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海外から異世界に?  作者: 駿
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支社から出迎えが来てくれていた。


何度か来た国ではあるが、いつ来てもバイクが多いし若者が多い。


平均年齢が確か30歳ぐらいだったと思う。


日本は47歳くらいと聞いたが地方だと日中に出歩いているのはお年を召した人ばかりだ。


「所長、お腹空いていませんか?」と流暢な日本語で聞いてきた。


「そうだな、簡単な食べ物でも食べたい。」と僕が言うと空港近くのダウンタウンにあるピザ屋に案内された。


店の外観も味も悪くないのだが、ハエが飛び交っている。


日本だとありえないが日中気温が30度超えるこの国でエアコンすらない店もある。


ふたりでピザをつまんでいたら彼が「所長になられたのは喜ばしい事なんですが・・・」と歯切れの悪い事を言ってきた。


今のベトナムをとりまく環境が日本にとっては悪いと言いたいのであろう。


ベトナム以外のASEAN諸国でも中国や韓国に押されつつあるからだ。


「まあ不運だと嘆いても仕方ないさ。」と肩を窄めてぼくは苦笑する。


リストラされるよりマシだと思う事にしている。実際辞めると家のローンや養育費は払えないしなあ。


「そういえば物価はどうなの?」と僕が聞くと「以前所長が来られた3年前よりは上がっています。」とこたえてくれた。


「じゃ賃金も上がっているよね?」と言うと「それがそうでもないのです」と言われた。


以前、この国のワーカーといわれる人達の給料は月に1万5千円くらいだと聞いていた。


日本だとエアコンの設置だけでも月収が飛んでいくならエアコン設置なんて夢のまた夢だ。


しかしこの国の男女問わず、バイクと携帯は売れているようだ。


人口は日本より少し少ないようだが普及している携帯の台数は1億を突破しているという。


「所長はこの分野に手を出されるつもりなんですか?」と言うので「まさか。それは無いよ。」と笑った。飽和状態の市場に手を出しても旨味は残って無い。


「じゃどうするつもりなんです?」このままだと前の所長と同じ道をたどりますよと言いたそうだ。


ホーチミンの人口は300万とか500万人と言われている。在住の日本人は約1万。


ここに来る前に調べた話だと以前の所長はこの取り込みを模索していたようだ。


「売れる物なら何でも売れば良いのにな。」とぼそっと僕が呟くと「やだなあ。悪徳ブローカーみたいですよ」と彼が笑う。


もちろん道徳や理念、ルールや法律は無視出来ないがあまり縛られすぎると何も出来ずに終わりそうだ。


「で、どうするんです?」とまた聞いてくる。


「そこで質問するけど東京から半径1000キロだとどれくらい人口がいると思う?」少し彼は考えて「韓国が入れば1億5千ってとこですかね?」と言う。


「そうだな僕もその通りだと思う。じゃホーチミンから半径1000キロだとどれくらいだと思う?」と言うと「中国も入るから15億くらい?」と答えた。


「違うな。インドやインドネシアも入るからその倍くらいになるよ」と言うと彼は驚いていた。「しかし・・・」と彼が言って考えこんだ。


もちろん言語の違いや文化、なにより接点が無いと言いたいのだろう。


僕もいきなり他国と取引が出来るなんて夢を見ている訳では無い。


他の営業所や支局と競合する訳にもいかない。


ただホーチミンしか仕事出来ないと若い彼らに思って欲しくないだけだ。


僕が本社でこんな事を言えば、不穏分子扱いされるだろう。


「さて」そう言ってタバコを吸い始めると「あれ?タバコも酒も本社になって止めたと言ってませんでしたか?」と指摘されてしまった。


もちろん病気して医者から長く生きられないと言われ、さらに命を縮める行為だと自覚しているが今や何も楽しみらしきものがない。


自分なりの努力して病気になり離婚して海外に飛んでって考えたら凹みそうだ。


医者からはストレスが原因だと言われた。


その時に「俺の身体はそんなヤワじゃねえよ」と叫んでしまった。


日本人ならみんな大なり小なりストレスを抱えていると思う。


それなのに何故自分だけがこんな生死を彷徨う話なんだと思った。


八つ当たりだと自覚していたが言わずにいられなかった。


お医者さんに申し訳なさでいっぱいだ。


「そろそろ出ますか?」と彼から声をかけられた。


「今日だけは五つ星のホテルを予約してあります」と言われ送ってもらった。


明日からは宿舎暮らしになるんだろうなと少し沈んだ気分になる。


トイレは昔の主流だったボットンだ。もちろん風呂なんてない。


暑いこの国にはシャワーしかない。今日はこのホテルでいっぱい大してやると決意してたらホテルに着いた。


「明日の朝、8時にお迎えにあがります。今日は面白い話をありがとうございました。明日から所長と仕事出来るのは楽しみです。相変わらず大胆な事考えてますね。」


ヤメロ 顔を赤らめるな。夜は大胆どころか小心者だ。


なんせ離婚するぐらいだ。俺はストレートで男に興味ない。


ホテルに入ってきたらぶっ飛ばす。と心の声が聞こえてくれたのか彼は帰ってくれた。


ホテルの軒先で一服して部屋に入る。


シャワーを浴びベトナムの安い333ビールを煽る。明日の朝、着るスーツを用意して。


これが最後になると夢にも思わず眠りにつく。

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