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何でもない会話が後に凄い物を産み出すことってあるよねっていう話


 ここは屋敷のから少し外れた飼育小屋。

 開いた窓の隙間から朝日が差し込み、舞う埃が反射してきらきらと輝いた。歩く度に軋む床の音に、鳥たちがこちらを振り向く。胸いっぱいに豊かな木の香りを吸い込んでセラフィーネは挨拶をする。


 「おはようございますわ」


 応えるかのように鳥たちが羽をわずかに動かした。セラフィーネも会釈で応じる。

 すると目的の人物が奥から顔を出した。


 「おはよう!セラフィーネちゃん!ルカはいないの?」

 「えぇ」


 母ルシアが清掃員の格好をして鳥の糞を片付けている。侍女が見たら倒れそうな光景だが、それは一般の貴族の話であり、ラピスリータにおいては通用しない。現にルシアの侍女も一緒に掃除をしている。

 そして何故鳥小屋が屋敷内にあるのかというと、少し前のセラフィーネの発言に遡る。連絡をもっと早くするために鳥を使ったらどうかという提案にルシアがものすごく乗り気になり、傭兵団を使って訓練しているところなのだ。そのため毎日ルシアは鳥小屋の掃除をしている。セラフィーネはそんな母に会うのと、鳥の様子を見にやって来たのだ。


 「一体どれほど大変なことなのかしらと思っていたけど、この子達賢いのよー。傭兵団同士なら手紙を送りあえるようになったわ」

 「ほんとですの?それはすごいですわねぇ」

 「さっすがローゼン様が捕まえてきた子達なだけあるわ!せっかくですしこの子達を使って何か面白いことを仕掛けられないかしら………」

 「モーニングコールの代わりに10羽ぐらい部屋に放ったらどうです?」

 「最高よ!今度するから楽しみにしててね!」


 和気あいあいと一家の主人にドッキリを仕掛けようとする2人を、メイドが呆れた目で見ていた。もちろんローゼンには心の中で合掌している。

 ルシアとセラフィーネがハイタッチをしていると、小屋の扉が音を立てて開いた。


 「セラいる?」

 「ルカ!どうなさったの?」


 ルカがアルクを連れてやって来たようだ。どうやらセラフィーネに用があるらしくちょいちょいと手で招いているルカの後ろに立つアルクは、鳥の数に驚いたようで目を丸くしている。


 「大したことじゃないんだけど、セラフィーネ大先生に力を借りようかと思って」


 天使のような顔面で、過去最高級の笑顔を見せてきた弟に嫌な予感がする。セラフィーネは眉をひそめて先を促した。


 「いやぁ先生!鳥たちの訓練も順調だとか!ここでもういっちょなにかいい案はありませんかね?」

 

 ゴマすりポーズをしながら頼んでくるルカ。その顔には笑みが隠しきれていないが。


 「はぁ………なんですのいきなり」

 「実はもっと領民たちの意見を取り入れるべきだと思うんだ」


 途端に真剣な顔になるのだから協力したくなってしまうのだ。うーんと顎に手を当てて考える。それが彼女の癖なのだ。

 そういえば、と前世にあったお悩み相談室みたいなものを思い出す。自由にお話しできる場所があればいいのではないだろうか。


 「例えばですわよ?屋敷側の人間とお話しできるカフェみたいなのを作ってはどうです?」


 セラフィーネの第二の提案を、ルカは顔を伏せてじっくり考える。彼の頭の中ではものすごい勢いでいろんな情報が回ってるんだろうなー、とその様子をぼんやりと見つめて待つ。

 しばらくして顔を上げたルカの顔は笑顔だった。


 「いいね。凄く面白いと思う。もっと距離も近くなるし、街の些細なことも知ることができるしね」

 「なら決まりですわね。あとはお父様に言えばいいですけど、そのお話を聞いてくれる人は誰がするのです?」


 使用人は仕事がある。傭兵なんてもってのほかだし、あとは誰が………

 黙り込んだ二人の後ろから、はーい!と明るい声が響いた。振り返る。


 「はいはーい!お母さん立候補しちゃうわよー!」


 ルシアがトングと塵取りを持ちながら右腕を上げていた。


 「お母様が?」

 「えぇ!なんだかとっても面白そう!辺境伯夫人というのは意外と暇なのよ。傭兵の訓練に付き合うしか暇つぶしは無いし。てなわけで私なんてどう?」


 意外と知られていない母の日常を知れたところで、ルカとセラフィーネは最適な人材を見つけた。

 明るくフレンドリーで話し上手聞き上手。男前で姉御肌なルシアは良く使用人の相談にも乗っている。さらにローゼンに直接伝えられる立場なため実現しやすい。そしてなによりそれを楽しめること。

 セラフィーネとルカは顔を見合わせた。


 「採用!!」

 「やったわー!」


 トングと塵取りを持った腕を振り回しながらルシアが喜ぶ。飛び散った糞を慌てて侍女が回収しているが。


 「夕食の時にお願いしましょうね。場所は街の中に作っちゃいましょう!大体週2でいいかしら?」

 「十分だよ」


 せっかくだしおもてなしも私がしちゃおう!と貴族らしくない発想でテンションが上がっているルシアに呼応して鳥たちも鳴き始めたので、セラフィーネとルカとアルクは耳を塞ぐ。早速ローゼンにお願いしたらすぐに完成するだろう。午後三時のお茶会に町中の人々が集まりおしゃべりに花を咲かせる光景を想像して、セラフィーネは顔を綻ばせる。


 こうして他貴族の度肝を抜いたカフェ『止まり木の茶会』は始まったのである。



前回シリアスを匂わせておいてガン無視。

このカフェは美味しい紅茶とお菓子を出してくれます。皆さん来てください。

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