと思って家出して来ました」


「そういう事情があったのか」


「父は母をとっても愛していたのだろうと思います。だから、母の死が相当に堪えたようでした。父の気持ちも良く分かります」


おじさんは私の話を聞いてくれた。でも聞き終わった後、精気を失ったのではないかと思うくらいに、すごく落ち込んでいた。顔が青ざめている。私の手を引いて立ち上がったけど手が震えていた。おじさんはまたしばらくその震える手を合わせていたが、私の手を引いて急ぐようにその場を離れた。


帰りの電車の中でも、おじさんは青ざめていて身体が震えていた。アパートに着くとそのままベッドで寝入ってしまった。


おじさんはお昼を過ぎてもずっと寝ていた。私はおじさんが疲れているのだろうからそっとしてあげようと思った。それで自分の分のパンをコンビニで買ってきてお昼に食べた。それからお勉強をした。


その晩、おじさんは私に何もしようとしなかった。試験が終わった後は毎晩だったから不思議に思えた。おじさんとは始めのころはいやだったけど、このごろは快感を覚えるようになっていた。おじさんが私に優しくしてくれるようになったからだ。


私はおじさんに抱きついたけど、おじさんは私をただ抱き締めて眠っただけだった。昨日とはまるで別人のように思えた。


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