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回りだした歯車

いい加減フラグは回収しましょうか。


 「はい、頼まれていたやつだよ!どうだい出来は?」


 筋肉で盛り上がった両腕をタンクトップの服装で惜しみなくさらけ出す鍛冶屋の親父は、セラフィーネが一週間前に注文していた商品を大事そうに布に包んで店頭に持ってきた。

 注文していたものは日本刀を模した剣で、かなり難しい注文だったと思うが、親父も一度は見たことがあるようで快く引き受けてくれた。


 「ありがとうございますわ。形大きさ重さ、どれを取っても理想通りですわね。最高の仕事ですわよ」

 「おお!お嬢様にそんなに褒めてもらえるなんて光栄だぜ。これからも御贔屓にしてくれや」

 

 仕上がった剣は日本刀と同じく刀身が反っており、覗き込むセラフィーネの蜂蜜色の瞳が反射するぐらい磨き上げられている。そして同じく頼んでおいた鞘も受け取る。時代劇では下げ緒を刀に結んで腰に下げているが、セラフィーネが着用しているのはワンピースのようなドレスであるため、ベルトをオーダーメイドで用意してそこに下げることにする。初めて下げてみるが子供サイズに作ってもらったので想像していたよりかは軽く感じる。セラフィーネはテンションが上がりその場で何度かジャンプしたが、それでもベルトがずれないことを確認すると鍛冶屋の親父にお礼をする。


 「難しい注文だったと思いますが素晴らしい出来ですわ。本当にありがとうございますわ」

 「いえいえ。久々にワクワクする仕事だったよ。また頼んでくれよ」

 「はい。では失礼しますわ」


 もう一度丁寧にお辞儀してから店を出ると、外にいたルカとアルクがこちらを振り返った。2人ともセラフィーネの腰に下がった刀を見て顔を輝かせる。


 「それが頼んでたやつ?めちゃくちゃかっこいいじゃん!後でじっくり見せてよ」

 「誤って指を切らないのなら、貸してあげなくもないですわよ」

 「やった」


 視線が刀から動かないルカは置いといて、セラフィーネは頭の中で残りの予定を思い出していく。


 「えーっと、刀は受け取ったし、マーヤおばさんへの伝言は済ましたでしょう?あとは………花屋さんにお花を取りに行けばミッションクリアですわ!そしたらユノたちと遊びに行けますわね!」

 「その花屋とはあちらに見えるとこですか?」


 アルクが少し離れたところにある、多くの人で賑わった花屋を指さす。注文したのは母の侍女なのでセラフィーネも知らないが、手元のメモが示す場所と同じだ。


 「そのようですわね」

 「では私が取りに行ってまいります」


 ここにいてください、と一言残してアルクは人混みに紛れていった。

 特にすることもないので、行き交う人の波を眺めていたセラフィーネの肩をルカが叩く。振り返ると差し出される紙。


 「これ――――――………」









 




 「お嬢様!また来てくれてありがとう!」


 約一週間前と同じようにルーカスの家のノッカーを叩くと、今度はユノが勢いよく出迎えてくれた。すでに家の中には前遊んだ子供たちが待っていてくれて、最年少のリコリスがセラフィーネの腕を引いた。


 「早く遊ぼー!」

 「こらリコリス、お嬢様の腕を引っ張ったら駄目だろ」


 奥から出てきたルーカスが優しく咎める。近くの家の多くは酪農家で、家を空けている時間が長いため、よくルーカスたちの家に遊びに来るらしい。リコリスを注意する彼の表情はすっかり兄のようで、セラフィーネたちは微笑ましく思って笑った。


 「今日は遊ぶことが目的で来ましたからね。折角だしルカも一緒に遊びません?」


 セラフィーネが提案という形の巻き込みをする。すると被害者のルカは頬をひくつかせ、対するリコリスたちは顔を輝かせた。


 「ちょ、セラ………」

 「え!?お坊ちゃまも一緒に遊べるの?やったぁー!」

 「良かったですわね!ルカはかくれんぼが得意ですから鬼をやってもらいましょうか」

 「え、待って僕やったことないんだけど」


 勝手に進められていく話にルカがあわあわする。助けを求めるようにルーカスの方を向くと、肩に手を乗せて首を横に振られる。


 「諦めろ。ガキの頃は女子の方が全然強いんだ」

 「あっ………」


 一瞬で何かを察したルカは口を噤む。


 「それじゃあ60秒数えてね!範囲はちょっと広めでリコリスの家まで!」


 ユノがよーいスタート!と合図を出すとばらばらに散らばっていき、セラフィーネとアルクも一緒に逃げていく。ルーカスは留守番のため不参加で、残されたルカは諦めてカウントを始めた。











 後ろを振り返らずに一直線に走り続ける。今回は牧場外も範囲のため小道に出た。しばらく進んで木陰に隠れて様子を見る作戦に決めたセラフィーネは、前回同様ついてきたアルクをジト目で睨んだ。


 「だーかーらー、ついてきたら見つかる可能性も倍でしょう」

 「何かあってからでは遅いので」


 またも至極まっとうな意見に言葉が詰まる。


 「ところでセラフィーネ様。ルカ様はかくれんぼがお得意でないのでは………?」


 ずっと気になっていたのだろうか。恐る恐るという風にアルクが尋ねてくる。セラフィーネはそれに大きな瞳をぱちくりとさせて、腹を抱えて笑い出した。


 「あはは!アルクは優しいですねぇ。そうですわ。ルカはかくれんぼ初心者ですの。でも何だか上手そうじゃなくて?」

 「あー………私も同感です」


 今までのルカを思い出していたのか、アルクは遠い目をしながらセラフィーネに同意する。


 「何か足跡とかで見つけそうですわ」

 「耳とかめっちゃ良さそうですよね」

 「正解。ルカは目と耳がめちゃくちゃ良いですわ。ただ、鼻炎が悩みなんですの」

 「そうなんですか………よく知ってますね」


 若干呆れながらアルクが言うと、セラフィーネは超どや顔で、


 「双子ですから!」

 「親バカならぬ、姉バカって作っていいと思います」


 なんですのそれ!と講義を申し立てたセラフィーネだったが、不意にぴたりと動きを止めた。


 「………?」

 「アルク。変ですわ。さっきから不自然なほど音がしませんの」


 言われてアルクも動きを止めて耳を澄ませる。聞こえるのは木々が葉と葉をこすり合わせる音だけで、先ほどまでわずかに感じられていた子供たちの気配まで無くなっている。初夏のまだ涼しい風が2人の体温を奪う。


 「っ!まずいですわ!アルクは傭兵団に連絡を!」

 「セラフィーネ様は!?」

 「探しに行きますわ!きっと良くないことが起こってる!」


 アルクの制止を振り切り走ってきた小道を戻っていく。てっぺんから傾き始めた日が地面に影を伸ばしている。一緒に隠れた子供たちの場所は把握しているので、全速力で走りながら確認しているが誰も見つからず、セラフィーネの背中を冷や汗がつう、とつたった。


 「っ!ユノ!リコリス!カイト!リカルド!エルダ!返事をしてくださいまし!」


 叫んだ声も山彦のように響いて吸い込まれていった。脳内で警鐘が割れんばかりに鳴り響き、心臓の鼓動が独りでに加速していく。頭をよぎる最悪の事態から意識を振り切ろうと首を振り、もう一度駆けだそうと踏み出した瞬間――――


 「――――ガッ!?」


 強い後頭部への衝撃とともに、セラフィーネの意識は暗転した。




回収できました!

ようやく始まったのに夏は終わりましたね。

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